#8
>>Towa
「なんか場違いな船が浮かんでるとは思ってたが、まさかアレが嬢ちゃん達の船だったとはなぁ」
「アルカンシェル。すごい船」
「そうか、きっと超凄いんだろうな?」
「うん、超凄い」
あ、このやりとりなんだか懐かしい。
たぶんボースンさんは昔こんなやりとりをしたことを覚えてくれてたんだろうな。
昨夜係留したボートに向かいながらそんな事を話していた私達だったけど、ボートを見てボースンさんが目をひそめた。
「えらく派手だな?」
「うん。私が塗った。どうよ」
「ちっこい嬢ちゃんはシンガーとしてのセンスは超一流だが……アーティストとしては、ちょっと浮世離れしすぎじゃねぇか?」
「解せぬ」
モーリス商会で貰ったボートは地味な灰色だったから、私達が使う一艘は見分けやすいようにカラフルに塗ってみたんだよね。
私の碧とアイリスの朱。2人乗りだけど、バカンスに来てないアリサの蒼とマリエッタの黄色も加えてみたんだけど、ボースンさんにはこのアートな感性が判らないようだ。
「でも私、立派な航宙船乗りになった」
「ほう?」
「スラリーが美味しくなった。グリットも常備してる」
「はっはっはっ!そりゃ確かに立派な航宙船乗りだ!嬢ちゃん、キャメルに乗った当初は飯が不味いって泣いてたのにな」
「私は成長する子だから」
「……成長、してるか?」
「ボースンは失礼」
私の胸を見てそういう言ったボースンさんに軽くパンチを入れて、私達は港を離れてアルカンシェルへと向かう。
ラボの港から2Kmぐらい先にアルカンシェルは停泊し、海の上に浮かんでいる。
アルカンシェルが着水した時、私は最初そのまま船体が海に沈むんじゃないかと思ったんだけど、金属の船殻を持つアルカンシェルが普通に海に浮かんでいてすごく驚いた。
アイリスは歩く目です?とか何故か丁寧に良く判らないことを言ってたけど、私が知らないって言ったらスクールで習うことだと怒られたんだよね。
腑に落ちない。
「おい、嬢ちゃん……あの船、なんでああなってる?」
「ボースン、スクールで習わなかった?歩く目の原理」
どうやらボースンさんもスクールで勉強しなかったタイプのようで、私は少し得意げな気分になってボースンさんに教えてあげた。
だけど、ボースンさんの反応は私の予想とは違った。
「アルキメデスの原理なら知ってるが、あの船の喫水線おかしいだろ。なんであんな船底ギリギリの所に喫水線があるんだよ!」
「歩く目です?」
「……だからな、その原理に反してるんだよ、あれは」
え、聞いた原理と違うの?
もしかして私、アイリスにからかわれてた?
後で姉を問い詰めようか、いやその前にアルカンシェルで留守番してるサクヤに確認しておいた方がいいかな?
そう思いながら、私はボートを船首の双胴部分の内側、いつもならリュミエールをドッキングさせているハッチに寄せた。
「えらく変わった所にハッチがあるんだな?」
「アイリスが言ってた。メインハッチはボート横付けしずらい」
「もしかして、このハッチに合わせて喫水線を調整してるのか……?」
ボースンさんは何か考え込んでるけど、まぁ便利ならそれでいいと私は思うんだ。
リュミエール用のハッチはもともとスライドするシートでブリッジと行き来する形だったんだけど、私がリュミエールで怪我した際に運び上げるのが大変だったらしく、アイリスが普通のリフトに改修したんだよね。
荷物の搬入も楽になったし、リュミエールに乗る機会が多いマリエッタも喜んでたっけ。
で、そのリフトで私とボースンさんはアルカンシェルのブリッジへと上がった。
『マスター、お帰りー。何か忘れ物?って、その爺さんだれよ?』
「ボースン」
『甲板長?』
「ああ、俺は機関士ドクター・ボースンだ。もっとも引退済みだがな」
『退役士官どのでしたか!失礼しました!』
私達を出迎えたサクヤ……の立体映像は、最初ボースンさんの事をジト目で見ていたけど、彼が名乗ると態度を一変させて最後は敬礼とかしてる。
なんだろう、この変化。
「その敬礼……あんた、海軍か?」
『はい、人類軍戦術オペレータとして作られましたサクヤと申します!』
「そ、そうか……」
そう言えばサクヤ、機族のボディがあったときは戦艦のオペレータも務めてたって言ってたっけ?
ベテラン航宙船乗りであるボースンさんに敬意を払うのはそのときの記憶なのかな?
いや、それよりも私はサクヤに聞くことがあった。
「サクヤ。この船なんで浮かんでるの?」
『え?昨日ちんちくりんがアルキメデスの原理だって説明してたっしょ?』
「喫水線が低すぎると思うんだが」
『重力制御で船体重量を軽減し、ハッチの位置を調整しております!』
「サクヤ、私とボースンで態度違いすぎ」
『だって、そうプログラミングされてるし!アタシの自由にならないし!』
「私は艦長。もっと敬って」
私とサクヤがそんな事を言い合っていると、ボースンさんが少し疲れたように言った。
「いや、それならなんでわざわざ水面に浮かべてるんだ?そこまで重力制御できるなら、水面に接する必要すらないだろ……」
『雰囲気作りだと言っておりました!』
「……うん、確かアイリスが言ってた。船は海に浮かぶもの」
「そうか……わかった」
その後、ボースンさんに船内を案内したけど、思ったよりもリアクションは薄かった。
これまで初めてアルカンシェルに乗った人は大抵色んなところで驚くんだけどね。さすがベテラン船員だけあって航宙船のことでは驚かないのかな。
「ボースン、驚かない?」
「いや、驚いてるぜ。だかこいつはちっこい嬢ちゃんの船だからな。何があっても不思議じゃねぇ」
「褒められた」
「まぁ、褒めてる部類に入るか、これは」
そんな事を言いながら私はボースンに船内を案内した。と言ってもアルカンシェルは小型船だからそんなに見て回るところがないし、機関部とかはブラックボックスになってるから見せられる部分も少ないけどね。




