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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部5章『終の海』ヘカテー-星海の惑星
512/522

#6

>>Towa


 私はいつも通りTシャツの上からジャケット。アイリスはここがパブだからといって少しカジュアルな感じがするワンピースを着てる。

 リゾート地なのに露出度は少し控え目だね。


「まぁお年寄りとは言え男性ばかりからね。あまり扇情的なのは良くないでしょ?」

「イケおじが沢山いた」

「まぁ、シブいおじさま方なのは否定しないけど、ちょっと年上過ぎるでしょ」


 そんな事を言いながら私達は階下のパブへ向かおうと部屋を出た。

 すると丁度階下から老人が1人、階段を上がってきた。


 私達と同じ宿泊客かな?

 右足が不自由なようで杖を突いている。

 私が手助けしようと思って近づくと、そのお年寄りは私に気付いたのかこっちを見た。


 しばらく黙って私の方を見ていた老人は、驚いたような表情で言った。


「……もしかして、ちっこい嬢ちゃんか?」

「私はちっこくない。アイリスより大きい」

「そっちはでっかい嬢ちゃんか!」

「このやり取り……もしかして、ボースンさん?」

「ああ、機関士ドクター・ボースンだ。もっとも機関士とドクターは元職だがな」


 そういってにやりと笑って見せた顔は、間違いなくボースンさんだった。

 故郷を旅立つときに乗ったキャメル067の乗員で、機関士と船医を務めていた人。


 キャメルでお世話になったときは40代後半ぐらいに見えたけど、今のボースンさんは70代か、80代か……。

 あの時から100年以上経ってるけど、航宙船(ふな)乗りだからね。地上の人と老化の速度が違うのは不思議なことじゃない。

 ボースンさんと言えば色んな話をしてくれて……あ、そういえば怪談で怖がらされたこと、思い出した!


「ボースンさん、どうしてここへ?」

「それはこっちの台詞だ。ここは嬢ちゃん達が来るような所じゃねぇぞ」

「どういうことですか?」

「立ち話もなんだ。俺の部屋へ来ないか?」


 アイリスの言葉にそう言ってボースンさんは杖で私達の二つ隣の部屋を指した。ボースンさん、ここに泊まってたんだね。

 男性の部屋へ行くのはちょっとどうかと思ったけど、でもボースンさんとは2ヶ月間同じ船で過ごしたんだし、今さらか。

 でも積もる話っていうやつがありそうだし、ごはんは取ってきておいた方がいいかな?



 その後、私達はボースンさんの部屋にハンマーヘッドのフライをはじめとした料理と飲み物を持ち込んで、ささやかな再会の宴を催した。

 ボースンさんは随分前に航宙船(ふな)乗りを引退していて、この惑星ヘカテーには1年前に来たそうだ。


「船長達は元気?」

「ああ、オットーもジョウもまだキャメルで宇宙を飛び回ってるぜ」

「副長は?」

「アドバーグの奴は……死んだ」

「え?」


 キャメル067のクルーの近況を聞こうと思っていたんけど、副長だったアドバーグさんが死んだと聞いて私は言葉を失った。

 そういえば船長がまだキャメルに乗っているのに、同世代だったボースンさんが先に引退してるのも不自然な気がする。


「差し支えなければ、何があったか教えて貰えますか?」

「でっかい嬢ちゃん、前みたいに普通に話してくれ。その方が俺も楽だって言ったよな?」

「わかった。じゃあ、改めて……アドバーグさんは、どうして?」

「事故だ。俺とアドバーグが事故っちまってな」

「もしかして、私のせい?」


 事故と聞いて私が真っ先に思い出したのは、キャメル067で遭遇したレゾナンスドライブ停止事故だ。

 あの時、私はキャメルのC3を再調律して、かなりのパワーアップをさせたんだけど……もしかしてそれが原因で?


 私のせいでアドバーグさんが死んだんじゃないかと思うと、心臓の鼓動が早くなるのが判った。


「いや、嬢ちゃんは関係ねぇ。キャメル067は今も絶好調で事故知らずだ。俺らは地上勤務の際に貨物の崩落事故に巻き込まれちまってな……」


 そう言うとボースンさんは事故のことを教えてくれた。

 航宙船のクルーは基本的にずっと宇宙暮らしだけど、船がドック入りする時には例外的に地上勤務を行うことがあるらしく、私達を乗せたあと何度も航行を行ったボースンさん達はキャメル067のドック入りに合わせて地上勤務に就いていたそうだ。

 そしてその地上勤務の最中、コンテナヤードで雑に積まれていたコンテナが崩落してボースンさんとアドバーグさんはその事故に巻き込まれたらしい。

 そしてアドバーグさんは即死。ボースンさんは重傷を負った、って。私のせいじゃなかったとはいえ、その話は衝撃的だった。


「そんなことが……」

「まぁ、事故で死ぬのは航宙船(ふな)乗りには似合いの最後さ。ただ、地上で死ぬのは頂けねぇがな」

「ボースンさん、怪我は?足、引きずってたよね?」

「ああ、俺も足と目をやっちまった。足はともかくとして技師としても医者としても、視力が落ちたのは致命的でな。もっとも、この歳になれば誰でも老眼で見えづらくなるが」


 そう言ってボースンさんは笑うけど、航宙船(ふな)乗りが航宙船に乗れなくなるのは、簡単に割り切れる話じゃなかったんだろうと思った。


 結局ボースンさんは事故のあとキャメルを降りて、キャメルトレーダーで地上勤務をしていたらしい。

 その仕事も3年ぐらい前に引退して、1年前からヘリオスで老後の生活を送っていたそうだ。


「じゃあ、ヘカテーへは静養に?」

「……そうか、嬢ちゃん達は航宙船(ふな)乗りがこの星へ来る意味(・・)を知らねぇんだな」

「意味?」

「ああ。ここはな、(つい)の海なんだよ。宇宙で死ねなかった航宙船(ふな)乗り達が、最後に旅立つ場所なんだ」


ボースン達キャメル067のクルー達とのエピソードはこちらになります


第1部2章『駱駝に捧げる女神のアリア』キャメル067-初冒の星船

https://ncode.syosetu.com/n0802lr/17/

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