#4
>>Iris
惑星ヘカテーの管制官は機族だった。
少女型のボディで外見年齢は人間なら13、4歳ぐらいだろうか?
茶色の柔らかそうな髪をショートカットにした、穏やかな造形の顔をしている。声も外見年齢相応だけど……彼女が本当に「マリナ」なら、その年齢は少なく見積もっても1200歳以上だ。
「こちら航宙船アルカンシェル、モーリオンギルド所属のアイリスです。休暇で立ち寄らせて頂きたいのですが、かまいませんか?あと、ヘリオスの軌道ステーションで貴女に渡すようにと物資を預かっています」
『まぁ、ありがとうございます。軌道ステーションのポートは空いていますけど……直接降りられますか?』
どうやらマリナはアルカンシェルのことを……ひいては私達のことも知っているようだ。
そうでなければ、航宙船に向かって直接大気圏内へ降りるか、とは聞かないだろうからね。
「直接降りられる場所はありますか?」
『着地はできませんが、着水ならどこにでも』
マリナが言うようにこのヘカテーは海洋惑星で陸地は小さな島嶼部だけだ。
住民数から考えてもエアロプレーン用の空港が整備されているとは思えないし、そもそもそれだけの広い土地が存在していない可能性もある。
なら船を降ろすのは陸地ではなく、海の上になるいうのも納得がいく。
彼女の意図を理解した私は軽く頷くと通信画面ごしにマリナに応じる。
「ああ、なるほど……では軌道エレベータの近くへ着水させて頂きます。荷物は取りに来られますか?ボートも何艘か運んでいるのですが」
『あら、ボートもですか?それはありがとうございます。でも数が多いと曳航できませんね……では浮遊プラットフォームを出しますので、その上に一旦着地して頂けますか?』
私がマリナと降下の打ち合わせをしていると、トワがじっとマリナのことを見ていた。
機族が珍しい?
いや、そんな事はないはずだ。トワだって機族の知り合いはいるし。
なら……彼女が身に纏っている水夫服のようなものが気になるんだろうか?
そんな事を頭の隅で考えていた私がマリナとのやり取りを終えたタイミングで、トワが口を挟んできた。
「マリナ。酒場の経営してる?」
『酒場……ええ、パブなら』
「やっぱり」
……何がやっぱりなんだろうか。
私は基本的にトワのことが大好きだし、溺愛してる自覚もある。けど、時々この子が言ってることが理解出来ないことがある。
今の酒場発言もだけど、それ以上に理解できなかったのは、続けてトワが口にした言葉だった。
「ジョッキで酔っ払い殴るの?」
『……はい?』
「ちょっ、トワ!?マリナさん、すみません!この子の言うことは気にしないでください!ではまた後ほど!」
私は慌ててそう言いつくろうと失礼にならないギリギリの早さで通信を切った。
うん、今日のトワはいつもよりもぶっとんでる気がする。
そんな所も可愛いけど、一応あまり訳の分からないことを言って他人を困惑させないよう釘を刺しておかないと。
それにしてもマリナ、か……私が調べた限りでは惑星ヘカテーについての情報は殆ど登録されていなかった。
ヘカテーには統治機構の類いが存在しておらず、惑星についての情報を発信する者が誰もいなかったんだ。
ただ1200年ほど前にヘリオスへ人類が入植を開始した時点で既にマリナと言う名前の、機族の生物学者が研究と称してヘカテーに拠点を構えていたことだけは古いデータに記載されていた。
だから私の通信相手がそのマリナ本人なら……私達よりも随分と年上ということになるわけだ。
『へー、F-01A14型かぁ、珍しいね』
「サクヤ、何それ」
『ん、さっきの子のボディ形式。A14系の最初期タイプだよ。アタシらに近い古株だね』
「そうなの?」
サクヤの言うことが本当なら、マリナはやはりあのマリナなんだろうね。
彼女がここで何をしているのか気にならないと言えば嘘になるけど……まぁ、今回は休暇だからね。ホステスさんに挨拶はするけど、それ以上深入りするのは止めておこう。
マリナが出してくれた浮遊プラットフォームは軌道エレベータのある島の沿岸に設置されていた。
一旦アルカンシェルをそこへ駐機し、運んできた荷物を全部搬出してからアルカンシェルを少し沖合へと移動して着水させる。
いや、小さな島だからね。アルカンシェルが港の近くにいると船の出入りが出来なくなるんだよ……。
なので私達は沖合から島……他の星なら星都にあたるんだけど、ここでは単にラボと呼ばれている、その島へと、私達の取り分であるボートで移動することにした。
私達がボートでラボへと戻ったときには浮遊プラットフォームは既に片付けられていて、物資も全てラボのしかるべき所へと搬入されていたようだった。
6艘のボートは見当たらないけど……うん、私達が使ってるやつ以外は組み立て前だからね。
港へ上陸した私達をマリナが迎えてくれた。
通信では判らなかったけど、かなり背が低い。私とトワの中間ぐらいかな?
通信はバストショットだったけど、全身をみると白地に水色の襟が付いた水夫服……いや、女の子用だからセーラー服と呼ぶのが正しいかな?
ともかく、そういう衣装を身に纏っているのが判った。
「あらためて始めまして、アイリスです。しばらくお世話になります。こちらは妹のトワ。先ほどは失礼な事を……」
「いえ、急に面白いことを言われたので驚いただけです。初めまして、アイリスさん、そしてトワさん」
「うん。さっきはごめん。ジョッキで殴らないで」
「トワ……」
ジョッキの話がどこから出てきたのかは謎だけど、良くわからない事を言うトワを軽く睨み付けてから、私達はマリナが経営するというパブへと案内された。




