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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部5章『終の海』ヘカテー-星海の惑星
509/524

#3

>>Towa


 ボートを買いに来た私達は何故か色んなボートの映像が表示された華やかな店頭ではなく、奥の商談室らしきところへと通された。

 お店に入って直ぐの時は普通に応対してもらってたんだけど、私がヘカテーへ行くって言ってから急に店員さんの態度が変わったんだよね。


「お待たせしました。当商会の会頭、モーリスです。それで……ヘカテーへお2人で行かれるとの事ですが」

「はい。それが何か?」

「失礼な事を伺いますが……お客様方のどちらかがご病気なのでしょうか?」


 ん?この人、何を言ってるんだろうか。

 私もアイリスもセレスティエルで病気にかからない……のは知らなくても当たり前だけど、私達はどうみても健康体にしか見えないはずだけど。


「いえ、私も妹も至って健康です」

「そうですか……では交易に?」

「いえ、休暇です。何か問題でも?」

「……申し訳ありません、私共の勘違いでした。それで、船がお入り用とか……」


 モーリスという会頭は頭を下げると船の話を始めた。

 いや、船を買いに来たんだからそれで問題無いんだけど、さっきの前置きはなんだったんだろうか。

 アイリスも不審げな目でモーリスを見ているけど、2人乗りのボートが欲しいと告げると、モーリスは再び私達に質問を行ってきた。


「失礼ですが、星外へボートを持ち出されるということは航宙船をお持ちでしょうか?」

「ええ、まぁ」


 何でボートを買うのに航宙船の有無を聞いてくるんだろうか?本当に良くわからない人だ。

 私はここでボートを買うのを止めた方が良いような気がしたんだけど、次にモーリスが言った言葉でその考えを撤回した。


「よろしければ、お客様の航宙船で当商会のボートを運んで頂けませんか?5艘以上運んで頂けるのであれば、1艘を自由に使って頂いて構いません」

「どういうことですか?」

「いえ、実はヘカテー行きの貨物便は年に1便ほどしか出ないのですが、ヘカテーからボートが急ぎで必要だと発注が来ておりまして。しばらく配送予定が組めずに困っていた所なのです」


 つまりボートを運ぶと1艘を運賃代わりにくれるって話だよね。ボートってちょっとお高いけど、数艘のために貨物船を仕立てて運ぶ程のものでもないし。

 私達にとってはついでに運べば無料でボートを貰えるならお得な話かもしれない。


 アイリスは黙り込んで何故か難しい顔をしているから、ここは私が話を進めよう。


「ボートのサイズ、教えて」

「はい……運んで頂きたいのはこちらの2人乗り型でして……」


 そう言ってモーリスが提示してきたデータはまさにボートだった。ただ装飾らしいものはなくて、機能性重視。フォトン推進器が付いてる、手漕ぎじゃないやつだね。

 私は寸法のデータをアルカンシェルに送って何艘ぐらい詰めるかサクヤに確認して貰った。


 結果、答えは7艘だった。うん、無料ボートを貰えるだけ積めるね。これはラッキーだ。


「アイリス、ボートをゲット」

「うん、それはいいんだけど……」

「お引き受け頂けるのであれば、軌道ステーションにある在庫を搬出いたします。直ぐに出発されますか?」

「ええ、まぁ」


 えらく前向きだよね、モーリス会頭。

 まぁ、ボートは来週にならないと出荷できないとか言われたら休暇が終わっちゃうから、私達には好都合だけど。


 アイリスは最後まで思案顔だったけど、思わぬところでボートをゲットできて私は満足した。



 アリサ達にボートをゲットしたことを伝えて、私とアイリスはそのままヘカテーへ向かうことにした。

 アイリスは難しい顔をしてフォトンタブで何かを調べていたけど、軌道エレベーターに乗ったタイミングでぼそっと言った。


「なにか、あるよね」

「何が?」

「だっておかしいじゃない!ヘカテーって人口400人以下なんだよ?そんな所が急にボートを何艘も欲しがるなんて。この人数だと全員一所に集まってても村レベルだし、自給自足の生活ぐらいしか営めないよ?だからきっと、何かあるんだ」


 私達の故郷は人口2000人ぐらいだったから、あの1/5か……確かに、ちょっと寂しい感じかな?

 でもそんな人数だと逆に何もないんじゃないかな。


「アイリス。なにもないがある」

「え?それ、どういう……」

「船を作れる人もいない。だから、嵐で船が沈んだら困る」

「……まぁ、そういう考え方も出来る、かな……?」


 私の言葉にアイリスは納得しきれないという顔をしている。

 まぁ、行ってみれば何があって何がないのかは判るだろう。


 軌道ステーションへ上がった私達はモーリスさんの管理している在庫からボートを7艘引き取った。

 搬入作業をしてくれた人が行き先を聞くので、ヘカテーだと答えると作業員の1人がステーションの方へ走って行って、しばらくすると大きな箱を抱えて戻ってきた。


「お嬢さん方、ヘカテーへ行くならこれもついでに運んでくれないか?」

「これ、何?」

「酒だよ。船乗り達への差し入れだ」

「わかった」


 私がそう言って箱を受け取ると、さらに後ろから何人かの男の人がそれぞれ荷物を持ってきた。

 どうやら、便乗して色んな荷物を届けさせようというつもりらしい。


「これはブラウン商会からの差し入れだ」

「こいつはキケロ交通からだ」

「フーラス運送から」

「キャメルトレーダーからもだ」

「ヘリオス第一貿易からも、どうぞ」

「ちょっと待って、どういうこと?」


 私が次々に差し出される荷物を受け取っていると、目を丸くしていたアイリスが我に返ったのか男達を止めてくれた。

 うん、さすがにこれ以上荷物を載せられると低重力でもきついからね。主にバランス的に。


「ああ、すまないね。ちゃんと船まで運ばせて貰うよ」

「いや、そうじゃなくて!なんでこんなに物資が集まってくるの!?」


 アイリスの言葉に、最初にお酒を渡してきた人が代表して理由を教えてくれた。

 なんでもヘカテーは年老いた航宙船乗り達が引退した後に暮らしている静かな星らしく、彼らが現役時代に所属していた会社が老船員の支援を行っているんだそうだ。


 本来であれば年に一度の貨物船でまとめて物資を運ぶらしいけど、今回は私達がヘカテーへ向かうと聞いて急遽ヘカテーへのカンパをかき集めてきたんだって。


「それ、福利厚生的なものですか?」

「先達への純粋な敬意を込めた贈り物だよ。ま、会社が経費を出してくれてるけどね」

「誰に渡すの?」

「荷物なら、マリナに渡してくれたら大丈夫だ」

「マリナ?」

「ああ、世話役みたいな人だよ、たぶん管制も彼女が担当しているはずだ」

「わかった」


 彼女って言ってるし名前からすると女の子かな?

 いや、引退した船乗りと一緒にいるってことは、おばあちゃんかもしれない。

 そう思った瞬間、私の頭の中でマリナはおばあちゃんのイメージになった。


 船乗りの相手をしてるんだから、たぶん肝っ玉ばあちゃんに違いない。

 きっと酒場とか経営してて、酔っ払い船員をジョッキで殴りつけて叱り飛ばす感じの人だろうね。私もジョッキで殴られないように注意しないと。



 預かった荷物を積み込み、私達はヘリオスを出港した。サクヤが言うにはヘカテーまでは20分で到着する距離らしい。

 え、何それ近くない?


「ヘカテーはヘリオスと恒星のL4点にあるからね。ここの恒星とヘリオスの距離がだいたい1AUだから、ヘリオスからヘカテーまでも同じ距離だよ」


 アイリスはそういってヘカテーの位置を教えてくれた。

 なんでもラグランジュポイントという重力のバランスが取れる場所があって、その中のL4と言う場所にヘカテーがある。

 で、そこまでの距離はヘリオスと恒星の間の距離と同じぐらい……つまり恒星とヘリオス、ヘカテーで正三角形を描く位置関係で、そういう配置の星をトロヤ惑星って呼ぶらしい。


 うーん、判るような判らないような……でも、ヘカテーがすぐ近くだっていうのは良くわかった。

 だって現にアイリスがヘカテーの場所を説明してくれている間に、アルカンシェルの船窓に青い星が見えてきたからね。


「うわぁ……あれはすごいね」

「真っ青」

「サクヤ、あの星の海洋比率って判る?凍結していない見えてる側だけでいいけど」

『94.7%だってアーちゃんが言ってるよ』

「起伏の少ない地形なのか、水の量がやたら多いのか……いや、でもあそこまで海!って言う星も珍しいね。衛星はなし、大気の状態も安定してるから海はかなり静かそうだうね。波乗り出来ないんじゃないかな?」

「今回は魚を食べるのが目的」

「船を浮かべて穏やかに釣りをするなら問題無さそうだね。サクヤ、ヘカテーの軌道ステーションに入港申請しておいてくれる?」

『はいよー』


 そう言うとサクヤはヘカテーのポートコントロールを呼び出したけど、応答が無いらしい。

 あれ?何かあったのかな?私とアイリスが不穏な空気を感じて顔を見合わせていると、しばらくしてからホロディスプレイに女の子の顔が浮かび上がった。


『すみません、離席していました。ずいぶんと季節外れですが、入港申請ですか?』


 ヘリオスの人達が管制はマリナが行っていると言っていた。ということは、今私が見ているのがマリナなんだろう。

 ……うん、たぶんおばあちゃんだね。でも、彼女の顔は誰が見ても少女だ。


 つまり、マリナは……人間じゃなくて機族(マシナリィ)だったんだ。


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