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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部5章『終の海』ヘカテー-星海の惑星
508/531

#2

 私はトワとマリエッタが向かったドローンガレージへと足を運んだ。

 ヘリオスは工業技術にも秀でているから、市中に個人所有のドローンをカスタマイズするガレージが幾つか存在するという話はマリエッタから聞いていたんだけど……これは思ったより壮観だね。

 てっきりジャンクショップか場末のビークル整備工場みたいなイメージだったんだけど、ガレージの名に反してそこにあったのは最新の技術プラントと見まごうような立派なファクトリーだったから。


「アイリスさんっ、こっちですっ!」

「マリエッタ、どうだった?ブリギッタの改修できそう?」

「はいっ!でも部品を集めるのに5日ぐらい時間が掛かるらしくてっ。残念ですけど今回の滞在中には間に合いませんっ!」

「なら、丁度良かったかな?」

「はひっ!?」


 私はマリエッタに1週間の休暇を取ったこと、そしてアリサがこのヘリオスへ残ることを説明した。

 そしてトワ次第だけど、私はヘリオスの双子星であるヘカテーで過ごそうかと考えているとも伝えた。


「そうなんですかっ!?うう、わたしもアイリスさんとバカンスしたいですけど、ブリギッタの方も……!」

「バカンスは次の機会があるけど、ブリギッタの方は?」

「ううっ、あのパーツ滅多に手に入らないんですぅ!」


 そういうとマリエッタは苦渋の選択だと言いながらもヘリオス残留を決め、その場でブリギッタのパーツ交換を予約しに行った。

 うん、行動早いよね、あの子。


 で、トワの方は……。

 周囲を見回すと、ファクトリー内部をフラフラと歩き回り、いろんな所をのぞき込んでいる妹の姿が目に入った。

 あの子もマリエッタほどじゃないけど、こういう機械モノが好きだからね。


「トワ?」

「アイリス。ここ、面白い」

「そっか。あのね、次のミッションが入ってないから1週間の休暇を取ったんだけど」

「ほほう」

「ここで過ごすのと、お隣のヘカテーで過ごすの、どっちがいい?」

「ヘカテー?」

「うん。海洋惑星だって。釣りでもしながらのんびりできるかなって思ってるんだけど」


 私の言葉にトワは小首をかしげてしばらく考えた後に言った。


「魚、食べたい」

「釣らないと食べられないけど……判ったよ。あとね、アリサとマリエッタはヘリオスに残る予定。私と二人だけなんだけど、いい?」

「そうなの?でも、アイリスと一緒なら、いい」

「じゃ、そうしようか。ところでトワ、釣り船のレンタルした方が良いと思う?それともアルカンシェルで海に浮かぶ方がいい?」

「どっちもやりたい!」


 次の答えは即答だった。

 そうか、無理にどちらかにしなくても両方楽しめばいいのか。


 トワらしい答えに、私は微笑みを返した。

 でもプレジャーボートって、どこで手に入れるのが良いんだろうね。



 その後、レジャーショップで星外レンタルを断られた私たちは、ショップ店員の助言に従いレジャー商品を扱う商会へと向かった。

 まぁ、ボートを星外へ持ち出す酔狂な人間なんていないだろうから、レンタルっていう考え方自体に無理があったのかもしれない。


 ヘカテーには商店が無いらしく、現地でボートをレンタルするのも購入するのも難しいと聞いたので、ボートはヘリオスで購入して自力でヘカテーへ輸送。

 休暇が終わったら現地で誰かに引き取ってもらうことにしたんだ。


 私たち4人全員で乗るなら大きめのボートが必要だけど、トワと二人きりなら小型のボートでいいし、そう高くもないだろうからね。


 そんな事を考えながら町中を歩いていた時に、トワが妙に町中に詳しいことに気がついた。

 そういえばヘリオスへの航路設定をした際、寄港回数が1になってたっけ。


 私がアルカンシェルに乗った後にヘリオスへは寄港していないから、きっとトワが独り旅をしていた頃に立ち寄ったんだと思うけど。


「ね、トワ?ヘリオスって来たことある?」

「ある」

「あ、憶えてたんだ。ギルドのミッションで来たの?」

「ううん。落とし物を届けに来た」


 落とし物?恒星間での落とし物というのはちょっと想定外の答えだった。


 どういう事かと問う私にトワが語ったのは、アルカンシェルと出会った小惑星での出来事。

 そこでトワはスターチャートを手に入れるために、墜落した航宙船から航路データを回収する必要に迫られたらしい。そしてトワがチャートを発見した船というのは……。


「キャメル060。ここはキャメルトレーダーの本社がある」

「なるほど、遭難船の遺品を届けに来たのか……」


 なんでもG15の星に墜落していたキャメルトレーダーの航宙船から私物と思しき記録媒体を手に入れて、それを会社に返却しに来たのだそうだ。

 それは道義的に正しいことだけど、あの頃のトワは私の死という大きな喪失感を抱えていたはず。

 そんな状況で、さらに見知らぬ他人の死まで抱え込んだら……トワの心に大きな負担となった事は想像に難くない。


 今のトワはそんな素振りはおくびにも出さないけど、余計な事を聞いちゃったかな。


「ところでトワ、ボートの色は何色がいい?」

「……思いつかない」


 まぁ、それもそうだろう。話題を変えるために強引にした質問だからね。即答されればそれはそれで私も戸惑うし。


 それにしてもキャメルトレーダー、か……。

 その社名は私とトワが初めて宇宙を旅した時、故郷からペレジスまでの航路を運んでくれた航宙船が所属している会社の名前だ。


 私達が初めて乗った航宙船であるキャメル067のクルー、オットー船長達はまだ宇宙を旅してるんだろうか。


 あの船旅は私の主観ではほんの数ヶ月前の出来事だけど、惑星時間には100年以上前の出来事だ。

 とはいえ亜光速で宇宙を旅している彼らの時間の流れは、きっと私達の時間とそう違いはないはずだ。


 きっと彼らは今も、トワが調律したC3を積んだ航宙船で旅を続けているのだろう。

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