#1
>>Iris
「はい、ありがとうございました。確かに受領いたしました!」
受付担当の女性職員は笑顔でそう言ってくれた。これで今回引き受けた運搬ミッションは終了だ。
「次のミッション指示は出てる?」
「いえ、こちらには特に……」
「じゃ、しばらく……そうだね、1週間ぐらい休暇にすると統括局へ伝えておいてもらえるかな?」
「承知しました、管理官!あ、でも支部長がご挨拶をって……」
「ごめん、それはパスで。じゃあ手続きよろしく……あ、念のため貴女の名前を聞いておいてもいい?」
「はい、主任のシーラです!」
主任と名乗ったシーラに後の処理を任せ、私はギルド支部のカウンターを後にした。
ここは惑星ヘリオス。
アリサの故郷であるペレジスに――つまり私達の故郷にも――ほど近い惑星で、近隣宙域の交易ハブになっている惑星のひとつだ。
今回のミッションはこのギルド支部への荷物……特殊な採鉱機械を運ぶというもので、正直管理官が担当する類いのミッションではなかったのだけど……。
「最近増えているらしいですよ、運搬ミッション」
「それ、トワのせい?」
「それもありますけど、多分にメラニーのせいです。ギルドが超光速艇を保有していることを公開しましたからね。特にC3を求める顧客からの緊急配送依頼が増えているのだとか」
本来C3の運搬や設置はモノや人の移動を伴う都合上、亜光速航行でしか行えない。
だから仮にギルドへG3を発注しても現物を手に入れられるのは早くて数年、運が悪いと数十年後になる。
だけど、アリサが言うようにギルドが超光速船を保有しているとなれば、それを使えば年単位の納期が日単位にまで短縮できる訳だからね。
もちろんギルドも貴重なオンブルをやりくりして手配する必要があるから「お急ぎ便」にはかなりの追加請求をしてるみたいだけど、それでも依頼は殺到しているらしい。
私達は惑星トーエイでの一件の後、ギルドからの依頼で3度続けてC3の運搬ミッションを受けた。
そして今回ギルドが依頼を出したのは、C3ではない物資を運ぶ、純粋な運搬ミッション。
確かに超光速航行を必要とするだけあって支給される報酬はかなり高額だったけど、正直なところ少々物足りない気もする。
なにせ謹慎明け早々から立て続けに面倒なミッションばかり続いていたからね。
しかし面倒なミッションを受けているときは平凡な依頼が好ましく感じて、平凡な依頼を受けているときには刺激が恋しくなるとは。
まぁ、人間っていうのは贅沢でわがままなものだから。
……いや、厳密に言えば私達は人間じゃないけどね。
「それで、休暇はどうされますか?」
「そうだね……ヘリオスも悪くはないけどしばらく自然と接してないから、ちょっと息抜きできる星で休暇を取るのがいいかな。マリエッタはヘリオスでブリギッタのアップグレードしたいって言ってたし、別れて休暇取るにしてもあまり遠くへは行けないけどね」
「なら、ここのトロヤ惑星であるヘカテーですか?」
「うん、それが良いかな。何かあったときに直ぐ合流できるしね」
トロヤ惑星というのは恒星を巡る同じ公転軌道上に複数の惑星が存在する、かなり珍しい配置になっている惑星群のことだ。
私達が今いるヘリオスは、もう一つの惑星ヘカテーとトロヤ惑星の関係にあたる双子惑星と言ってもよい二つの星だ。
陸地がちなヘリオスは古くから開発が進められて交易ハブとして栄えている高度な文明惑星。
ヘカテーの方は海洋型惑星で大陸が存在しないこともあって開発されないまま放置されている。
もっともギルドのヘリオス支部で聞いた所ではヘカテーにも軌道ステーションは配置されているし、少数だけど住んでいる人はいるらしいけど。
まぁ、ひなびた海洋惑星でのんびり釣りでもして過ごすのは、休暇の過ごし方として悪くないかと思ったんだ。
「ね、アリサ。アルカンシェルって海に浮かぶと思う?」
「航宙船は船と銘打っていますけど、海洋用の船とは根本的に違いますからね……。もっとも、アルカンシェルなら重力制御で海面に浮かぶことはできると思いますけど」
「それ、浮くの意味が違うよね?それに航宙船が海面すれすれに浮いてるのってちょっとシュールだよね?んー、プレジャーボートでもレンタルしようかな?」
「それにしてもヘカテーですか。……確かあそこは……。あっ、申し訳ありません、コールが」
とりとめのない雑談をしている最中に、アリサに通信が入ったようだ。
「はい……ええ、そうですか……判りました。メラニーと協議する必要がありますので、現状維持で。状況については定期的に報告してもらえますか?……ええ。では、よしなに」
フォトンタブを介して話をしているから相手の声は聞こえなかったけど、アリサの応答している内容からすると何か面倒な事態が起きたようだ。
どうやら休暇は取りやめになりそうだね。
「誰からだった?」
「ヒナです。あの子に頼んでおいた例の件、思ったよりも面倒な背景があったようで……」
「そんな感じだったよね。じゃ、休暇は取りやめにしてヒナのサポート?それとも私達も直接乗り込む?」
「いえ、そこまでシリアスな状況ではないので、通信でサポートできると思います。あと、アイリスさんはトワ様と休暇を楽しんできて下さい」
「え?」
「どのみち、マリエッタ一人をヘリオスへ残しておくのは気が引けていたので。私はマリエッタとこちらに残りますから、姉妹水入らずで楽しんできて下さい」
そういうアリサの顔を見つめる自分の目が、ちょっと険悪になっているであろうことが自分でも判った。
「アリサ?忘れてるのかもしれないけど、あなたも私の妹なんだからね?姉妹水入らずなら、アリサも入ってないとおかしいでしょ?」
「それは……そうですね、失言でした。では、長姉と末妹で楽しんできて下さい。早くカタが付けば私も合流しますので、念のためリュミエールを置いていっていただければ」
「はぁ。判ったよ。でも何かあったらすぐに連絡してよ?」
「ええ、もちろんです。頼りにしていますよ、お姉ちゃん?」
そういうとアリサは優雅に一礼してギルド支部へと引き返していった。
……そういえばさっきアリサ、ヘカテーについて何か言いかけてた気がするけど……。
トワと合流したら休暇先がヘカテーで良いかどうか、確認しておいた方が良いかもしれないね。




