#20
『戒厳令の布告からおよそ1時間半後。市民への外出が禁止されているにも関わらず、国会議事堂へと続く敷地の前には多数の人々が集まっていた――』
「……トワ、さっきので何回目だっけ?」
「4回目」
「で、5回目に突入?」
「うん。あと2回は見たい」
「トワ様、録画データ貰っておきますから、アルカンシェルに帰ってから観ませんか?サクヤも観たがると思いますし」
「わかった。じゃあ、そうする」
「いや、サクヤは観たがるかな……」
アイリスはそう言うけど、折角だからサクヤにも見せてあげるべきだよね。
そう思った私はアリサの提案に納得し、観ていた昨夜の戦い……をメディアのドローンが配信していた映像の再生を中止した。
うん、私はあんまり活躍してないけど、やっぱりフォトナイザーは格好いい。
エトワールモードも上手く動いたみたいだし、これでグレートフォトナイザーが現れてもケンはちゃんと共闘できるに違いない。
「グレートって完全フィクションでしょ?チラっと観たけど、敵が外宇宙から来た異星人だったし……」
「まぁ広義では私達も異星人ですけどね」
「え、もしかしてあれ星間戦争のメタファーだったの!?」
「アイリスさんっ、敵は暗黒ジャーク星人ですっ!」
ともあれケンがフォトナイザーとして立ち上がってくれた事でジャーアック達ゲルゲム団の野望は打ち砕かれた。
トーエイの平和を守るためフォトナイザーの戦いはまだまだ続く。
……続くのかな?
物語としては続いて欲しいけど、私としては戦いはもうこれで十分かな。
>>Iris
ケンと共闘してゲルゲム団の残党を掃討した私達だったけど、その模様がドローンで配信されていたのは予想外だった。
これじゃギルドの内政干渉だと指摘されたら言い逃れのしようがない。
戦いの翌日に映像配信されていたことをハッテ支部長から聞かされた私は頭を抱えたけど、同時に行政府から感謝状が届いていると伝えられたことで少しだけ安心した。
私達が守った国会議事堂の中ではこの星の首相達が法案の審議を行っていたらしく、行政府の首脳陣は外部監視モニタでケンの戦いを見守っていたそうだ。
審議されていた変身禁止条例は当然満場一致で否決、廃案になり、ジャーアックが倒れた後に緊急動議がかけられた案件についても満場一致で可決されたらしいけど……。
私が今朝の出来事を思い出していると、フォトンタブに着信があった。
呼び出し元は……アルカンシェル、サクヤだね。そういえば前回サクヤからコールされたときはナミの緊急事態を知らせるものだったけど、また何かあったんだろうか?
『あー、ちんちくりん?なんか通信来てるよ。フローラって人から』
「リルカから?なんて?」
『リルカじゃねーし。フローラだし!』
相変わらずサクヤは私に対して不躾な態度を崩さない。まぁいいんだけどね。
あと、リルカはコール主であるフローラ・セレスセラの本名だから、合ってるんだけど……それも、まぁいいか。
私はサクヤにリルカとの回線を中継して貰うよう頼んだ。
『アイリスさん、水くさいですわ!』
「いきなり何?お嬢様らしい季節のご挨拶とかはないの?」
『そういうのはよろしいですわ!通信費も馬鹿高いんですから!』
……そういえばリルカはギルド関係者じゃないから恒星間通信はリアルタイムで費用が掛かるんだよね。
でも惑星の統治者であり、恒星間企業のCEOでもある彼女が通信費を気にするとか……まぁ、敏腕経営者らしいけど。
「で、何の話?」
『パノプティコの星間就労者派遣プログラムですわ!どうしてうちに声かけしてくれなかったんですか!』
「えっと、ごめん?」
パノプティコの星間就労者派遣プログラム。
それはシビルスコアという鳥籠に囚われた人達を救うために、私が企画した事業だ。
既に4つの惑星に協力を取り付けていたけど、全てのヨタを脱出させるには受け入れ先がまだ足りない状況だったんだけど……。
「でも、いいの?リルカの所で働けそうな人とは限らないよ?」
『ギルドとの業務提携が進みましたから、香油の生産量を上げる計画を立てているのですわ。原材料になる星見草の作付面積も増やす必要がありますから』
「……リルカ」
『はい?』
「ありがとう。本来の事業計画外だよね、それ」
『……もう、人の好意は黙って受けるべきですわよ、アイリスさん?』
私達がアノインティングからパノプティコへ向かった事はリルカも把握していたはず。
そしてパノプティコでギルドが絡む新しい事業が動き出したと知れば、察しの良いリルカは私がそれに関与していると気付くのは当然だろう。
そして、リルカがシビルスコアという制度を知れば、派遣プログラムが難民救済事業であるということは即座に理解する。
だからリルカは、自分達の事業計画を修正してでも、私の後押しを申し出てくれているんだ。
『ともかく、アノインティングでは1期あたり300名、最大5期までの受け入れを行うとパノプティコの……ゲルダさんに伝えておきましたから』
「最大1500名!?」
『あなたと、ヒナさんへの恩返しですわ』
「そっか、ありがとう、リルカ。じゃあまた――」
『あ、待ってください!本題がまだですわ!』
あれ?派遣プログラムの件について報告してくれる通信だと思ったんだけど……いや、それならリアルタイムで通信を寄越すことはないか。
じゃあ何が?そう思っているとリルカは映像越しにジト目で私を睨んできた。
『アイリスさん、オンブルの件ですけど。早速発注して在庫があるから回して頂けるという話になったのですが』
「在庫あるんだ……。良かったじゃない」
『よくありません!お届け予定は320年ぐらい後だって言われましたわ!』
……そうか、ダンディライアンからアノインティングまでは100パーセク近くあるから、普通の貨物船でオンブルを輸送するとそれぐらい掛かるのか。
なんでもギルドでは納品時に無理矢理複座に改造した専用機でオンブルのパイロットをダンディライアンまで送り届けて、直接乗り出す形で受領してるらしいけど……リルカにはそんな方法は取れないだろうからね。
「えっと、じゃあ今回のお礼を兼ねて、リルカをダンディライアンへ運べばいいのかな?」
『私、これでも忙しい身なので、できればオンブルを持ってきて頂けると助かりますわ』
「……なるほど、1500名の受け入れはそういうことだね?」
『では、よろしくお願いしますね?』
リルカは私の問いには答えず、にっこりと微笑むと通信を切った。
いや、しっかりしてるよね、あの子。
恩返しと言いながらも先に派遣プログラムの受け入れ報告をされたら、私がオンブルの輸送を断れなくなるのを判っててやってるんだろうから。
でもまぁ、オンブルを運ぶという口実でまたリルカに会えるのはそれはそれで楽しそうだし、まぁいいか。
でもリルカ?お届け日の指定が無かったから、何時届けるかは私達次第だけど、いいよね?




