#19
……が、それ以外は何もおこらず、戦闘時間カウントは普通に10分を超えて、続いている。
『……?凝晶が……解除されない?どういうことなんだぜ!?』
理解出来ない状況だが、獣魔はお構いなしに襲いかかってくる。
戦いを続けながらも戸惑うケンに、近くへ来ていたトワがこともなげに告げる。
「C3組みこんで稼働時間伸ばした。たぶん3日ぐらい戦える」
『3日っ!?そんなに戦い続けたら、先にオレが倒れるんだぜ!?』
「あと、最大出力も3倍にした。『トワ可愛い』って言ったらパワーアップする」
『なにっ!「トワ可愛い」』
「褒められた」
ケンの発した言葉に、フォトナイザーのコンバットスーツが再凝晶したかのような輝きに包まれる。
《解説しようっ!コンバットスーツ・フォトナイザーを凝結するケン・イチジョウジが強化キーワード『トワ可愛い』を発したとき、フォトナイザーは秘められた真の力を解放するっ!フォトナイザーを構成する量子フォトン結晶はC3の力により凝結エネルギーを強化され、さらに強固で強力な装甲へと進化する。フォトナイザーが纏う輝きは明るさを増し、星の輝きを纏う。これこそが、フォトナイザー・エトワールモードなのだっ!》
『……うぉぉぉ、力がみなぎってくるせっ!』
「……今何か初耳な解説が聞こえたよね?あれ何?」
「さぁ……ケンのコンバットスーツからまた音声が流れていたみたいですけど」
「でも今の解説、マリエッタの声だったよね?というかケンも知らない機能みたいだし」
「エトワール……と言うことはトワ様ですよね、仕掛け人は」
アイリスとアリサはあきれ顔だが、解説の音声通り光の中から姿を現した新たなフォトナイザー、すなわちフォトナイザー・エトワールモードは各部の装甲形状が変化し従前よりも強い光輝きに包まれていて。
その姿から、フォトナイザーがパワーアップを果たしていることは遠目にも明らかだった。
フォトナイザーのシステムがフォトンエネルギーを使う以上、C3による増幅変調効果が影響を及ぼすのは当たり前だ。
トワとマリエッタはフォトンレギュレーターを組みこむ際に単なる出力抑制だけでなく、フォトナイザーシステムが抱える制約である動作時間の延長と、緊急時のパワーアップ機能を組みこんでいたのだ。
「トワさんっ、解説を収録した時にも聞こう思ってたんですけどっ!どうしてパワーアップのキーワードが『トワ可愛い』なんですかっ!?」
「ケンが言わなさそうな言葉にした」
「……ああ、なるほど……間違ってパワーアップしないように、ですねっ!?ナイス判断ですっ!」
トワ達がそんなことを言っている間にもパワーアップしたフォトナイザー・エトワールモードは強化された必殺技、ダブルフォトニックブレードを駆使して敵の大群を一気に攻撃し、残敵の大半を殲滅する事に成功する。
必殺技が撃ち漏らした敵はアイリスとアリサが処理し、残るは自ら出陣してきた首領ジャーアックのみ……そう思った時だった。
「おのれ、まさかトーエイ支配の前哨戦で奥の手を使うはめになるとは……だがフォトナイザー、貴様はここで倒す」
ジャーアックは忌々しげに言い放つと、手に持った錫杖を掲げて呼ばわる。
「獣魔融合……!」
首領の言葉にフォトナイザー達に倒された無数の獣魔の死体がドロドロと崩れ落ち、黒い液体となって首領の足下に押し寄せる。
その液体は見る見る間に融合し、巨大で禍々しい人影を形作ってゆく……
『なにっ……首領が巨大化したんだぜ!?』
「ねぇアリサ?あれ……何?」
「さぁ……?実はこれ、ホロムービーの撮影なんですか?」
「倒された敵が巨大化するのはお約束。グレートフォトナイザーでもやってた」
トワの言うグレートフォトナイザーはとはアニメ版オリジナルの続編で、実話に基づくアニメ版フォトナイザー編とは異なり完全なフィクションだ。
だが現実と地続きの感覚でアニメを見ていたトワの目には、首領の巨大化は当然のことと映ったのだろう。
だが、これはアニメではなく現実だ。巨大な首領の姿にケンは驚愕し、アイリスとアリサは呆れている。
しかしトワとマリエッタはそれがさも当然のように受け入れ、危機的状況だというのに目を輝かせている。
「フォトナイザー、終わりだ」
『くっ……ダブルフォトニックブレード……フォトンッダイナミックだぜ!』
フォトナイザーは必殺のダブルフォトニックブレードで果敢にも巨大化した首領を攻撃する。
だが……。
「効かぬわ」
『くっ、完全に入ったのに、効いてないんだぜ!』
確かにフォトナイザーの放った一撃は巨大首領の体を捉え、手傷を負わせた。
しかし、元が融合体である巨大首領は破損した部位を切り捨て、獣魔の死体から新たな肉体を織り上げた。
その様相が意味するのは……一撃で倒しきれなければ、周囲に獣魔の死体がある限り巨大首領は何度でも復活するということだ。
そしてさすがのエトワールモードとは言えエネルギーは無尽蔵ではない。
通常モードでは3日間戦えるようになっているが、強化形態は当然消費エネルギー量も大きくなり、必殺技ともなればより大量のエネルギーを消費する。
『あと1発しか必殺技を打てないんだぜ……!』
さすがに身長30mを超える巨大首領には、強化形態であるエトワールモードの力をもってしても歯が立たない。
巨大首領の攻撃を何とか躱し続けながらもケンの表情に焦りが浮かぶ。
あとは首領だけだというのに、ここで正義は敗北してしまうのか……!
ケン同様、決め手に欠けるアイリスとアリサの表情にも焦りが浮かぶが、トワとマリエッタの表情は変わらない。
ケンの力が巨大首領に届かないことを確認した二人は頷きあい、言った。
「マリエッタの出番」
「はいっ!みなさん、下がってくださいっ!もっと後ろまで……ケンさん、危ないですよっ!」
「え、この展開って……マリエッタ……もしかして、アレやるの?」
「はいっ!」
かつてヨモツヒラサカの戦場でマリエッタが披露した究極の一撃。
アイリスの言葉に頷くと マリエッタは左手を天高く掲げ叫んだ。
「ブリギッタ、オンステージ!」
彼女の声に応え、衛星軌道上に停泊していたリュミエールはエクソギア・ブリギッタをグラビティスリングで射出した。重力制御によって大気を切り裂きながら、鈍重なユニットは光速の1/600という、空間戦闘用ユニットとしては鈍足極まりない勢いで、巨大な守護者は少女の元へと馳せ参じる。
「何のマネだ――」
ジャーアックがマリエッタを馬鹿にする台詞を吐き終える前に。まるでその場に瞬間移動したかのように巨大なエクソギアが少女の前に出現していた。
遅れて巨大化した首領の体が爆砕された音が響き渡り、力を失い再び液状化した獣魔の残骸が飛び散った。
だが、重力フィールドで守られたマリエッタとエクソギア――ブリギッタには汚泥の一滴たりとも降り注がない。
「ブリギッタ、幕を開け……るまでもなかったね」
[No Problem.]
マリエッタが召喚したブリギッタによる質量弾攻撃はその落下軌道上に位置していた惰弱な巨大首領を粉砕するには十二分な勢いがあるものだった。
科学者でもある敵首領にブリギッタの降下を一度でも見せれば不意打ちを回避される可能性がある。
そう考えたトワとマリエッタは、ブリギッタを切り札として温存し……そして今、衛星軌道上からの奇襲作戦は成功し、天からの一撃はジャーアックとその野望を消滅せしめたのだ。
召喚されたブリギッタは戦う相手がいない事が不満なのか、カメラアイを明滅させ、そして茫然と立ち尽くすケンの声が夜の闇に響く。
『最後は、オレが決めたかったぜ……!』
かくして後に「戒厳令決戦」と呼ばれることになる、国会議事堂前の戦いは終結した。
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