#18
>>Towa
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戒厳令の布告からおよそ1時間半後。
市民への外出が禁止されているにも関わらず、国会議事堂へと続く敷地の前には多数の人々が集まっていた。
性別はまちまちだが年齢は全員が20代後半かそれ以上。老齢のものもちらほらと見える。
そして、群衆の先頭に立つのは戒厳令を出した張本人であるジョウジ・モリヤマ内務大臣。
彼は手にした錫杖を掲げ……禍々しい姿へと、かつてこの星を恐怖で支配しようとしたゲルゲム団首領、ジャーアックの姿へと転じた。
しかしジャーアックを目前にしても群衆はざわめきもせず、ただ無言で立ち尽くすのみ。
だがそれも当然だ。彼らこそが、13年前に先代フォトナイザーが討ち漏らし、市中へ潜伏していた獣魔達なのだから。
ジャーアックは傍らに控える若い男に忌々しげな目を向けたが、何も言わずさらに錫杖を高く掲げる。それを合図に1000体の獣魔が擬態を解除しその正体を現した。
月明かりの中、幾種類もの異形……獣魔が恐るべき姿を晒し、国会議事堂へと視線を向ける。
視線の先、国会議事堂の前に立つのは1人の青年。
自称ヒーロー、迷惑ヒーローと蔑まれてなお、正義を貫こうとした、たった1人の戦士……ケン・イチジョウジ。
彼は1000の獣魔を睨み付けると、右手を高く掲げ裂帛の気合いと共に叫ぶ。
「凝晶!」
瞬間、僅かな外灯に照らされた国会議事堂前が眩い光に包まれた。
そして光が収まったあとには……メタリックな輝きを持ったコンバットスーツを身に纏った人影、フォトナイザーの姿が現れていた。
『宇宙シェリフ、フォトナイザー!』
《宇宙シェリフ・フォトナイザーがコンバットスーツを凝晶するタイムは僅か1ミリ秒に過ぎない。では凝晶プロセスをもう一度見てみよう!》
静寂に包まれた国会議事堂前に解説の声が響く。
《衛星軌道上の母艦ステラマリアより発信された量子指令が、空間を越えてケン・イチジョウジの身体へと到達する。ナノスケールで編まれた量子フォトン結晶がケンの元へ即座に転送され、わずか1ミリ秒でフォトナイザーの装甲が凝結生成される。フォトン-プラズモン結合が光を物質化し、仮想質量を伴う光の勇者……すなわちフォトナイザーを誕生させるのだ!》
「やれ」
ジャーアックはそんなフォトナイザーを冷淡に見やると、背後の獣魔達に一声命じた。
国会議事堂へと殺到する1000の獣魔。
対するはたった1人の戦士。
多勢に無勢な上にフォトナイザーには10分しか戦えないという致命的な弱点すら存在する。
どう見ても敗北必須な状況だが、それでもフォトナイザーは果敢に戦いを挑む。
ああ、正義は悪の前に屈してしまうのだろうか?
だが待て。フォトナイザーに殺到する獣魔の群れの側面から、突如として朱と碧のエネルギー弾が降り注ぐ!
朱のエネルギー弾は的確に獣魔の頭部を破壊し一体、また一体と確実に獣魔の数を減らしてゆく。
高速で撃ち出される碧のエネルギー弾は弾幕を形成し、広範囲に獣魔を薙ぎ払う。
そして蒼い光の軌跡が獣魔の群れの中で舞い踊るように縦横無尽に煌めき、無数の獣魔を屍へと変えてゆく。
「……これ、内政干渉にならないよね?」
「今は勤務時間外です。なのでギルドの幹部として活動しているのではなく、宇宙シェリフの臨時助手という立場です」
「アリサさん、それ詭弁ですっ!そもそも管理官は裁量労働制だから勤務時間って概念ないですっ!」
「なんでもいい。まだ来る」
『フォトニックブレードッ!』
光の戦士は孤独ではなかった。
臨時の宇宙シェリフ助手を名乗る4人の少女達が、孤独な戦士を支援するために参戦したのだ。
敵軍に突入するフォトナイザーを支援すべく、アイリスのブラスター、そしてアリサのレゾナンスブレードが議事堂を目指す敵を迎え撃つ。
マリエッタは戦況分析と指示に専念し、トワはマリエッタのサポートに回る。
トワ達の援護を得てフォトナイザーは優位に戦いを進めた。だが、フォトナイザーが倒した獣魔が100を数えた所で獣魔の群れから飛び出す影があった。
「ショウブダ、フォトナイザー!」
『オロ・カナーか!望むところだぜ!』
昼間のリベンジマッチを挑むオロ・カナーにフォトナイザーは応じる。
だか彼が敵幹部との戦いに専念することで戦線の抑えが弱まり、獣魔が国会議事堂へと雪崩れ込もうとする。
そこに撃ち込まれる碧のエネルギー弾。思わず獣魔達の足が止まる。
「トワさんっ、倒せなくて良いのでばらまいて足止めをっ!」
「わかった」
「それよりあの幹部を撃った方が早くない!?」
「何言ってるんですか、アイリスさんっ!そんなのダメですっ!」
「え……?撃つと爆発とかするの?」
「違いますっ!幹部とヒーローの決闘に割り込むとか、ルール違反ですっ!」
「ルールって何の……」
マリエッタの言葉にアイリスは戸惑うが、トワは全くもってその通りだという顔で頷いている。
獣魔を撃つ手を止めず、それなら……とアイリスは提案する。
「先にジャーアックを叩こう。頭を潰せば敵の戦線も崩れる!」
「アイリス、それはお約束違反」
「お約束って、何っ!」
「敵は変身も説明も待ってくれる。なら、こっちもボスは最後にするのが掟」
「どこの掟なのよっ!」
撃ち尽くしたカートリッジをブラスターから排出し、新しいカートリッジを装填しながらアイリスが叫ぶ。
だが、その声は獣魔達の咆哮にかき消された。
フォトナイザーとオロ・カナーの戦いは昼間と同様、フォトナイザー優勢で進んでいた。
だが、ヘルメットの中でケンが浮かべる表情は厳しい。
眼前の敵にオーバーレイする形で表示されている戦闘開始からの時間経過を示す数字は既に6:00を過ぎている。
トワ達の助力という僥倖はあったものの、まだ2/3以上の獣魔が健在だ。そして、眼前の幹部を倒さなければ、獣魔の数を減らすことも叶わない。
「シネ、フォトナイザー、シネ!」
『オレは!お前達を倒すまでは死ねないんだぜ!フォトン・ダイナミック!』
劣勢に焦燥したのか大ぶりな攻撃に転じたオロ・カナーの一撃を後方宙返りで躱わし、フォトナイザーはフォトニックブレードを天頂へと掲げて必殺の一撃を叩き込む。
「バカナ……!」
光の刃をまともに食らい、立ち尽くすオロ・カナー。
だがフォトナイザーは残心もせず次の獣魔へ向かっていた。
「オレハ……ヒーローニ……ナリタカッタ……ノニ……」
正中線で両断され、左右にずれる視界の中オロ・カナーは呟く。
だが、その声は誰の耳にも届かなかった。
フォトナイザーが戦線に復帰したことで獣魔の群れは少しずつ国会議事堂前から押し戻されつつあった。
残敵はおよそ500の獣魔と首領ジャーアック。
だがやはり多勢に無勢であることには変わりが無い。
そして、ついにフォトナイザーの活動限界が訪れようとしていた。
『ここまでかっ……!』
ヘルメット内に表示される戦闘時間が10:00を示し、血を吐く様なケンの叫びが戦場に響き渡る。




