#17
アリサが言いたいことはこうだ。
敗北して力を減じている状態でわざわざ戦闘力の低い人間態に再偽装する理由などありはしない。
それなのにジャーアックは人間態で討たれた。
つまり、人間態のジャーアックは……ジャーアックの死を偽装するために、他の幹部が影武者になった可能性がある。
他の幹部?いやそんな曖昧な存在じゃない。
その幹部の名前はもうわかっている。
ゲルゲム団で唯一討伐が確認されていない幹部、すなわちシリス・ギールだ。
彼はゲルゲム団の参謀……つまり、影武者となって首領ジャーアックを生き延びさせるような策を立てられる知将だった可能性が高いからね。
「なら影武者を立てて生き延びたジャーアックは行政府へ潜伏した……。つまり先代の内務大臣もジャーアックの擬態だった可能性がある、ってことかな?」
「ええ。確認した所、メディアへの強権的な圧力が問題視された先代の内務大臣はモリヤマへの交代が内示された時点で突然死したと記録されています」
「自分の死を偽装して後任のモリヤマ議員にすり替わったってことだよね、それ。で、結局顔と名前を変えて同じ事を繰り返してる訳か……。で、していることはフォトナイザーのネガティブキャンペーン?」
「前回トーエイ征服の寸前まで行った状態をひっくり返されていますからね。ジャーアックとしてはフォトナイザーを最大の脅威として見ているのでしょう。その力を削ぐためにメディアや行政府の力を利用して……実際ケンは社会的に追い詰められていた訳ですし」
私達がトーエイへ来る事がなければ、おそらく変身禁止条例が成立してケンはフォトナイザーへ変身する事を禁じられていただろうし、トーエイの住民達はそのことを歓迎していただろう。
そして、その後に待つものは……?
おそらく、再起したゲルゲム団による惑星征服。
なら、この後ジャーアックは、ゲルゲム団はどう動くつもりだろうか?
「ねぇアリサ、この後の展開をどう見る?」
「もし私がジャーアックなら、完成しかけている策の完遂を優先します。現に『モリヤマ大臣』も暗に私に対してこの件に関わるなと圧を掛けてきましたから、まだ時間を掛けて策を進めるつもりなのだと思います。それだけに今日のヒーローショーへの乱入は腑に落ちませんが……」
「私はあれがゲルゲム団からケンに対する宣戦布告だったのかと思ってたけど、まだ表だって動く気が無いなら……もしかしてあれって跳ねっ返り幹部の暴走だった可能性がある?」
「さすがに悪の秘密組織の内部事情まではわかりませんが……。ですが、メディアへの押さえが破綻している以上、この後は速攻で来るかもしれません。私がジャーアックの立場なら、戒厳令を打って政権奪取を図りますね」
アリサがそう言った時だった。
トーエイの首都、オーイズミに長く重いサイレンが響き渡ったのは。
どこか不吉なものを感じさせる音に、私達は思わず辺りを見回す。
「何、これ……」
「アイリスさんっ!ネットで臨時ニュースが流れてますっ!」
携帯端末を操作していたマリエッタがそう言って、全員に見えるようにホロディスプレイを展開した。
そこに映っているのは……40代ぐらいの男性。その映像を見たケンとアリサが小さく呟く。
『――これに伴い、現在時刻より全市民に対して無期限の外出禁止を命じます。いかなる理由があろうとも特例は認められません。許可なく外出した者は治安部隊によって即座に身柄を拘束され、特別措置法に基づく厳重な罰則が適用されます。ですので皆さん、決して外出をなされませんよう――』
「モリヤマ……先生……」
「ジャーアック……!」
そして画面の中のモリヤマいや、モリヤマの姿を借りたジャーアックは、アリサの予想通り……ゲルゲム団の再出現と、それに伴う戒厳令の布告を宣言した。
しかし戒厳令の内容は腑に落ちないものだった。
市民の外出禁止はまだ理解できる。
だが続けて布告された戒厳令の詳細では、治安機構や各種行政府の職員に対しても現状での待機を求めていた。
それは戒厳令本来の目的から考えれば、あまり聞かない措置だ。
戒厳令下では治安機構の権力を強化して、不穏分子の摘発や監視を行わせるのがセオリーなはず。
だけど、これがゲルゲム団によるクーデーターの前段だとすれは、話は変わってくる。
「市民と治安機構の動きを封じて、その間に行政府を押さえるつもりなんだね?」
「ええ、間違いありません。確か今日は変身禁止条例の審議のために夕刻から国会が開かれているはずです。そこを狙っているのかもしれませんね」
私とアリサの言葉を聞いていたケンは、ゆらりと立ち上がると強い決意を秘めた目で言った。
「……師匠、オレ……行きます」
「どこへ、何をしにですか?」
「国会議事堂……ジャーアックを倒すんだぜ!」
「先ほどの放送は見ましたよね?戒厳令が発令された以上、迂闊に動くと犯罪者として扱われますよ?」
「それでも、オレは!宇宙シェリフ、フォトナイザーなんだぜ!」
そう言って独り走り出したケンを、私達はただ見送ることしか出来なかった。




