#14
ケンがパトロールへ出る前にモリヤマという人物の人となりについてある程度聞いた上で行政府に連絡を入れ、30分だけという約束でやや強引にモリヤマ大臣との面会予約を取り付けることが出来ました。
ケンの話によるとモリヤマ大臣……フルネームはジョウジ・モリヤマと言うそうですが、彼はケンの父である先代フォトナイザー、リュウのサイドキックを長く務めていた人物であり、ケンに武術の基礎を教えた師でもあるそうです。
彼が座右の銘とする「男は戦い、女は育む」という言葉や、ケンに対する指導方針からみても、モリヤマという人物がかなり保守的な価値観を持つ性別役割論者なのはほぼ間違いないでしょう。
しかし単なる支援者以上の存在であるサイドキック……先代の相棒だったモリヤマが、フォトナイザー批判の急先鋒になるというのは不自然な話です。
ケンに聞く限りでは、彼とモリヤマが決別するような決定的な出来事は無かったそうですし。
モリヤマについて仕入れた情報を頭の中で再確認していると、行政府の応接室にその当人が現れました。
「お待たせしました。私がモリヤマです」
「お忙しいところお時間頂き恐縮です。モーリオン・ギルド二等管理官のアリサ・シノノメと申します」
「お噂は伺っております。ペレジスの評議員を務めておられたとか……いや、しかし……」
「このような小娘で失望されましたか?」
「いえ、むしろ敬服いたしました」
見た目はパーソナルデータ通り、40代に差し掛かったばかりの体格の良い男性議員。
文武両道を旨とする人物らしく、決して大柄ではないもののきっちり着こなしたスリーピースの上からでも引き締まった体つきであることが見て取れます。
紳士的に微笑みを浮かべた表情からは、私に対する敵意や侮りのようなものは窺えません。
ですが……それ故に私は軽い違和感を感じました。
「それで、この度の御用向きは?表敬訪問と窺っておりますが」
「ええ、言葉通りの表敬です。トーエイはかつて巨大な組織犯罪から治安を回復されたと聞き及んでおります。ギルドがお役に立てなかったと聞いて心苦しい限りですが」
「13年前の一件は私達にとって非常に痛ましい記憶です。ですが多くの人々が立ち上がり、私達は今日の平和を築き上げることができました」
「そうなのですね。そういえば随分と巨大な犯罪組織だったと聞き及んでおりますが、残党の討伐などは進んでおられるのでしょうか?」
表向きは穏やかなやり取りが続いていましたが、ここで私は核心に斬り込みました。
既に昨日の獣魔出現は報道統制によって「単なるビークルの事故」と報じられていることは確認済みです。
ネット上の投稿についても、マリエッタに確認してもらった限りでは「怪人」「怪物」「獣魔」等の言葉がNGワード化されて投稿できないことも判っています。
その状態でモリヤマが何と回答するかですが……。
私の言葉にモリヤマはテーブルからコーヒーを手に取り、一口飲むと口を開きました。
ですが、コーヒーカップをソーサーに戻す前の一瞬、彼の指がカップの縁をなぞったその仕草が、私にまた新たな違和感を伝えてきます。
「その点につきましてはご心配には及びません。13年前のゲルゲム団の壊滅以降も確かに小規模な事件が発生しているのは事実です。しかしそれらはいずれも組織的な背景のない、単発的な犯罪や不幸な事故に過ぎません。ましてや『残党』と呼べるような規模や組織性を持った事件は起きておりません」
モリヤマはそこで一拍おくと私の目を見つめながら言葉を続けました。
「シノノメ管理官。もしかすると昨日、貴女が街で遭遇された事故のことを気に掛けておられるのかもしれませんが……。あの件も単なる事故として既に処理が行われております。混乱を避けるためにも惑星外の方が不必要にご心配をされることは避けていただきたいというのが、私達トーエイ行政府の立場です」
「そうなのですね。私がみたものはてっきり13年前に出現したという……そう、たしか『獣魔』てしたか?そういうものだとばかり」
「集団ヒステリーで幻覚が見えたり、人が怪物に見えたりすることはあると聞いております」
どうやらモリヤマは昨日獣魔が出現したことを認める気は無いようです。
いえ、それも当然でしょう。
私が今、モリヤマに対して抱いている疑念が本当なら……モリヤマにはそう答える以外の選択肢は無いのですから。
その後、私はフォトナイザーに関する政府見解や法規制の議論についても言葉を交わしました。
やはりケンが言っていたサイドキックとしてのモリヤマではなく、あくまでも変身規制を進める内務大臣としての主張をモリヤマは繰り返しました。
予約していた会談時間が残り僅かになったタイミングで、私はモリヤマに対してそれまでとは異なる話題を切り出しました。
「ところでモリヤマ大臣は女性の社会参画についてどうお考えですか?」
「私の座右の銘は『男は戦い、女は育む』と言うものです。女性には家庭を守って頂きたいものです」
「そうなのですね。ありがとうございます。とても参考になりました」
彼の……いえ、モリヤマの言葉で私の疑念は確認に変わりました。
目の前にいるこの「ジョウジ・モリヤマ」と名乗る人物は本人ではない。
保守的な発言を取って付けたように口にしたことで私は確信しました。
そう、これはモリヤマではない別の誰か。
……それも、おそらくは女性だと私は思いました。
動作のひとつひとつにわずかににじみ出る女性的な気配は、男らしさを重んじる性別役割論者であるモリヤマのものとしてはありえない所作で、それ故に私はモリヤマに擬態しているモノの正体が女性であると推測しました。
ですが私の知るかぎりではこの件に関わっている女性はすでに全て死亡しているはず。
それにそもそも、どうやって女が男の姿を真似できるというのでしょうか?
目の前のモリヤマの肉体はどこからどう見ても男性のものですが、それが擬態だとしてもケンが説明していた擬態のメカニズムとも合致していないように思えます。
直接モリヤマと対面して何かが明らかになることを期待していましたが……むしろ謎は解けるどころか深まるばかりです。
行政府の建物を後にした私がそんな事を考えていると、アイリスさんからコールがありました。
『アリサ?ごめん、ちょっと面倒なことになった。合流できる?』
「ええ、こちらの用事は済みましたから。何があったのですか?」
『詳しい話は後で。この前の野外講堂まで来て』
アイリスさんはそう告げると私の返事を待たずに通信を切りました。
何か切羽詰まった状況になっているのでしょうか……。
不安を感じながらも、私は指定された場所へと向かいました。




