#11
ケンが言うには彼自身、あるいは治安機構が倒した獣魔について、事件発生直後はメディアも獣魔の再来を報じるのだが、すぐに行政府が「原生生物」や「狂乱した違法薬物常習者」を獣魔と誤認したと公式見解を発表し、メディアもそれに従う形で修正記事を出していると言うのだ。
特にケンが獣魔を倒した場合にその傾向が顕著で、ケンによる自作自演の可能性を疑うような憶測記事まで報じられている始末らしい。
「それ、情報隠蔽してるだけじゃなくてケンに対するあからさまなネガティブキャンペーンじゃないですか!」
「修正記事を出す流れを見るとメディアが自主的に偏向報道してるっていうより、行政府からの圧力に屈してるようにみえるね?」
「オレはそういうのは良くわからないんだぜ……」
ケンはそう言うけど、あからさまなネガティブキャンペーンで貶められていたのだとしたら、世論の逆風は想像を絶するものだったろう。
世論に非難されながらも孤軍奮闘していたのか、ケンは……。
「アリサ、メディアに圧力を掛けてる人間って判りそう?」
「調べないとはっきりしたことは言えませんが、この星の政府組織図を見る限りだと内務大臣がメディアの管理統括を行っているようです」
「今の内務大臣って判る?」
「……モリヤマ大臣……だぜ」
私の言葉に応えたのはアリサではなくケンだった。
そしてケンはモリヤマという大臣の名を口にした彼の顔には悲しみとも苦しみとも付かない表情が浮かんでいた。
アリサも頷き、ケンの告げた名が間違いなく現在の内務大臣であると言った。
「ケン、もしかしてモリヤマ大臣と知り合いなの?」
「モリヤマ先生は、オレの親父の大親友だったんだぜ。ゲルゲム団と戦う時も、力になってくれたのに……今は、フォトナイザーを目の敵にしてるんだぜ……」
「……モリヤマと言う議員が内務大臣になったのは6年前ですね。前任者の死亡に伴い任命されたようですが」
その後、ケンが語ったところによれば大臣になる直前までモリヤマ議員は親友であった先代フォトナイザー、そしてその息子であるケンを擁護する立場を取っていたそうだ。
しかし大臣に就任した直後から立場を一変させ、死亡した前任者と同じような主張でフォトナイザー批判の急先鋒になったらしい。
一介の議員と行政府の一員とでは立場が違うだろうし、大臣としての発言は個人の意思とは異なる場合もない訳じゃないけど……。
あまりにもフォトナイザーの扱いが違いすぎる点は不可解だ。
市中に獣魔が潜伏していたことと、行政府がそれをひた隠しにしている事実。
そして態度を急変させたモリヤマ大臣。
この星の行政府には、何か深い闇が潜んでいるような気がしてならない。
「そういえばケン。先ほどの獣魔ですが、何故白昼堂々街中に?何か目的を持っていたようには見えませんでしたが」
「……確かに、ただ暴れてただけだったよね」
「ああ、それならおおよそ判るんだぜ!現場にあった壊れたビークル、きっとアレが原因だぜ!」
「ビークル……?そういえば獣魔が暴れてる近くで壊れてたけど……獣魔が壊したんじゃないの?」
「アレは事故の衝撃で擬態が解けたんだぜ!」
「擬態?どういうこと?」
私の疑問に答えたケンの言葉は衝撃的なものだった。
私はてっきり人間が獣魔に変身するのだと思ってたんだけど、実際は逆で、潜伏中は獣魔が人間に擬態している状態なのだと。
ゲルゲム団による改造処置を受けた時点で素体となった人間は完全に獣魔という別の存在へと変貌し、「1度だけ人間の皮を被ることができる」とケンは言った。
つまり、人間が獣魔に変身すると元に戻れないのではなく、被った皮が壊れてしまうと再度の擬態が出来なくなる。
そしてその擬態は強い衝撃、例えばビークルの事故や「フォトナイザーのパンチ」なんかで剥がれるのだと。
「ちょっと待って!じゃあ、もしかして昨日ケンがフォトナイザーになって殴ろうとした相手って……」
「擬態した獣魔だったぜ!」
「嘘でしょ!?っていうかケン、擬態している獣魔を見破れるの?」
「フォトナイザーのフォトニックスキャナーで調べれば識別可能だぜ!」
なんて事だろう!
私は昨日、ケンが生身のチンピラ相手に変身し、さらに殴りかかった姿を見て彼が暴走していると思い込んでいた。
けど、実際はケンが変身したのは相手が獣魔かどうかを識別する為で、相手が獣魔と判った上で擬態を解除させるために殴りかかったのだと彼は言う。
それってつまり、彼の行動には一切の落ち度が無かった……いや、建物壊したのはダメだけど、ともかく無軌道な暴走じゃなかったということだ。
「ケン、どうしてそのことを……って、もしかして?」
「ああ、言ったさ。記者さん達にも、モリヤマ先生にも。でも、誰も信じてくれなかったんだぜ」
そう言ってケンは少し寂しげに笑って見せた。
私は、彼の事を勘違いしていた。
ただの痛いヒーロー志願者だと思っていた。
だけど、実際は違った。
彼は孤独に戦い続けていた真のヒーローだったんだ……。
「もしかして私達に説明しなかったのって……」
「信じてくれるとは思わなかったんだぜ……。でもさすがは師匠とその仲間達なんだぜ!」
「ケン、本当にごめん。私、あなたのことを痛い人だと思ってた」
「私も謝罪します。あなたは立派なヒーローです」
「師匠にヒーローと認められたんだぜ!これでオレも免許皆伝だぜ!」
そう言うとケンは破顔して見せた。
彼は私達と同じぐらいの年齢……つまり成人済みの筈だけど、こうやって笑うとまるで少年のような印象を受ける。
いや、顔は年齢以上に濃いけどね。
「弟子に取った覚えは無いですが……。それはさておきアイリスさん、これは少し方針転換が必要かもしれませんね」
「そうだね。ケンには親しまれるご当地ヒーローじゃなくて、トーエイを守る真のヒーローになってもらおう。そのためには……」
「行政府の闇を暴く必要がありますが、大丈夫ですか?」
「調べるだけなら内政干渉にはならないよ。調べた後にどうするかは……またその時に考えよう」
「よしなに」
そういうことで私達の方針は決まった。
小手先ではなく、根本からケンの……フォトナイザーのイメージを変えるんだ。




