#10
>>Iris
翌日、フォトナイザーシステムの改造中、家でゴロゴロしているのは性に合わないというケンに付き合って私とアリサも街のパトロールへ出向くことになった。
市中に潜伏する獣魔の気配が気がかりだったというのもあるけど、それ以上にケンが何かやらかさないか心配だったんだよ。
で、予想通りケンはやらかした。毎日繰り返していた行動が習慣……いや、もはや習性になってたのか、ケンはチンピラに積極的に絡んでいった。
そして武器を持ったチンピラに対して、フォトナイザーシステムを持っていないことを忘れて……。
「凝晶!……って、何もおきないんだぜ!?」
「ぎゃはははは、てめぇ、フォトナイザーマニアか?アニメの見過ぎなんだヨ!」
いや、変身ポーズをとって大声で叫んだ結果、何もおきなければただの痛い人だと思われるのも当然だよね。
私はアリサと共に無防備なケンに襲いかかろうとしたチンピラを叩きのめしながら、ダメージも受けていないのに頭が痛む気がした。
「うう、師匠に……可憐な美少女に守られちまったぜ……俺はヒーロー失格なんだぜ……」
「可憐な美少女なのは否定しませんけど。私、スーツを着たケンより強いですからね?」
「そっちのちっちゃくておっきい女の子も強かったんだぜ……」
「……それ、何げにセクハラだよね?」
まぁ、生身のケンではテロマーであるアリサやセレスティエルである私に太刀打ちできないのは仕方ないんだけどね。
でもそんな事を知らないケンからすれば、女の子2人に守られる形になって、いたくプライドが傷ついたんだろう。
ちょっと涙目になっているケンをどう慰めたものかと思っていた時だった。
「キャアーーー!!」
少し離れたところから、女性の悲鳴が聞こえた。
いじけていたケンははっと顔を上げると、無言で悲鳴の聞こえた方へ走り出す。
「ちょ、ケン!?あなた今変身できないんですよ!?」
「そんなこと、関係無いんだぜ!」
「……はぁ。アリサ、私達も行こ」
「はい」
ひったくりか、痴漢か、それとも喧嘩か。
これまで見て回ったトーエイの街中は比較的平穏だったので、私はそんな軽微なトラブルが待ち受けているのだと思っていた。
だけど……2ブロック先の角を曲がった私の視界に飛び込んできた光景は、まるでフィクションの中の世界だった。
「なに、アレ!?」
「ワニダブラー!」
私の誰何に呼応するようにケンが叫んだ名前は……確かゲルゲム団の怪人データにあった獣魔!?
なら、壊れたビークルの前で暴れているワニ頭の奇っ怪なのは……着ぐるみをきた変人じゃなくて潜伏していた怪人?
私はサイホルスターに装備していたXthを抜いたけど、発砲して良いものかどうか躊躇してしまう。だってアレは……元は人だった存在だから。
だけど私の隣にいたアリサは違った。
「Blade of the storm, to my voice give heed!」
(青嵐の刃よ、我が声に応えよ!)
レゾナンスブレードの起動歌を短く唱えると、蒼い光の刃を手に迷わず怪人……獣魔へと斬り込んでゆく。
「アリサ、それ元人間!」
「元、です!」
私の声に、全て承知していると言わんばかりに答えるアリサ。
そしてアリサの振るった刃は獣魔を捉えるが……一瞬、体を震わせただけで獣魔の動きは止まらない。
どうやらアリサはブレードをショックモードにしていたようだけど、さすがに怪人相手じゃショックモードは通用しないようだ。
「そこの怪人!変身を解除して投降なさい!さもなくば、斬ります!」
「師匠、無理なんだぜ!獣魔は、一度獣化したら……人間には戻れないんだぜ!」
「……!なら、仕方ありませんっ!」
ケンの言葉に、アリサは一瞬だけ顔をしかめたけど、ブレードの柄を強く握りしめるとそのままワニダブラーと呼ばれた怪人を一刀のもとに斬り伏せた。
アリサの倒した怪人の死体は、私達が見守る中まるで沸騰するように泡立ち、その形を崩壊させていった。
途中、ちらりと見えた骨格は明らかに人間のそれではなく、獣魔と呼ばれる存在が既に人間ではなくなったモノだということを嫌でも思い知らされた。
「アイリスさん、超過死亡者としかカウントできない理由はこれですね?」
「だね。これじゃDNA鑑定も無理そうだし、誰かが死んだのは判るけど誰が死んだのかは判らない、か」
あまりにも非現実的な光景にさすがのアリサも少し場違いなことを言い出したけど……仕方ないよね、さすがにこれを見せられちゃ。
けど、静まりかえっていた周囲がいつのまにか野次馬でいっぱいになっている。おそらく間を置かずに治安機構も駆けつけてくるだろう。
これは良くないね。
「ケン、ここを離れるよ」
「わかったんだぜ!」
私達は人混みに紛れるようにその場からそっと立ち去った。
数ブロック離れた所まで移動した私達はケンに事情を聞くことにした。聞きたいことは沢山あったけど、一番知らなければいけないのは……。
「ケン、さっきのが獣魔だよね?この13年間出没してなかったんじゃないの?」
「そんなことは無いんだぜ!2・3年に一度だけど、出没していたんだぜ!」
「……それ、政府が出してる公式情報と違いますよね?」
アリサが言うように、私達がトーエイについて調べた情報……つまり行政府が対外的に公開している資料にでは「怪人」と言う存在は13年前の「惑星規模での巨大犯罪行為」以降は確認されていないとされていた。
なのにケンは2・3年に1件とはいえこれまでにも獣魔が出没していたという。
「これまでに出た獣魔は全部ケンが倒したの?」
「半分ぐらいはオレが倒したけど、治安機構が犠牲を払って倒したヤツもいるんだぜ!」
「殉職者が出てるなら行政府も獣魔の再出現を把握してるはずだよね?じゃあ、なんで記録に残ってないの?」
「無かったことになってるんだぜ!」
ケンの言葉に私とアリサは目を見合わせた。
ケンが語ったことは、惑星トーエイの行政府の不穏な動きを示していたからだ。




