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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部4章『凝晶!宇宙シェリフ・フォトナイザー!』トーエイ-光鎧の惑星
489/569

#7

>>Iris


 私とトワは惑星トーエイの公文書館を訪れ、ここで先代フォトナイザーについての情報を集めることにした。

 実のところ、街中には先代フォトナイザーについての情報が溢れていた。


 私達が最初にギルド支部で見せられたものはどうやら後年になってから作られた再現ドラマだったらしく、ケンの代になって人気が下火になったとはいえフォトナイザーの戦いについては実写映画化やアニメ化、コミカライズ等も行われていたようだ。


 だけどそれらは「記録」ではなく、記録を元にした「創作」だ。

 多くの人々が知っている事実に基づく物語だから大筋は史実に基づいているとは思うけど、シナリオライターやスポンサーの意向によって後年の創作には歪みが生じている可能性がある。

 そう考えた私は、最も公平で脚色がないと考えられる記録が残っているであろう、公文書館を訪れたんだけど……。


「獣魔を操るゲルゲム団、ねぇ……」

「獣魔怖い。助けてフォトナイザー」


 どこまで本気か判らないトワの言葉を聞き流しながら、私は頭を抱えた。

 どこの星の公文書に悪の秘密組織や怪人の話が載ってるっていうんだろう……。


 いや、ここの星の公文書には確かに獣魔と呼ばれるバイオ怪人の図鑑のようなものやゲルゲム団と呼ばれる悪の秘密組織についての情報が記されてはいるけど。


「トワ?私、間違ってホロムービーの設定資料借りてないよね?」

「トーエイ史のコーナーから借りてきてた」

「だよね。なら、これがトーエイの史実か……」


 まぁ、宇宙は広い。

 放浪機なんていう、全ての生命を殺して回る機械知性体が存在しているぐらいだから、獣魔なるバイオ怪人がいても不思議はないんだろうと私は自分に言い聞かせた。


 フォトナイザーを知るためにはまず彼が何と、何故戦っていたのかを知る必要がある。

 そう思った私は彼が戦った犯罪組織についての情報を調べる事にしたんだけど……これはなかなか厄介そうだ。


 ちなみにトワはさっきから公文書の一つとして収蔵されていたフォトナイザーのアニメを見ている。トーエイ支部に着いてからずっと瞳の色が金色だから、ご機嫌なんだろうね。

 まぁ、この子が楽しんでるなら私も嬉しいけど。


 それはともかくとして犯罪組織……ゲルゲム団だ。


 首領ジャーアックが率いるバイオ怪人の集団。

 「獣魔将」と呼ばれる幾人かの幹部怪人。

 私はあまり興味が無いけど、トワやマリエッタが時々見ているようなフィクションで見かける、いかにもな悪の秘密結社的な組織図が資料には残されていた。


 興味深いのはそれらの幹部について、正確なプロフィールが記されていたということだ。


 例えば首領ジャーアック。

 彼女の本名はDr.レリアス・アルカディア。

 バイオ工学が発達したこの惑星において天才化学者と呼ばれた才媛だが、47歳になった年にゲルゲム団を立ち上げ、1年足らずで惑星を掌握する寸前まで勢力を拡大した。

 親族および配偶者は無し。


 プロフィールと共に彼女の写真も添付されている。

 眼鏡を掛けた穏やかそうな中年女性の姿と、どこから見ても悪の幹部にしか見えない派手な様子の……だけど、Dr.レリアスの面影が残るジャーアックの顔写真。


 これが公文書である以上、何が彼女を暴挙に駆り立てたのかという憶測は記載されていない。

 ただ、天才的な知性を誇った1人の女性が悪に堕ち、そして正義に討たれたことだけが、そこに事実として記されていた。


「悪の化学者ねぇ……」

「マッドケミスト?」

「バイオ工学専攻でも、一応マッドサイエンティストでいいと思うよ?」


 アニメの合間にちゃちゃ入れしてきたトワにそう応じながら、私は資料を読み進める。


 他の幹部についても同じだ。怪人としての姿と、その本来の人物に関する調査記録が詳細に残されている。

 不思議なことに幹部の中にはDr.レリアスの関係者は1人もおらず、普通のビジネスマンや主婦、果てはスクールに在籍していた子供までが幹部として名を連ねていた。

 彼らの情報には「フォトナイザーによって討伐」という情報が記載されていたけど、一つだけ例外があった。


「ゲルゲム団の参謀役シリス・ギール……この怪人だけ『フォトナイザーによって撃破』になってるね?」

「フォトナイザーが倒した。でも、倒せてない?」

「たぶん、死亡確認が取れてないんだろうね。だけどこの正体からすると、生き延びてるとは思えない、かな」


 シリス・ギールのプロフィールには、彼の正体が末期の病に冒され、余命宣告を受けていた高齢の元大学教授であったことが記されていた。


 しかし瀕死と呼んで良い状態の人間が破壊を振りまく怪人になれるということは、Dr.レリアスの研究は方向性さえ間違えなければもっと良いものになっていたんだろうか?

 そんな事を思いながら私はさらにデータの読み込みを続けた。


 シリス・ギールはゲルゲム団が壊滅した13年前の時点で88歳……今生きていれば101歳か。

 怪人化が寿命を延ばせるのだとしたら生存している可能性も考えられるけど、そこまで万能な技術じゃないんだろうか?

 どちらにせよこの資料が公文書である以上は不確実なことは記せなかったのだろう。それ故に「撃破」というあいまいな表現に留まっているけど……。

 その後本人の活動が確認されていないと追記されているところから見ると、トーエイの行政府も事実上シリス・ギールを死亡しているとして扱っているのだろう。


 そして、私はある可能性に思い当たった。

 獣魔将なる幹部怪人が元人間であるなら……おそらく、ゲルゲム団が擁していた一般の怪人「獣魔」も元は人間だった可能性が高い。

 怪人図鑑に記載されていた画像はいずれも人型をベースにしたものだったし、何よりも資料には「怪物」や「魔物」ではなく「怪人」と明記されていた。


 この星がバイオ工学に秀でていることと合わせて考えれば……住民を遺伝子改造したものが獣魔なのだろう。

 資料に記載されていない、怪人化した人物達がどのような経緯で獣魔と化したのか……だが、幹部と違い怪人図鑑には私の求める記載は存在しなかった。


「獣魔の来歴、か。いったい獣魔は元々なんだったんだろう」

「獣魔は獣と化した難病患者」

「……え?」

「そう言ってる」


 私が漏らした言葉にトワはそう答えると、観ていたアニメ版フォチナイザーのオープニングを指さした。

 トワが付けていたイヤホンを借りてオープニングの台詞を確認する。するとそこには私が求めていた答えが説明されていた。


《かつて、惑星トーエイを襲った影──その名は首領ジャーアック!彼女は7体の獣魔を率い侵攻を開始した。その正体は、Dr.レリアスによるバイオ治療の被験者たち! 難病を克服する代償に、彼らは人の姿を失い、獣と化したのだ!生命を繋ぐために選んだ「獣化」の果てに、彼らはジャーアックの尖兵となり、悪の軍勢ゲルゲム団としてトーエイを襲う!》


「……え?」

「もう一回聞く?毎話オープニングで説明してるけど」


 今のナレーションは創作の一部ではあるけど、惑星を蹂躙した犯罪組織の来歴を大幅に改変する合理的な理由は無いし、そもそも多くの住民は当時の出来事をまだ記憶しているはず。

 となると、このアニメの説明は概ね事実で、人体実験の被験者が獣魔?


「トワ、この後ゲルゲム団がどう勢力を拡張したか、アニメで説明されてる?」

「うん。えっとね……」


 そう言ってトワが説明した内容はこうだ。

 当初少人数だったゲルゲム団だが、侵攻開始直後にギルド支部を制圧。その後、一気に警察機構を崩壊させたらしい。


 この時点でジャーアックは惑星の支配者を名乗り、自らの軍門に降った人間には獣化の力を、刃向かう者には死を与えると宣言した。

 行政府は当然これに反発したけど、一部の政治指導者や民間人がゲルゲム団に参加し、獣魔の数が急速に増加。

 獣魔になることを自ら望んだ者の中から獣魔将も現れ、瞬く間にゲルゲム団の支配領域は拡大していった……と。


「つまり、ゲルゲム団の怪人達はトーエイの裏切り者。それも政治的指導者層まで含まれてるとなると、公的な資料には残しにくいってことか……」

「アニメには残ってる」

「そうだね。むしろ公的資料より創作の方が信憑性があるのかもしれないね……」


 それは少し予想外だった。

 もしかすると、行政府が隠蔽しようとしている事実を、創作の形で語り継ごうとしている人がいたのかもしれない。

 これは公的資料と創作物、両方の情報を付き合わせて行く必要がありそうだ。


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