#5
その後も私達はケンの行動を観察しました。
彼の正義は小さな善行を成すこともありますが、それ以上に混乱と破壊をもたらしている。そんな印象を受けました。
周囲の人達の目が迷惑なものを見る目でありながらも完全に敵視している訳ではないのは、彼の行為が悪意によるものではないと皆が知っていること。
そして何よりも先代のフォトナイザーが惑星を救ってくれたという感謝の念が人々の中にまだ残っているからなのでしょう。
ですが、ケンが今のような行動を続けていれば……おそらく「フォトナイザー」という存在に対する、僅かに残っている人々の信頼は消え失せてしまう。
そんな風に思えました。
「アイリスさんっ、これ見て下さいっ!酷いですよっ!」
「ん?この星のニュースネットの記事?『迷惑ヒーローフォトナイザー、今月に入って既に24件の建造物破壊』『被害者が語るフォトナイザーの横暴』『行政府、迷惑ヒーローの変身禁止条例を審議開始』……?」
どうやらマリエッタはトーエイのニュースサイトで報じられていたフォトナイザーに関する情報を調べていたようですが、そこで語られる論調は私の危惧を裏付けるものでした。
トーエイのメディアや行政府は既にフォトナイザーを危険な存在として認知し、対策に動こうとしている。
特にメディアの論調はその傾向が顕著で、複数のメディアがこぞってフォトナイザーを迷惑な存在、そして危険な存在であると世論を煽っているようにも見受けられます。
ハッテ支部長が統括局に対して「正義的なミッション」を依頼した背景にはトーエイ行政府の判断が関連しているのかもしれませんが……。
「ケンも、見てる?」
「でしょうね。だから余計に焦っているのかもしれませんね」
トワ様の言うとおりです。
これだけ大々的にメディアが報じている訳ですから、当事者であるケンが世論や批判の声を知らないはずがありません。
空回りを続ける彼の行動が焦りによるものだとすれば……その焦りが逆に彼の立場を悪化させてしまうでしょう。
ですが正直な所、私はケンの事が嫌いにはなれませんでした。
普通の若者、それも一民間人でしかないケンが、ここまで世論の逆風に晒されながらも決して「正義」を手放そうとしない。
その姿勢は……悪と戦うために最も必要な資質である、「不屈の正義」であると思えたので。
「正義的なミッション、か……どう解決すればいいんだろう、これ」
「統括局的には、支部の方針であるフォトナイザーシステムの封印を求めてきそうですね。ですがそれが正しいかどうかは……」
「だよね。封印して無かったことにして終わりっていうのはちょっと違う気がするかな。トワ、マリエッタ、2人はどう思う?」
「ケンさんは格好いいですから、がんばって欲しいですっ!」
「封印するなら私がフォトナイザーになる。凝晶!」
アイリスさんの問いにトワ様は右手を天高く上げて叫ばれましたが、当然変身することはできません。
……一瞬、変身したトワ様の雄姿を見てみたいという誘惑に駆られましたが……いえ、今はケンの事です。
「では、ケンがトーエイの社会に受け入れられるよう働きかけるという方向性はどうでしょう?」
「イメージ改善ってこと?んー、内政干渉にはならなさそうだけど……できるかな?」
「ケン、ゆるキャラ化?」
「あの外見はどうみてもゆるキャラ系ではないですが、ご当地ヒーローとしてこの星の人に愛されるようにはできるかと」
「軍隊並みの戦力を持ったご当地ヒーローねぇ……」
アイリスさんは懐疑的な表情でそう言いますが、確かにそれは事実で、ケンの……フォトナイザーの持つ力は強力すぎると言えるでしょう。
街のチンピラを制するために放ったパンチが建造物を破壊するレベルの威力では、偶発的な事故で人を殺めてしまう可能性も考えられます。
ですが正義であろうともがくケンが、あえて人間相手に殺傷力の高い攻撃を放っているとも思えません。
となると、フォトナイザーシステムの機構的にパワーセーブが出来ないようになっている可能性が高いでしょう。まずはそのあたりを調査改善するところから手を付けるべきでしょうか。
いずれにせよ、マーケティング戦略を立てるためにはプロモーション対象のことを詳細に把握しておく必要があります。
私達の考えた方針でケンを支援できるかどうかを判断するためにも、彼にこの話をもっていく前にもう少し情報を集めておいた方が良いでしょう。
そう判断した私達は二手に分かれて情報を収集することにしました。
私とマリエッタは「システムとしてのフォトナイザー」、すなわち技術面での理解を深めることに。
トワ様とアイリスさんは「ヒーローとしてのフォトナイザー」、つまり先代の戦いの軌跡を辿ることでその功績を理解することとなりました。
私とマリエッタが情報を得るために向かったのはギルド支部です。
ハッテ支部長がフォトナイザーに詳しいことを考えれば、この支部にフォトナイザーに関する技術的な情報が蓄積されているのではないかと考えたのですが……。
支部のデータベースにアクセスし、マリエッタが抽出した情報を目にした私は、自分の考えが正しかったことを知ると同時に不審な点にも気付きました。
まず最初に不審に思ったことは、ギルド支部が保管していたフォトナイザーに関する資料が異様に詳細であったことです。
確かにハッテ支部長はフォトナイザーフリークのような人物ですから、様々な手段で情報を収集しているのだろうとは思っていました。
ですが蓋を開けてみるとギルドに集積されていた情報は……フォトナイザーシステムの中核となるQPL技術のブラックボックス部分を除けば、ほぼ完全に解析が行われていると言っても良いレベルの高精度なものでした。
私がその事を指摘すると、マリエッタは言いました。
「この情報、ディテールの細かい部分は全部ハッテさんのプライベートデータですっ!」
「……マリエッタ?個人ストレージへのハッキングは違法行為ですよ?」
「でもっ、管理官命令ですから合法ですっ!」
これが監察権を発動した後であればその理屈は成り立ちますが……いえ、私が「フォトナイザーに関するあらゆる情報」と指示し、マリエッタはそれを忠実に実行しただけですね。
情報の出所はともかくとして、ハッテ支部長個人が、ギルド支部が保有するよりも詳細な情報をどこから得ているのかは少し気がかりです。
そして、それ以上に私が驚いたのは……フォトナイザーシステムにはC3が使用されていないという事実でした。
確かにフォトンはC3を通さない素の状態でも十分なエネルギー量を持っています。
ですが生のエネルギーでは扱いが難しいこともあって通常はC3を用いたエネルギーの制御や増幅が行われます。
それなのに、フォトナイザーシステムにはその制御を担うC3が用いられていなかったのです。
「もしかして、ケンが暴走しているように見えるのはこの技術仕様のせいですか?」
「もしかしなくても、そうですっ!」
もしフォトナイザーシステムにC3を組みこむことが出来れば、無駄に高い攻撃力を抑制することが可能かもしれません。
ですが、それが可能かどうか、またそもそも何故C3が使われていないのか……。ハッテの持つ資料にもなぜそのような仕様になっているのかまでは記載されていませんでした。
技術者ではないケンに聞いてもフォトナイザーシステムの技術的な謎は解明できないでしょう。
なら、どうすれば……?




