#4
街を行くケンを見つけた私達は、彼の後ろを尾行した。
なんか探偵みたいでワクワクするよね。
私とアイリス、それにアリサとマリエッタの4人で後をついて行っているのに、ケンは私達が尾行していることに全く気付いていないみたいだった。
「正義のヒーローなのに、ちょっと警戒心なさ過ぎじゃないかな?」
「アイリス。それは違う。ヒーローは追跡する側でされる側じゃない」
「そうですよ、アイリスさん!ヒーローは尾行する専門ですからっ!」
「ええ……」
私とマリエッタの主張にアイリスは納得していないようだ。
でも備考を気にして辺りをキョロキョロ見回すヒーローとか格好悪いし、むしろ尾行に気付かない方がヒーローっぽいよね?
で、結局2時間ぐらい彼の後をついていったんだけど、全部で7回、ケンはチンピラと揉め事を起こした。
「この星の治安、おかしいですっ!なんでこんな頻度でチンピラとかゴロツキが襲ってくるんですかっ!」
「いや、そう言われてもねぇ……」
「ええ。マリエッタ?あれは自然にチンピラが喧嘩を売ってきているのではなく、ケンが能動的に揉め事へ関わりに行ってるんですよ」
「はへ!?」
「自警団的な活動なんだろうね、きっと」
ちなみに7回のうち2回は、揉め事に首を突っ込んできたのがケンだと気付いた瞬間にチンピラが逃げた。
4回はケンがチンピラを叩きのめした。
そして最後の1回が、丁度私達の目の薄暗い路地裏で前で起きている訳だけど。
「てめぇ、ナメやがって……!」
「おい、やっちまえ!」
「デカい口を叩けるのは今のうちだぜ?」
ホロムービーの中で悪党が良く口にする定番の台詞を吐くチンピラ達。
これまでの4回も似たような展開で、このあとケンに殴りかかったチンピラが返り討ちにあう……というのが毎回のパターンだったけど、今回はちょっと違った。
「あのチンピラ、ナイフ出してきたよ?さすがにアレは危なくない?」
「アイリス、ケンはフォトナイザー。ナイフは効かない」
「いや、ナイフ持っただけのチンピラに軍隊並の戦力とかありえな――」
アイリスがそう言いかけた時だった。
険しい表情で男達を睨み付けていたケンが、右手を高く上げると大声で叫んだ。
「凝晶!」
瞬間、路地裏が虹色の光に包まれる。
いきなりの大光量に目がチカチカするのを感じながら、ケンの方を伺うと……そこにはメタリックな輝きを持ったコンバットスーツを身に纏った人影、フォトナイザーがいた!
《宇宙シェリフ・フォトナイザーがコンバットスーツを凝晶するタイムは僅か1ミリ秒に過ぎない。では凝晶プロセスをもう一度見てみよう!》
どこからともなく声が聞こえる。
《衛星軌道上の母艦ステラマリアより発信された量子指令が、空間を越えてケン・イチジョウジの身体へと到達する。ナノスケールで編まれた量子フォトン結晶がケンの元へ即座に転送され、わずか1ミリ秒でフォトナイザーの装甲が凝結生成される。フォトン-プラズモン結合が光を物質化し、仮想質量を伴う光の勇者……すなわちフォトナイザーを誕生させるのだ!》
すごい。ケンは本当にフォトナイザーなんだ!
そして、ちゃんと変身プロセスまで解説してくれてる!
親切!
「……今、ナレーションみたいなの聞こえなかった?」
「ケンのいる方向から聞こえましたね。1ミリ秒がどうとかと……」
「いや、変身は1ミリ秒かもしれないけど、解説に5、6秒ぐらい掛かってるよね?」
アイリスとアリサはジト目でそんな事を言ってるけど、私はワクワクが止まらなかった。
横にいるマリエッタも目を輝かせているのが判る。
うん、普通はこういう反応だよね?
だって、目の前でヒーローが本当に変身したんだから!
フォトナイザーに変身したケンは格好いいポーズを決めた後、チンピラに指を突きつけた。
もしかしてあの指先からビームとか出るんだろうか?
『悪党共、フォトナイザーの光を恐れぬなら掛かってこい!』
「やっべ、こいつフォトナイザーだ!おい、逃げろ!!」
『……待て、逃げるとは卑怯だぜ!』
あれ、ビームが出るんじゃなくて戦闘開始の宣言だった。
そして、フォトナイザーの言葉を聞いたチンピラ達は逃げ腰で……あ、皆逃げていった。
逃げ足は凄く速くて、ケンが手近なチンピラに向かって放ったパンチは空振りして、路地に面した建物に大穴を開けてるね。
「ちょっ、あの馬鹿力で殴ったらチンピラがミンチになるでしょ!?」
「それ以前に建造物破壊してますよ、彼。どちらかというとチンピラよりも迷惑な存在じゃないですか、あれは……」
「アイリスさんっ、アリサさんっ、あれは正義のための尊い犠牲ですっ!」
「いや、正義のためなら何やってもいい訳じゃないからね?」
アイリス達がそんな事を言っている間にチンピラ達は皆姿を消してしまった。
後に残されたのは光を放つコンバットスーツを身に纏ったケンと、壊れた建物だけ。
「なんか凄い音がしたけど、なんだ?」
「ねぇあれって、もしかして」
「……フォトナイザーじゃねぇか……」
「あー、うん……行こうか」
野次馬が集まってきて何事かと路地裏を覗き込んでいるけど……そこにいるのがフォトナイザーだと知った瞬間、なんとも言えない表情を浮かべると、みんな足早にその場を立ち去っている。
あれ?この反応って……もしかしてケン、正義のヒーローの筈なのに、あんまり街の人達に歓迎されてないのかな?
>>Alyssa
ケンの行動を見て、私は悪無き世界における正義のヒーローの哀愁を感じました。
私自身も故郷ではケンと同じように悪の組織を潰して回る趣味の活動を長く続けていましたから、ケンの行動原理そのものは理解できます。
ですが、私とケンの間には大きな違いがありました。
私が悪と戦うのはあくまで「子供達」が穏やかに暮らせる世界を作るため。戦いはあくまでもその理想を実現するための手段でしかありません。
ですが、ケンの場合は……悪との戦いそのものが目的となっている。
それ故に、彼は「倒すべき悪」を求めて暴走しているように思えました。
もし私が彼の立場なら、悪が滅びたことを喜ぶことはあっても復活なぞ望む気にもなりません。
むしろ数年不在にしていただけでペレジスには悪の組織がいくつも復活しかけていて、鬱陶しいと思っていたぐらいですし。
一瞬、ケンをペレジスへ招聘することも考えましたが、他星のご当地ヒーローの力を借りずとも、うちのことはうちで……テレジアやオリヴィエ達で十分対処できそうだと考えを改めました。。
「アリサ、どう思う?ハッテさんが言うように、ケンをなんとかして説得した方がいいかな?」
「難しいと思いますよ。彼が正義のヒーローであるなら説得には応じると思いますが……彼はまだ、正義のヒーローではないと思いますから」
「ヒーロー未満ってこと?」
「ええ。悪の組織を倒したのは彼ではなく、彼の父親であるリュウです。もしリュウが今もフォトナイザーだったとしたら、彼は私達が介入するまでもなく自ら戦いを終えていたはずでしょうから」
そう。ケンの父親である先代フォトナイザー、リュウ・イチジョウジは惑星トーエイを守るために戦い、相打ちに近い形とはいえこの星を守って正義を成しました。
もしリュウが今もフォトナイザーだとしたら……おそらく自分の守った平和に満足し、戦いを止めることも出来ていたでしょう。
ですがリュウはすでに亡く、今のフォトナイザーは偉大な父親から正義と力を託されながらも、それを振るう相手が存在しないケンです。
継承された正義は、フォトナイザーという存在は……おそらくケンにとって正義という名の呪縛となっている。
それ故に説得によってケンにフォトナイザーであることを止めさせることは困難だと、私は思いました。
「そっか……なら、ケンが最初に言ったみたいに、悪の大幹部やるの?」
「確かに悪を倒すことが出来ればケンは満足してフォトナイザーを止められるかもしれませんけど……マッチポンプではあまり意味が無いかと。それにアイリスさんが幹部役をやってくれるなら止めませんけど……嫌ですよ、私は」
「私だって嫌だよ、そんな役」
「じゃあ私が首領をやる」
私達の会話を聞いていたトワ様が腰に両手を当てたポーズでそう宣言されました。
その姿は……悪の首領というよりは、どこからどうみても地上に舞い降りた天使、女神、妖精の類いです。
「無理だし、ダメだよ?」
「ええ、全くです。それにもしトワ様がケンの対峙する相手になってしまうと、ケンは全銀河の敵、憎むべき大悪党になりますから本末転倒です」
「解せぬ」




