#3
>>Towa
アイリスがフォトナイザーに会うと言う。
それを聞いて私はここ最近で一番ワクワクした。
たぶん、子牛の出産を見学できると知った時と同じぐらいワクワクしてるんじゃないかな。
サインして貰いたいけど色紙持ってないし……あ、そうだ今着てるTシャツにサインして貰おう。
あと、どうやって凝晶するか教えて貰って、私もフォトナイザーになってみよう。
そんな事を考えながら、私達はぞろぞろと隣室へと向かった。
そこにいたのは17、8歳ぐらい……つまり私達と同年代の青年だった。
少し縮れた短い黒髪に意志の強そうな太い眉。革のジャンパーと白いジーンズを身につけている。
これがフォトナイザー……?だけど変身してないと普通だね。
この人がたぶんケンっていう人だと思いながら私が見ていると、支部長のハッテさんが口を開いた。
「管理官、こちらがケン・イチジョウジ氏です。ケンさん、こちらかが今回依頼を受けて下さったギルド管理官の方々です」
「はじめまして。アイリス・ブースタリア二等管理官です」
「同じく、アリサ・シノノメ二等管理官です」
「トワ。シンガー」
「あのっ、マリエッタですっ!握手して下さいっ!」
「マリエッタ、ずるい。私も握手して」
ケンに握手を求めた私とマリエッタは、アイリスとアリサに首根っこを捕まれた。解せぬ。
「おお……俺はフォトナイザー、ケン・イチジョウジだぜ!俺のことはケンと呼んでほしいんだぜ!」
「……それで、ギルドに依頼があると伺いましたが?」
ケンの言葉に対するアイリスの返事はかなり冷たい。
あれ?もしかしてアイリス……怒ってる?なんでだろう。
そんな事を思っていると、ケンはいきなり土下座した。
アリサに向かって。
「頼む、俺を……助けてくれ!」
あれ?フォトナイザーって皆を助ける側だと思ったんだけど、アリサに助けを求めてる?
しかも土下座しているし。どういうことだろう?
「あんたなら、十分に務まるはずだぜ……悪の大幹部役が……!」
「……は?」
アリサの声と目線が氷点下の冷たさになったのが私にも判った。
なんだろう、この状況。
その後、ハッテさんがケンを立たせ、私達は一度落ち着いて状況説明を受けることになった。
なんでもケンの父親である先代フォトナイザーの活躍によって、悪の組織ゲルゲム団とその首領ジャーアックは倒れた。
うん、それは私も知ってる。
90分のホロムービー見たからね。
でも、その戦いで負った傷が元で先代フォトナイザーは戦後しばらくして命を落としたそうだ。そしてケンは父親が残したコンバットスーツを使って平和を守ると誓った。
うん、受け継がれる正義の系譜ってやつだ。
けど、ここで問題が起きたらしい。
「悪が……倒すべき悪がいないんだぜ!」
なんでも先代フォトナイザーは悪の組織を完膚なきまでに叩き潰したらしく、残存勢力や後継勢力のようなものがこの13年間ほぼ現れていないらしい。
そのせいで最初のうちはフォトナイザーを正義のヒーローだともてはやしていたトーエイの住民達も、徐々にフォトナイザーとその戦いを忘れていったそうだ。
そして……倒すべき悪のいない世界でケンは、それでも正義の戦いを続けようとしているらしい。
「志は立派だと思うけど、どうしてアリサが悪の大幹部なのよ?」
「ギルドは!銀河的な組織なんだぜ!結構謎っぽいし!なら、そこの美人でボインな人は悪の大幹部に最適なんだぜ!」
「誰が大幹部に最適ですか!」
「アリサは女神で女帝。今日から大幹部も追加?」
「追加しないでくださいっ!」
良くわからないけど、どうやら倒すべき悪がいなくなったケンは自分で悪を用意しようと考えたらしい。
それ、なんて言うんだっけ?ライターポンプ?
「頼むっ、ギルドに悪の組織として振る舞って欲しいんだぜ!!」
「ヒーローが悪を求めてどうするのよ!自作自演でしょ!」
「それ!」
うん、自作自演ってやつだ。
でもそれ、正義のヒーローがすることじゃないよね?
アイリスはそんな依頼は受けられないといってケンを追い返しちゃったけど……どうせなら帰る前に凝晶するところを見せて欲しかったな。
「トワさんっ、あとでさっきの映像復習して凝晶ポーズの練習しましょうっ!」
「わかった。じゃ今夜から特訓」
「はいっ!」
「いや、特訓しても変身できないからね?それよりマリエッタ、そんなに派手に動いて体は大丈夫?」
「はへ?普通ですけど……でも、ちょっと体が重い気も……?」
「トーエイって普通の惑星より重力負担が大きいからね。体調悪くなったらアルカンシェルへ戻っていいからね?」
そういえば私も惑星に降りてから少しだけ体が重い気がしてたんだけど、そういう理由があったんだね。
あれ?じゃあずっとこの星にいたら筋トレしてることになるのかな?
私がそんな事を考えていると、アリサがハッテさんに声を掛けていた。
「それで、支部としてはどうされる方針なのですか?まさかあの男の希望通りという訳にはいかないでしょう?」
「ええ、それはもちろん……。既にこの惑星は平和ですから、ギルドとしてはケン氏に正義のヒーローごっこは止めにして頂くのが良いかと考えております。フォトナイザーのシステムも破棄するか、封印するか……」
「本人はそんな気は無さそうでしたけど」
「それが一番の問題です。ギルドでフォトナイザーシステムをお預かりすることも提案してみたのですが」
え、ギルドがフォトナイザーシステムを預かるなら私も使ってみたい。
マリエッタの方を見ると、彼女も目を輝かせていた。アイリスとアリサは……ちょっと胡乱げな目でハッテさんを視ているね。
「ダメだよ、トワ、マリエッタ。あれは危険な軍事力だからね?」
「えーっ、アイリスさん、ひどいですっ!」
「我々は、凝晶を希望する」
「希望しますっ!」
「だからダメだって。そもそもケンはコンバットスーツを手放しそうにないし」
アイリスの言葉にハッテさんは頷き、ギルド支部としての依頼はケンが「正義のヒーローとして行動を改めるようにすること」だと言ってきた。
なんでもケンは正義が空回りして周囲に迷惑を掛けているらしい。
アイリスはケンがどのような活動をしているのか直接確認してから行動方針を決めることにしたみたいで、私達は支部を去ったケンのあとをついて行くことになった。
早速ケンの後を追おうと会議室を出たところに、えらく大きな人が立っていた。
身長2mぐらいある、ガタイのいい男の人。ギルドの人っていうよりボディーガード的な感じかな?
アイリスもその人が気になったみたいでハッテさんに紹介を求めるような目線を送った。
「ああ、彼はアルゴス。私の秘書です」
「秘書……さん?ボディカードではなくて?」
「ええ、彼は監察部の出身なのです」
監察部っていうとヒナの元同僚?でもそんな人が秘書をしてるのはちょっと意外だね。
私達はアルゴスさんに軽く挨拶してから、支部を離れた。
途中、アリサがアイリスに小さな声で話しているのが聞こえた。
「保安部ではなく監察部、ですか」
「ん、ちょっと気になるね。色々と」
2人の話を聞きながら、私も思った。
確かに気になるよね。どうやって凝晶するのかとか、私にも凝晶できるのかとか。
早くケンを見つけて観察しないと。




