#2
>>Iris
ミッションオペレーターであるサンディが言っていた「高度にせいぎてきなミッション」と言う意味はこれか。
私は映像を見ながらそんな事を思っていた。
確かにこれは高度に正義的だ。
なにせ、相手は正義のヒーローっぽいからね。
トワとマリエッタはホロムービー気分で見ていたようだけど、もしこの映像と惑星の情報が事実なら、これはとんでもないことだと私は思った。
なぜならフォトナイザー……リュウ・イチジョウジは軍属でも警官でも無い一民間人に過ぎないのに、惑星政府が軍事力で抑えきれなかったゲルゲム団なる犯罪組織を単身壊滅させたというのだから。
それはすなわち文民統制されていない強大な軍事力が野放しになっているということに他ならない。
リュウと言う人物は正義のヒーローかもしれないけど、もし心変わりして惑星の行政府に牙を剥いたら?
このトーエイは容易に彼の手に落ちることだろう。
それがどれだけ危ういことなのか……。
私は内心の動揺を押し殺し、平静を装いながらハッテ支部長に問うた。
「それで、任務というのは……このリュウ・イチジョウジという人物に関するものですか?」
「はい。もっともリュウ氏はすでに故人ですので、息子のケン・イチジョウジ氏に関するものですが……」
フォトナイザーは既に死んでいる?
それは朗報なのか、悲報なのか私には判らなかった。
だが息子がいるということは、そのケンなる人物がフォトナイザーの後継者になっている可能性がある。
ではその人物の討伐が今回のミッションなんだろうか……?
私がそんな事を考えている間に、トワがハッテさんに声を掛けていた。
「フォトナイザーについて教えて」
「わたしも聞きたいですっ!」
「承知しました。フォトナイザーについては秘密も多いのですが、判っていることをお話ししましょう。まずその装甲服についてですが、あれは量子フォトン結晶技術を用いた……」
しまった、私が思索にふけっている間にハッテさんが早口の解説モードに入っている。これは途中で中断させられないやつだ。
仕方なく私も彼の話を聞くことにした。
フォトナイザーと対峙するには少しでも情報が多いに越したことはないからね。
ハッテさんの説明はかなり具体的なものだった。
フォトナイザーが纏うコンバットスーツは量子フォトン結晶……Quantum Photon Lattice、QPL技術と呼ばれるもので、フォトンを特殊な構造に閉じ込めて「仮想的な質量」を発生させることによって生成されるらしい。
フォトン自体は純粋なエネルギーなので本来は静止質量を持たないけど、十分なエネルギーに対して特殊な相互作用を持たせることで物質のように振る舞う状態を作ることが出来るのだとか。
「フォトンが……物質のように?初耳ですが……」
「うん、私もフォトン工学に詳しい訳じゃないけど、かなり非常識な話だよね?」
熱弁を振るうハッテさんをよそに、アリサと小声でそんな言葉を交わす。
技術的なことまでは理解出来なかったけど、フォトンープラズモン結合と呼ばれるナノスケールの結晶構造で光を閉じ込め、実体を持つ疑似粒子を形成。
それをパワーアシスト機能付き装甲服として身に纏っているのが、フォトナイザーと呼ばれる戦士だということだった。
さっきマリエッタが言っていたフォトニックブレードはフォトナイザーの持つ武器で、原理的にはエネルギーブレードの一種だけどQPLによって光を実体化させているらしく、かなりの破壊力があるとハッテさんは熱弁した。
ただフォトナイザーにも弱点はあり、消費エネルギーが莫大なので一度の戦闘で10分以上スーツを維持できないことや、スーツを転送するために衛星軌道上に待機している母艦が必要であることなどが知られているらしい。
「……どうして広く一般にヒーローの詳細と弱点が知られているのですか?」
アリサがジト目でそんな事を聞いている。
そういえば秘密が多いと前置きされた割には情報量多かったよね、今の話。
「フォトナイザーはこのトーエイの救世主ですからな。メディアが総力を挙げて何年も調べた結果です」
「……悪の組織にバレたら不味い情報もあったよね?弱点とか」
「いえ、すでにゲルゲム団なら壊滅していますから」
セキュリティクリアランス的に問題があるんじゃないだろうか。
そんな事を思った私は最初に抱いた懸念を思い出した。そうだ、フォトナイザーは公的な存在ではなくあくまでも民間の一個人なんだ。
だけどこれだけの技術、おそらくバックにトーエイの行政府か、それに連なる企業や団体のバックアップはあるはずだろう。
「ハッテさん、フォトナイザーシステムを開発したのはトーエイ政府ですか?それとも軍部やどこかの研究所?」
「いえ、ケン氏の祖父にあたるジョウ・イチジョウジ博士が個人的に開発されました」
「個人で開発した装備なの!?」
フォトナイザーという存在は全てが規格外で常識はずれだ。
主に悪い意味で。
「ところでケン氏が隣室でお待ちです。今回の依頼者は彼ですから……」
「え?ギルド支部の依頼じゃないの?」
「はい。13年前、ゲルゲム団の侵攻によってギルド支部も悪の手に落ちました。それをリュウ氏に救って頂いた恩があるのです。ですので、ご子息のケン氏の依頼を断りづらく……」
「……いや、民間人を頼る前にギルド保安部の戦力を頼ってよ……」
思わずそう口にしたけど、ギルドの戦力を星外から呼び寄せるには数年単位で時間が掛かる。
ゲルゲム団とやらが電撃的に惑星制圧を果たしたのだとすれば、ギルドの戦力は間に合わない可能性も高い。
先代のフォトナイザーがいなければ、ギルド支部ごとトーエイはゲルゲム団の支配下に置かれていた可能性は高い、か。
そのような状況ではギルドがケンという人物の要請を断れないこと、そして曖昧な内容でミッション依頼を出さざるを得なかったことは、不本意だけど納得はできた。
なら、会ってみるか、そのケン・イチジョウジ……当代のフォトナイザーとやらに。




