#1
この物語を大葉健二氏に捧ぐ
宇宙の正義を守り続けた、その勇姿への深い感謝とともに
>>Alyssa
「……ごめん、もう一度言って貰える?」
「高度にせいぎてきなミッションです」
通信機越しに次のミッションを伝えてきたギルド統括局ミッション管理センターのオペレータ……サンディ・イズルハの言葉を再度聞き直したアイリスさん。
しかし答えは最前と同じく、不明瞭な発言でした。
「ん……なんか通信回線がおかしいのかな。ともあれ高度に政治的なのは判ったよ」
「ではミッション詳細をお送りします。よろしくお願いします」
そう言うとサンディからの通信は切れました。
「ね、アリサ。前も思ったけどあの人えらく素っ気ないよね?」
「私相手だと、それなりに愛想は良いんですが」
「え?もしかして私、嫌われてる?」
アイリスさんはそう言いますが、アレは嫌っているというより妬んでいるという方が正しいような気がします。
なにせ現在20歳のサンディは16歳の時に三等管理官になった才媛としてオラクルで話題になっている、期待のルーキーです。
ですが通信相手であるアイリスさんは15歳で二等管理官になった伝説的な人ですからね。
サンディとしては自分より優秀な年下の少女を見て面白くないと感じるのは、ある意味当然でしょう。
「アイリスさんっ、このミッションデータおかしいですっ!」
「え?回線不安定だったけど、もしかしてデータ壊れてるの?」
「いえ、データは正常ですっ!でも……」
そう言ってマリエッタがホロディスプレイに表示したミッションデータに書かれていたのは……。
場所:惑星トーエイ
目的:依頼者の支援
というたったの2行でした。
なんですか、これ。ミッションデータとしては完全に異常ですよね?
そもそも管理官に依頼されるミッションデータには任務の背景や達成目標、期日などが記されていて、さらには関連する情報も添付されているものです。
ですが今回サンディが送って寄越したのはたったの2行。
これをおかしいと言わずしてなんと言うのでしょうか。
「……ともかく、行ってみる?」
「えっ、このミッション受けるんですかっ!?」
「パノプティコの件でスゥ局長に無理言ったからね……断りづらいよ」
そう言ってアイリスさんはげんなりした表情を浮かべたまま、サクヤにトーエイへのジャンプを指示しました。
私達はパノプティコでの星間派遣事業を主導した後、次の目的地へ向かうというナミを送り出し、その後にアノインティングでの問題を解決したマリエッタと合流しました。
ヒナは監察部への報告を行う必要があるとかでオラクルへ向かうことになり、別行動です。
……そういえば別れ際にナミが告げた次の目的地、トーエイと言っていた気がするのですが……?
「ホントだ。ナミも一緒に行けば良かったね」
「でもリュミエール2隻はドッキングできない」
「そっか、マリエッタが戻ってきてるとナミのリュミエールは収納できないか……」
マリエッタもナミも、リュミエールという超光速艇に乗っていますが、私達の母艦であるアルカンシェルはトワ様が言われるように、リュミエールタイプの小型艇を1隻しか収納できません。
つまり長距離ジャンプを必要とする航行の場合、私達と同行できるのはマリエッタ、ナミ……そしてリュミエールのモンキーモデルであるオンブルを駆るヒナの3人のうちの誰か1人だけと言うことになります。
いえ、もちろん現地で合流すれば良いのですが……。
「確かナミ、バイオ系の技術を目当てにトーエイへ行くって言ってたよね?」
「ええ、そういう話でしたね。なら、この依頼もバイオ系の話なのでしょうか?」
「うーん、情報が少なすぎて訳がわからないね。マリエッタ、トーエイの情報って出せる?」
「はいっ!」
軽やかに答えたマリエッタが表示した情報によると、惑星トーエイは化学技術が特に発達した惑星で、バイオテクノロジーが特に盛んだとされていました。
バイオと聞いた私は先日戦ったクローンマフィアを思い出し、一瞬不快な気持ちになりましたが……まぁそれは良いでしょう。
重力が1.12Gあるとの事で入植適合率は少し低めですが、外部からの来訪者ではなく生来のトーエイ出身者なら適合できる範疇でしょうか?
トーエイの治安レベルは良好となっていますが、気になる特記事項が付記されていました。
「何これ……13年前に犯罪組織が一時惑星を掌握?」
「かなり危険な状態ですね。ですがシェリフの活躍で犯罪組織は壊滅……となっていますが」
「シェリフって事は保安官、だよね?」
「悪を倒す孤高のガンマン。格好いい」
「いや、さすがに惑星を掌握する犯罪組織と1人で戦って勝つのは無理だからね?たぶん、この星の警察機関がシェリフを名乗ってるんだと思うけど……」
トワ様がいうシェリフ=正義のガンマン、悪人を成敗するというの図式はホロムービーでも好まれるモチーフですが、もちろん創作のように1人のガンマンが悪の組織を壊滅させることは……。
「でもアリサは1人で壊滅させてる」
「ああ、そういえば身近にそんな非常識な実例があったっけ」
「非常識って酷くないですか!?私、こんなに常識的なのに!?」
私は抗議しましたが、誰も私の抗議をとりあってくれませんでした。
謹慎が明けてから私の扱い、ちょっと雑じゃないですか、アイリスさん。
それにしても高度に政治的……いえ、せいぎてきなミッションとはどのようなものなのでしょうか。
サンディの言葉の意味を図りかねながらも、私達は惑星トーエイへと向かいました。
《……かくして首領ジャーアックは倒れ、ゲルゲム団は壊滅した。
だが宇宙の闇は、なおも爪を研いでいる!
たたかえ、フォトナイザー!
まもれ、フォトナイザー!
正義の光を絶やすな――ありがとう、宇宙シェリフ、フォトナイザー!》
崖……いえ、おそらく採石場の上でメタリックな輝きを放つ装甲服を纏った人影がポーズを決めた映像と共にそんなナレーションが室内に響きました。
「私達、何を見せられてるの?」
「さぁ……」
私の右側でげんなりした表情のアイリスさんがそう言いました。
そして私の左側では……。
「フォトナイザー、格好いい!」
「わたしっ、ブリギッタにフォトニックブレード装備したいですっ!」
目を金色に輝かせたトワ様と、興奮した様子で映像を凝視しているマリエッタがそんな事を言っています。
ここは惑星トーエイのギルド支部。
統括局からの依頼で来たと受付で告げた私達は、ハッテと名乗った支部長に会議室へ案内され、なんの説明もないまま映像を見せられました。
上映時間はおよそ90分。
そして、今まさにその上映が終わった所なのですが。
「……シェリフって言ってたよね?もしかして今のが13年前に悪の組織を壊滅させた人?」
「宇宙シェリフはガンマンじゃなかった。でも格好いい」
「うん、トワの好きそうな感じなのはわかるけど……ハッテ支部長?」
「ええ、彼こそがトーエイの救世主である宇宙シェリフ、フォトナイザーです」
どうやら先ほどの映像はホロムービーの類いではなく、実際にこの星を救ったヒーローの記録映像か何かのようでした。
そしてそんな映像をいきなり見せられるということは、おそらく私達の任務はあのフォトナイザーとやらに関係があるに違いありません。
鈍い頭痛を感じながら、私はアイリスさんに向かって言いました。
「アイリスさん、帰っていいですか?」
「私もその意見には同意だけど、受諾しちゃったからね、ミッション」




