#13
>>Alyssa
アイリスさんが企画したギルドの事業……星間就労者派遣プログラムが動き始めました。
このプログラムはギルドと縁があるいくつかの惑星で進めてられている事業に対して、パノプティコ在住者を労働者として公式に派遣するという形を取っています。
名目上はあくまで出稼ぎのような体裁ですが、実際にはこの制度によってパノプティコで存在しない者とされているヨタ達が人間として再び生きるための第一歩として、扉を開くことを目的としています。
このプログラムの巧みなところはあくまでもパノプティコが定める法規の枠内に完全に収まっているということ。
そのため、私達ギルドはパノプティコの制度を壊さず、ただ希望するヨタを制度の外へと導くことが出来るという点です。
また、アイリスさんはモーリオンギルド単体での事業だと公共性が低いと判断されることを懸念し、他組織にも声かけをして協力を取り付けられていたようです。
至る所で恩を売ってまわっていた事がこんな形で役に立つとは思いませんでした。
ただヨタは住民登録が行われていないので、ネットワークや公共掲示システムのような公的な手段では彼らに対してこの事業を伝えることができません。
そこで私達が考えたのは募集内容を音声化し、ヨタ達が抗議活動を行っている場所や身を潜めている場所にドローンを飛ばして告知放送を行うという方法でした。
もちろん、大音量で告知を行うのではなく、あくまでも常識的な音量……この惑星で合法とされている上限以下である60dBの音量での告知です。
ええ、これは合法な事業ですし、私達は来訪者とは言え善良な市民なのですから。
トワ様は下水道でヨタと出会ったと言っていましたので、そちらにもドローンを飛ばす許可を申請してあります。
申請に赴いた際、以前出会ったレーンというインフラの維持管理担当者が窓口として出てきました。
下水道でドローンを飛ばすという申請をみて彼は私達の意図に気付いたようでしたが、パノプティコのルールには違反していなかったので何も言ってきませんでした。
「アリサ、私直接サクラに伝えてくる」
「はい、わかりました。下水道へ降りる許可は取ってありますので」
「ありがとう」
もちろんドローンの飛行ルートにはトワ様が出会ったサクラというヨタが隠れていた場所の近くも含まれていますが、トワ様としては直接口頭で伝えたいのでしょう。
おそらくそう動かれると見越して、許可を申請していた甲斐がありました。
そして告知を開始した翌日、応募窓口として設定していたギルド支部に徐々に人が集まり始めました。
ただ皆告知を聞いて集まってはみたものの、ヨタである自分達が本当に応募できるのかどうか半信半疑と言った様子で、誰も実際に応募しようとはしません。
どう声を掛けたものかと私が思案していると、人々の中に見知った顔を見つけたトワ様が、女性と子供達の手を取って受付へと誘導してくださいました。
サクラ、と名乗った女性は、受付に座る私に自信なさげな様子で声を掛けてきました。
「あの、本当に……私達でも応募できるのですか?私達は……その、市民登録されていないのですが……」
「ええ、もちろん応募可能ですよ。事業募集要項に示していた通り、参加の意思確認ができればどなたでも応募可能です。このプログラムに参加を希望されますか?」
「はい……はい!」
「うん!」
「はい!」
「賜りました。では詳細の説明と、派遣時に必要な初期物資の配布を行いますので、ギルド支部内へお進みください」
私がそう告げ、トワ様に導かれて3人がギルド支部内へと入っていくのを見届けた瞬間、それまで遠巻きに見守っていた人々……その殆どはヨタ、一部はおそらくロワーズ……が受付へと一斉に詰めかけてきました。
どうやら今日は忙しくなりそうです。
初日に派遣事業へ応募してきた人達は97名。私の見立て通りその大半……95名がシビルスコアを持たないヨタで、2名がヨタに転落する寸前だというロワーズでした。
中には先日私達が遭遇したあの運転手も含まれていました。
彼は私の顔を見て一瞬ぎょっとした表情を浮かべましたが、それでも黙って頭を下げてゆきました。
本日分の受付が終了したので、応募を済ませた彼らを対象にした説明会を開き、第一次派遣事業についての詳細を伝えます。
第一次事業の派遣先は……林業と家具製造を主産業とする新興惑星、ティンバリス。
私達モーリオンギルドとは異なる組織、木工職人組合の管理惑星です。
ジョイナーギルドは弱小組織でティンバリスもまだ開拓が始まったばかりですが、それ故に人手も不足しています。
それに血統主義のモーリオンギルドとは違ってジョイナーギルドは通常の職人組合ですから、ティンバリスに定住する希望者はジョイナーギルドに所属することも可能です。
つまり、ヨタ達にとってはパノプティコからの脱出と就労機会に加えて、後ろ盾となる新しい所属先ができる可能性すら提供されるという、破格の条件が提示されている事になるわけです。
「トワ、てぃんばりすってしってる?」
「行った事ある。鳥串が美味しい」
「おいしい!すき!」
「ミドリもきっと気に入ると思う。アオも」
「てぃんばりす、たのしみ!」
説明会が行われているホールの片隅でトワ様達がそんな話をしている間にも、説明は続きます。
これまでの明るい未来の話に続いて説明されるのは、応募に際してのリスクについて。
パノプティコとティンバリスは8.7パーセク……つまり約27光年程度の距離がありますから、移動は当然冷凍睡眠が前提となります。
冷凍睡眠には解凍事故のリスクがありますから、派遣事業に応募した全員が無事にティンバリスへ到着できる訳ではないのです。




