#6
>>Towa
ヨタという人達のことは少し気になったけど、私達がこの星へ来た理由はナミを回収することだからとアイリスとアリサに念を押された。
うん、それは私だって判ってるよ。
でも、この星はなんだかおかしい気がする。皆が自主的に正しいことをするっていうのは決して間違ってないはずなのに。
そんなことを思いながらギルド支部への帰路を急いでいた私達だったけど、私はふとあることが気になった。
「ナミ。ごはん、どうしてたの?」
「うむ?食事なら、ほれ」
そう言ってナミがキモノの袂から取り出したのは、私もポケットに常備している千年保存できるという触れ込みの固形宇宙食、グリットだった。
そういえばナミはヨモツヒラサカでもずっとあれを食べてたって言ってたし、私と同じ宇宙食マニアなんだね。
「いや、違うからね?好きで食べてたんじゃなくて、お店が利用できないからだからね?」
「またアイリスに心を読まれた」
「うん?妾は好きで食べておったぞ?まぁ、店が使えんのは事実じゃったが」
「え?好き好んでそれ食べてるの?」
「長く親しんだ主食じゃからな」
アイリスとアリサはナミの言葉にあり得ないっていう顔をしているけど、私も一人旅の時は主食にしてたからちょっと判る気がする。
まぁ、美味しい訳じゃないけど、あれはあれでクセになるんだよ。
でも、しばらくグリットしか食べてないなら他のものも食べたくなってるはず。せっかく街に出てるんだから、支部へ戻る前に何か買っていった方が良いんじゃないかな?
私がそう提案すると、アイリスも賛成してくれた。
「じゃあ、私とトワで買い物に……」
「アイリス、お使いなら独りで行ける。私、大人だし」
「いや、そうだけど……。でも言動には気を付けてね?ナミほどじゃないけど、トワは結構減点されそうだし」
アイリスはそう言い、アリサも同意するように頷いてる。
けど、私の意見は違う。だって……。
「アイリスもアリサも減点された。でも、私は減点されてない」
「……そういえばそうだね。じゃ、トワに任せておくのがいい……のかな?」
「まぁ、買い物だけなら大丈夫かと……」
「すまぬな、トワ。ちなみに妾は揚げ煎餅を所望するぞ」
「わかった」
そういうことで、私がナミのご飯を買いに行くことになった。
でも揚げ煎餅って売ってるんだろう?
良くわからないけど……とにかく私は食料品を売ってそうなお店を探すことにした。
通りを歩きながら私はTシャツの胸元に付けているバッジに目をやった。
この星を訪れた旅行者はみなこのバッジを身につけることになっているけど、なんとかスコアっていう数字を表示する以外にもいくつか機能があるって説明を軌道ステーションで聞いたんだっけ。
確か、買い物するときの支払いもバッジを使うとかなんとか。
大抵の星では軌道ステーションでギルドクレジットを地元通貨に両替するとらトークンになったり、携帯端末へ仮想通貨が送られてきたりする。
けど、パノプティコの場合は専用端末であるバッジに通貨が送られてくる……ってアイリスが言ってたっけ。
確かこの星の通貨単位は「クレジット」だったはず。
その名前自体は多くの惑星でも使われている、わりと良くある通貨単位なんだけど、なんとなく私はこの星がいう「信用」は他の星とは全く違う……うまく言えないけど、そう。
まるで人の全てを計っているもののように思えたんだ。
支払いに使うからと思ってバッジを外し、手に持って眺めながら歩いていたせいで私は道路の段差に躓いてバッジを落としてしまった。
慌てて拾おうとしたけど……丸い形のバッジはコロコロと転がっていって……あ、路肩の穴に落ちちゃった。
あれ、見るからに下水のマンホールっぽいよね。
もし落としたのがただの通貨トークンなら諦めるっていう選択肢もある。
まぁ金額にもよるけど。
でもあのバッジは身分証を兼ねてるみたいだし、あれがないと公共交通機関に乗れない……つまり、諦める訳にはいかないヤツだ。
ぼーっとしていた事を反省しながらも、私は下水道へ入る方法を思案した。
マンホールがあるということはそこが下水道の点検用アクセスハッチになってるって事だけど、普通こういう所には鍵が掛かってるものだ。
なにせこういう所は基本的に関係者以外立ち入り禁止だからね。
ならどこか他から入る場所を探さないといけないんだけど……一応、開くかどうか試してみようかな?
ダメ元でマンホールの蓋に手を掛けた私だけど、予想以上にあっさりと蓋は開いた。
え、これ鍵掛かってない?
開いたハッチを前に、私はパノプティコの管理が意外といい加減なことに驚いた。
……いや、違うな。
この星、皆が自主的に良いことをするって言ってたから、立ち入り禁止をわざわざ明記したり、鍵を掛けたりしなくても誰も開けたり入ったりしないんだ。
互いを信用する社会っていうのは良いものだ。
だって、私が下に降りる入口を探してまわる手間が省けたからね。
私はなんとかスコアに少し感謝しながら、マンホールの中へと降りる事にした。
降りた先は下水道だった。
うん、臭い。
私がセレスティエルで感覚が鋭敏だということを差し引いても、十二分に臭いね。
他の星でわざわざ下水道に降りたことが無いから比較のしようはないけど、上の都市がやたら清潔だっただけに違和感は大きい。
人が出入りしない地下だからもちろん照明なんかもついていないし、開いたマンホールの入口から差し込む陽の光以外は照明になるものもない。
正直長居したい場所じゃないから、早くバッジを見つけて上へ戻ろう。ナミもお腹空かせてるだろうしね。
そう思って辺りを見回したんだけど、バッジらしきものは見当たらない。
それもそうだ。
マンホールから続くタラップの下こそ足場になってるけど、それ以外の場所は下水が流れてるんだから。つまり、私のバッジは下水に落ちたんだろうね。
あのバッジ、水に浮くんだろうか。
それとも沈むんだろうか?
もし沈んでいるとしたら、あの下水の中へ入っていかないといけないのか……。そう思うとかなり憂鬱な気分になった。
うん、なら浮かんで流れていった方に賭けよう。
下水へ入るのは流れていったんじゃないと決まってからでも遅くないからね。
そう考えた私は、下水が緩やかに流れる下流に向かって進むことにした。
「タブ、照明付けて」
私の言葉に、左手にはめたフォトンタブ――レゾナンスシールド内蔵の、アイリスがくれた愛用品――が仄かな光を放つ。
周囲を照らす照明として使うには心許ない光量だけど、私の目ならこれで十分だ。
光を下水の水面に向けながら、私は地下を進む。




