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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部2章『サクラメント』アノインティング-恵授の惑星
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インターミッション『アナテマ』アノインティング-贖罪の惑星 #1

 ヒナが再び目を覚ましたのはトワ達がアノインティングを離れた日の夕刻だった。

 彼女が骨髄移植を受けてから5日目。


 本来であればまだ移植を受けた細胞の生着が始まるかどうかというタイミングだが、既にヒナの体ではアリサから移植された造血幹細胞が新たな血を……テロマーの血を産み出し始めていた。


 血液検査の結果、正常値の2/3程度とは言え白血球の数が確認され、それに従いヒナの体も医学的に見ればあり得ない速度で治癒が進んでいく。

 免疫機能も順調にヒナの体に適合し、もはや内部から彼女の体を責め立てることもない。


「これは一体どういう現象なのでしょうか」

「古代の神秘ですっ!」「ギルドの秘密かな?」

「古代ギルドの神秘的な秘密ですか……」


 異口異音で適当な事を答えるヒナとマリエッタに医師の困惑は増すばかりだった。

 納得は行かないまでも医師はヒナの回復が順調……いや順調すぎることを認め、数日のうちに退院できると太鼓判を押した。

 本音としては研究のためにしばらく留まって欲しいと付け加えながら医師が病室を去った後、ヒナはマリエッタに話があると切り出した。


「マリエッタ……その、ごめん」

「ん?ああ、アイリスさん達に置いて行かれたことっ?いいよっ、追いかけたらすむ話だしっ!」

「違うよ。ワタシの体のこと。アリサ様に聞いたでしょ?ワタシ……たぶん、半分ぐらいテロマーになってる」


 アリサがヒナにのみ告げた……そしてアイリス達が薄々察している、ヒナが常識的にあり得ない回復を遂げている理由。

 それはアリサから移植された造血幹細胞の影響による「セミテロマー化」の効果であることは明白だった。


 そして、テロマーに近くなるということはアリサの先代秘書官であるテレジア同様、女神(アリサ)に近しい寿命を手に入れたということでもある。


 その話をアリサに聞いたヒナは、当初大いに喜んだ。

 一度はもう、自分が恩義を受けたアリサの役には立てないと覚悟をしたのに。

 それが再度役に立てるだけでなく、いつまでも……有限ではあるとはいえ、かつて考えていたよりも遙かに長く、アリサに仕えることができると知り、ヒナは歓喜した。


 だが、アリサが去り1人になった後で彼女はある事を思い出した。

 自分の友であるマリエッタもまた、同じように主であり、養母であるアイリスと共にありたいと願っていたことを。


 当初ヒナは自身が不老長寿を得ることなど考えたことすらなかった。

 限られた命の中で、出来る限りの恩返しをすれば良いと、そう考えていた。


 一方でマリエッタがいつまでもアイリスの側にいたいと願っていることを微笑ましく思うと共に、いつか彼女が「永遠」を手に入れられればと、本心から応援していた。


 なのに現在の状況はどうだ?


 永遠を願っていたマリエッタは何も手に入れられず、永遠を望んでいた訳でもない……いや、むしろかつてピアースが差し出した不完全な永遠を拒絶すらした自分が、永遠の欠片を手に入れた。


 つまり、永遠はヒナにとって女神の祝福であると同時に、マリエッタに対する裏切りの証でもあった。


 だからヒナはマリエッタに謝る。

 本来女神の祝福は自分ではなく、マリエッタに与えられるべきだったと。


「ヒナ、気にしなくていいよっ」

「気にするよ。だって、ワタシ……マリエッタを置いて行っちゃう」

「あはは……マリエッタだけ、みんなから置いて行かれちゃうんだね……」


 マリエッタは少し寂しそうにそう言ったが、続けてこうも言う。

 もしかしたらどこかで不老長寿を手に入れられるかもしれないから、と。


 普通に考えればそれは荒唐無稽な夢物語でしかない考えだが、実際マリエッタの周囲には由来の異なる不老長寿の存在が複数いる。

 なら、いつかは本当にマリエッタも永遠を手にする事ができるかもしれない。


 微笑みながらそういうマリエッタに、ヒナは黙って頭を下げることしかできなかった。



 さらに6日後、ヒナは退院した。

 入院中、何度も互いの想いをぶつけ合った2人は、ヒナがマリエッタの永遠探しを全力サポートするという形で、ヒナが抱える罪悪感を――一時的とはいえ――和らげることに成功していた。

 精神状態も概ね安定し、身体機能はほぼ元通り。

 ヒナにとっては3ヶ月ぶりの、痛みも苦しみもない状態だった。


「健康って、失って初めてありがたみが判るんだね」

「あははっ。で、ヒナ、どうするのっ?このままアリサさんを追いかけるっ?」


 マリエッタはそう言うが、ヒナはその言葉に頭を振る。

 自分がこの星(アノインティング)へ来た目的が果たされていない、と。


 監察官であるヒナがアノインティングへ派遣されたのはアリサの補佐のためではなく、C3紛失という重要案件についての監察を行うためだった。

 今回の紛失騒ぎに関連したセレスセラからのクレーム対応そのものはトワの活躍によって円満に解決していたが、裏を返せばトワがいなければ事態は絶対に解決できず、ギルドは信用を大きく失墜させる事になっていたであろうから。


 なので統括局はそもそもの原因であるC3の紛失が盗難によるものなのか、ギルド支部内のサボタージュによるものなのか、原因を究明することを求めている。

 それがヒナに与えられたミッションなのだ。


「もうとっくにお祭り終わってるのに、お祭りの話を聞いてまわるのって、来年のお祭りが待ちきれない人みたいだよねっ!」

「ワタシ、結局お祭り参加してないから……そう言われると余計にダメージ受けるんだけど」

「あははっ!」


 そんな事を言い合いながら、秘書官コンビは再びバディとなって捜査へ赴くことになった。


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