#21
>>Alyssa
ヒナは危篤状態を脱した翌日に目を覚ましました。
まだ意識レベルは明瞭とは言いがたいですが……かろうじて話はできる状態です。
私はトワ様達にわがままを言って、独りでヒナと話す機会を設けて頂きました。
「ヒナ、聞こえますか?」
「アリサ……さま?ワタシ……いきてる?」
「ええ、峠を越したそうです。あとはしばらく我慢すればまた元気になりますよ」
「よかった……アリサさま……まだ、おやくに、たてるんですね」
ヒナはまだ私の役に立つかどうかを気にしています。
そんなことはどうでも良いというのに。
ですが、それがヒナが生きる気力の元になるというのなら、私がそれを否定すべきではないでしょう。
「大事なお話があります。私があなたにしてしまったことを」
「……はい?」
「結論から伝えます。あなたは……人間ではなくなりました」
「……?」
そう。ヒナの容態が安定したあと、私はヒナのバイタルデータを故郷であるペレジスのギルドが運営する病院へと転送しました。
ペレジスの病院には私のバイタルデータ、そして部分的なテロマー化が疑われるテレジアのデータが保存されています。
かつてテレジアは私の血を輸血したとで老化が鈍化するというテロマー的な効果を発現しました。
なら、私の造血幹細胞を移植され、テロマーの血を作る機能を得たヒナは、どうなるのでしょうか?
その結果は、不完全ながらテロマーに近しい能力を持つ可能性がある、というものでした。
おそらくヒナの寿命は常人の数倍に伸びているでしょうし、バイタルデータから推測できる身体能力や回復力、免疫力も常人の範疇から外れる数値になっていました。
言うならばそれはセミテロマーとでも称するべき存在。
ヒナは、そのような存在へと変質していました。
親族であるテレジアのテロマー因子を活性化させたことを悔いたばかりの私が、それ以上の行いを他人であるヒナに行ってしまった。
これは私の罪だと思いました。
だから私は、トワ様達よりも先に……その話をヒナにしておきたかったのです。
そして、彼女を変えてしまったことを詫びなければ……。
そう思いながら、私はヒナの身に起こった変化について、一つ一つ順を追ってゆっくりと説明を行いました。
最後に寿命が延びたであろうことを伝え、一区切りしてヒナに謝ろうとした時でした。
「……うれしい、です」
「嬉しい、ですか?」
「はい……ワタシ、アリサ様の……となりで、ずっとお役にたちたくて。夢、かないました」
「ですが、他の人と同じ時を過ごせなくなりますよ」
「アリサさまと、同じときをすごせますから」
テレジアといい、ヒナといい、どうして私に仕えてくれる子達はこうなのでしょうか。
私のような自分勝手で他人を振り回す人間と一緒にいたいだなんて。
「物好きにも程があります」
私の言葉にヒナはただ、微笑みを返すだけでした。
その後、ヒナが退院するまで数日はかかると――医師は驚異的な回復だと騒いでいましたが――いうことなので、私達もアノインティングへ数日滞在する心づもりでいたのですが、想定外の出来事が発生しました。
衛星軌道上のアルカンシェルからの緊急コール。
何事かと思って応答した私達に、居残りしていたサクヤが切羽詰まった様子で言いました。
『大変、助けて!母様から緊急救援要請きてるの!アタシだけじゃ動けないから、早く帰ってきて!』
サクヤの母、つまりセレスティエルであるナミの身に何かが起きたと言うのです。
私達は彼女に英知を授けられたという恩義がありますし、彼女はこのペルセウス腕に存在する機族達の命を長らえさせられる唯一の存在です。
その危機を放置しておく訳にはいかず……。
「じゃあ、マリエッタがヒナに付き添いますっ!ヒナが退院したら、2人でアルカンシェルさんを追いかけますっ!なので、リュミエールだけ置いていってくださいっ!」
私とアイリスさん、トワ様で話し合い、結果としてマリエッタの提案が最善だという判断になりました。
そして、私は後ろ髪引かれる思いでヒナをこの地へ残し……次なる目的地、惑星パノプティコへと向かうことになったのです――
これにて第3部2章「サクラメント」は終了です。
次回から5回にわたり、アノインティングに残ったヒナとマリエッタの活躍を描く幕間「アナテマ」を送りします。
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