#16
>>Iris
何度聞いてもトワの歌には圧倒される。
儀式に参加していた人達もみな、ただただ圧倒されていたように見えた。
ただ、頂けないのは歌の後に種を奉納する儀式的な動作。
一掴みずつ奉納箱へ入れるようにって昨夜フローラから念押しされてたのに……トワは籠を傾けてまとめてざらざらと流し込んでたよね。
しかもいくつも種、こぼれてたし。
ああいう大雑把なところは誰に似たんだろう……。
万雷の拍手の中、そんな事を思いながら私がジト目でトワを見ていると、隣に立っていたフローラが小さな声で話しかけてきた。
「……やってくれましたわね?」
「なんのこと?」
「今の歌と光の演出です!来年からはまた私が巫女をやるんですよっ!?あの歌と同じレベルを期待されたら、私の立場がありませんわ!」
フローラの言葉に私は笑い出しそうになりながらも、かろうじて吹き出すのをこらえて言った。
「ごめんね。でもいくらギルドの保証が手厚いとは言っても、そこまでサポートしてないから」
「……正直、モーリオンギルドのこと、クリスタルシンガーのことをナメていましたわ。それは謝罪いたします」
「どういう風の吹き回し?」
「……まぁ、詳しいお話は祭りの後にでも」
言いたい事だけ言ってフローラは私の元をそっと離れていった。まぁフローラは今日一日祭祀長として忙しいだろうからね。
また明日以降にでも事後報告を兼ねて話を聞きに行けばいいか。
まずは大役を終えたトワを出迎えて……そして、お小言タイムだね。
「アイリス、どうよ。私褒められてる」
「うん、概ね良かったよ。でも着替えたらお説教だからね?」
「……解せぬ」
本気で納得いかないという顔をしているのは、たぶん拍手で出迎えられたせいだね。
「トワ様……私、感動しました。どうか私にも種をそそいてください。それはもう、ざらざらと」
「アリサ、意味わからないけど、ちょっと問題発言っぽいよ?」
「わたしも、感動しましたっ!トワさんの歌、すごすぎですっ!女神ですかっ!?」
「女神はアリサ?」
「んー、トワは天使枠じゃないかな。もっさりした巫女服でも可愛いしね」
そんな事を言い合いながら、私達は祭りの空気を乱さないように関係者控え室の方へとそっと退去する。
ここから先はこの星の人達のお祭りだからね。
夕方になって製油が終わるまでは一応待機だけど……私達のミッションはこれで無事に完了だ。
>>Alyssa
「それで、どうだった?ヒナの様子」
病院の面会時間に合わせ、ヒナの様子を見に行った私が祭りの会場へ戻ったのはお昼を少し過ぎた頃でした。
控え室へ入った私の顔を見るなり、アイリスさんが問うてきます。
今回、アノインティングでのミッションは私が受注したものだったにも関わらず、結局トワ様とアイリスさんに全てをお任せする形になってしまいました。
クレーム元であるセレスセラのフローラCEOに初めて面会したのも今朝のことですし。
先日はチューリングでのミッションをキャンセルしたこともありますし……私、謹慎明けてから全くお役に立ててないですよね。
少ししょんぼりしていると、アイリスさんが心配そうに声を掛けてきました。
「容態、良くないの?」
「あ、いえ。ヒナの方は今のところ小康状態が続いています。医師が言うには造血幹細胞の生着が始まったようで、多少拒絶反応の兆候はありますけどGVHD対策は行っているとのことで……」
「GVHDっていうと移植した細胞が周囲を異物認定して起きる免疫反応……だっけ?」
「はい、そう聞いています」
「じゃあさっきの表情は?結構深刻そうに見えたけど」
「えっと……それは、私お役に立ててないなぁ、と」
「それ、気にしなくていいって何回も言ってるじゃない。私だっていつもアリサに頼ってるんだし」
アイリスさんはそう言って笑いますが、私自身が少し納得がいかないのです。
ここらで暴徒の群れが祭りに乱入してくれれば、ばばーんと退治してお役に立つところを見せられるのですが。
私が内心そんな荒唐無稽なことを考えていると、アイリスさんが胡乱な目つきで私の方を見ていました。
「……アリサ?なんかマッチポンプ的なよからぬこと考えてない?」
「気のせいです。マッチポンプではないですから」
「よからぬことを考えてたことは否定しないんだね……。まぁいいか。トワとマリエッタはお祭りを見に行ってるから、私達も行こうか。お昼、まだでしょ?」
「はい。お腹空きました」
故郷の星では女神だ女帝だママだと言われる私ですが、遙かに年若いアイリスさんの前ではなぜか妹扱いに甘んじているんですよね……。
なんでしょう、この圧倒的な姉力。
そんな事を思いながら、私達は控え室から祭りの会場へと向かいました。
昨夜もそうでしたが、アノインティングで行われている星賛祭は華やかで活気のあるお祭りではありますが、決して雑然とした様子や伝法な印象は受けません。
昨夜は香油の安静成分によるものかと思いましたが、星賛祭が収穫祭であるのと同時に伝統行事……いえ、どちらかというと宗教行事や神事に近いことに起因するのかもしれないと私は思いました。
実際、夜明けと共に行われたトワ様による星種奉納の儀は神事そのものでしたし、聞けばフローラの立場も祭祀長だと言うことですし。
ですがストリートパフォーマーや特設ステージでのイベント、セレスセラの香油体験会などが開催されているところを見ると、伝統の在り方が少しずつ変わっていっているような兆しも見て取れます。
ショービジネスと伝統、そして宗教の微妙なバランスが保たれている行事なのだとは思いますが……。
「やっぱり気になる?」
「ええ、星賛祭の雰囲気とは違うイベントも散見されますね」
「うん、私もそれは気になってた。たぶんフローラ……いや、リルカの方針だと思うんだけどね」
リルカ、というのは現在セレスセラ社のCEOを務めている第51代フローラ・セレスセラの本名というか幼名というか、ともあれ51代目個人をを指す名だそうです。
聞くところによるとリルカはアイリスさんと同じ16歳で、先代の死去に伴い4年前からフローラ・セレスセラを名乗って活動しているとか。
リルカの代になってから祭りやビジネスに少しずつ改革をもたらしているという話はアイリスさんにも伺いました。
「まぁ、今のお祭りだって初代が考えたものとは違うかもしれないし」
「それはそうですね。51人もフローラ・セレスセラがいたなら、リルカと同じように、ただ前任者を引き継ぐだけということをよしとしなかった人もいるでしょうし」
「でもね、ちょっと気になるのは……やっぱり初代かな」
「気になる、ですか?」
「うん。まだ漠然とした予感みたいなものだけど……。明日にでもリルカに話を聞いてみようと思って。まぁミッションには直接関係の無い話だから、ヒナが良くなるまでの暇つぶし的に、ね」
それはつまり、アイリスさんはヒナが回復の兆しを見せるまでアノインティングへ滞在されるつもりということです。
場合によっては私だけこの星に残ってヒナのケアをするつもりだったのですが……
「いいのですか?」
「トワがね。ヒナと仲良くなりたいって言ってたから。置いていったら仲良くなれないでしょ?」
「……ありがとう、ございます」
「アリサが感謝する話じゃないでしょ?……あ、トワ達いたよ。トワ!マリエッタ!」
しんみりする私を置いて、アイリスさんは2人のところへ走って行かれました。
私はその後ろ姿に軽く礼をしてから、優しい姉の後を追います。




