#12
>>Towa
アイリスがフローラに頼んで見せて貰った画像を見て、私は違和感を感じた。
確かに映像に映っているC3は薄い朱だけど……これ、違う気がする。
アイリスの要望で画像が拡大され、C3がもっとよく見えるようになった。
「……確かに朱、だよね……?」
アイリスはそういうけど、私の違和感はさらに強くなった。
うん、間違いない。これは……。
「アイリス。これ、朱じゃない」
私がそう言うと、アイリスはきょとんとした顔で私の方を見た。アイリスにしてはちょっと珍しい表情かな?
そう思いながら私は言葉を続けた。
「これ、混じってる。たぶん、碧が」
「碧が、混じってる?」
「うん。画像だとどれぐらいの比率かはわからない。でも、混じってる」
「どういうことですの?」
フローラがそう聞いてくるけど、私は上手く説明する自信がない。
なので、ここはアイリスに丸投げする。
「製品として出荷されるC3は朱、蒼、碧の純色なんだけど、適性が低かったり未熟だったりするシンガーが歌うと色が混じる事があるんだよ。普通は不良品扱いになって出荷しないんだけど……」
「混じるとどうなるのです?」
「通常は混じった部分が互いの効果を打ち消し合うから、純色より効果が落ちるね。例えば朱に碧が混じると、混じった割合に応じてだけ効果が……この場合は加熱の効率が下がるはずなんだ。だからこそ不良品なんだけど」
「それ、おかしくないですか?」
「……そうなんだよね。トワ、本当に混じってる?」
アイリスが言うには「女神のC3」とか言うのは同ランクの純色の朱よりも加熱効果が高いらしい。
私は再度映像に映っているC3の色を確認する。
うん、この色だとたぶんそうなると思う。
「うん。混じってる。朱と碧の混色」
「ブレンド!?」
「うん」
「だから、どういうことですの?」
色が混じるのと、混色するのは似ているようで微妙に違う。
アイリスが言うように意図せず混じった場合は互いの色が効果を打ち消し合う。
けど混色すれば相乗効果が得られて同ランクの物より効果が高くなる。
便利なんだけど、それは誰にでも出来ることじゃないし、少なくともとも私が知ってる限りだと私以外に混色が出来る人に心当たりがない。
なのに私がこのC3を見たことないってことが問題だね。
「フローラ、ごめん。これ最高レベルのギルド秘だからちょっと内密で打ち合わせさせてもらっていい?」
「ええ、謎の多い御社の企業秘密に興味はありますが……聞き耳を立てない程度の礼儀はわきまえておりますわ」
「ごめんね、すぐに戻るから」
アイリスはフローラにそう言うと、私は姉に手を引かれて部屋の外へ連れ出された。
そしてアイリスは小声で私に話しかけてくる。
「トワ、混色ってあの混色?」
「うん。でも私じゃない」
「なら、誰が……?」
「エトワール?」
そう混色はギルドのシンガーには不可能なもので、私が知る限りではエトワールである私にしか出来ない特殊な調律方法だ。
私がこれを調律した覚えがないということは、他のエトワールが調律したと考えるのだ妥当だと思うんだけど。
でもアイリスは私の言葉に絶句している。
まぁエトワールは1000年だか2000年だか前に全滅したらしくて、今の世には私の他にエトワールはいないらしいからね。
「……詳しいことの追求はまた後でいいとして、トワはあの女神のC3を再現できる?」
「たぶん。でも、色のバランスが判らないと同じにはできない」
「画像から色の構成比率を逆算して数値化できたら、どう?」
「アイリスが判りやすく教えてくれたら、なんとかなる」
色を数値で言われても良くわからないからね。言葉で伝えて貰った方が私としてはわかりやすい。
というか現物を見ればわかるんだけど……まぁ、現物が行方不明だからこんな事になってるのか。
「わかった。気になる事が多すぎるけど……まず色の比率が判らないとだめだね」
「うん」
そう言うとアイリスは再び室内に戻った。私も後からついてゆく。
「フローラ、ごめん。でも解決の糸口は見えたよ」
「それは嬉しいことですわ。それで、どのような形で解決されるのですか?」
「トワが女神のC3の複製を作る。それを使えば……」
「星讃祭は滞りなく行えますか?」
「たぶんね」
アイリスの言葉にフローラはやや懐疑的な表情をしている。
後ろに立っている執事さんはフローラよりも微妙な顔をしてるね。まぁ混色の説明抜きで複製作るといっても信用して貰えないのは判るけど。
「ですがアイリスさん。1つ問題が」
「まだ新しい問題?もう勘弁して欲しいんだけど……」
「新しくはないですが、新しいとも言えますか……。実は星の油壺は既に祭祀の会場へ設置済みなのですわ」
「げ、それってまさか」
「ええ、既に会場では屋台が建ち並んでいて前夜祭のような状態です。ですから……」
「現地で試験精油ができない、一発勝負になるってこと?」
「はい」
フローラが会社を離れていたのは祭器を会場に設置する作業の監督に行っていたらしい。
私達が通ってきた所は祭りの会場から離れていたから気付かなかったけど、既に星都ボタニカのお祭り会場はかなりの人出になってるとフローラは言う。
え、楽しそう。それ見に行きたい。
私がどんなお祭りかとワクワクしている間にもフローラの言葉は続いていた。
「それに試験精油以前のお話ですが……C3の入れ替えも既に難しいですわよ?」
「どういうこと?」
「人通りが多いですから、囲いを作っていかにもトラブル発生中という空気を出すのは、弊社としてはご遠慮頂きたいのです」
「なら、夜間作業?」
「いえ、前夜祭はおそらく夜を徹して行われると思いますから……」
「それ、もう詰んでない?」
「ええ、割と」
あっさりとそう言うフローラの言葉にアイリスは頭を抱えてる。
うん、なんか大変そうだよね。
でも私はどちらかというとお祭りの方が気になった。
なので、フローラにお祭りのことを聞いてみる。
「お祭り、どういう流れ?」
「星讃祭の流れですか?祭祀は明日の日の出と共に始まりますわ。まず祭祀長である私が星の油壺に対して今年の収穫に対する感謝を述べると共に開会宣言を行います」
「ほほう」
「宣言の後、今年収穫された星見草の種を星の油壺に捧げる儀式を行い、精油を開始します」
「ほう、儀式」
「その後は星の油壺が一日掛けて精油を行い、その間に周囲で舞や歌が奉納されます」
「舞に歌」
「最終的に日没のタイミングで星の油壺が精油を終え、得られた香油を使って街に灯りを灯して翌年の豊作を祈るのですわ」
「楽しそう」
「……楽しそうだけど、その最後で不良品の香油が精製されたら……」
「ええ、もちろん星讃祭は全て台無しですわ」
「ああ、もうっ!割と絶体絶命!っていうかもうダメダメ!?」
あ、アイリスが頭をかきむしってる。
いつも冷静なアイリスがここまで悩むのは珍しいね。
でも、私はあと1つ確認すればなんとかなりそうな気がした。
「種を捧げる儀式って、どんなの?」
「奉納の儀ですか?収穫を祝う歌を歌いながら、種を油壺の奉納箱へ投入するのですが……」
「なるほど。アイリス?」
「……うん?」
「勝った」
「……なにに?」
「わかんないけど、でもなんとかなる」
私の言葉に、どんよりとした表情のアイリスがこちらを見つめてくる。
「種を奉納する時に再調律する。私が巫女になって」




