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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部2章『サクラメント』アノインティング-恵授の惑星
443/475

#4

>>Iris


 オンブルの移動とメンテナンスの手配を終えたタイミングでトワから連絡があった。

 ヒナの状態は思ったよりも深刻だった。重症再生不良性貧血という病気は聞いたことがなかったけど、フォトンタブで調べた病状はオンブルの船内でみた状況と概ね合致している。

 つまりヒナは捜査の過程で罹患した病をおしてミッションに参加していたんだ。


 なら……そんなヒナの想いを無駄にしないためにも。

 アリサ達が安心してヒナに寄り添えるようにするためにも。

 私がセレスセラとの問題を解決する必要があるだろう。


 しかしヒナが感染症でないことが確認出来たことは幸いだった。もし感染力の強い病だったら、彼女が通った軌道ステーションから病院までの経路を除染したり、関係者に対する検疫も必要になってたろうからね。

 それに今回私達はギルドの不手際を詫びるためにアノインティングへ来てるのに、そんな立場で疫病を持ち込んだとなればギルドの立場がさらに悪化してしまう。


 そんな事を頭の片隅で考えながら、私は入管職員にオンブル内の清掃についても手配を依頼した。

 あのままだとヒナが元気になった頃には船内が大変なことになってるだろうからね……。



 軌道ステーション上ですべき手配を一通り済ませた私は軌道エレベータに乗り、独り地表を目指す。

 エレベーターから見えるアノインティングの地表は落ち着いた街並みと一面に広がった農地だ。農地が白く見えるのは植物油の原料になる花畑だろうか?

 そんな景色を眺めながらも脳裏では今後の動き方をどうするかで頭を悩ませる。


「タイミング的に、まず謝りに行くべき所だけど……情報が少なすぎる、か」


 最近ずっと隣にトワがいたから、1人になってもつい独り言が出てしまう。ヒナの容態が落ち着けばトワだけでも呼び戻しておこう。

 そんなことを考えながら地表に降り立った私は、まずギルドのアノインティング支部へ向かうことにした。



 ――正直、ギルド支部の対応はお粗末なものだった。

 対応に出てきたローレンツという名の年かさの支部長は、顧客であるセレスセラを怒らせ管理官が派遣される事態を招いた不手際を詫びこそしたが、本心から反省しているようには見えなかったから。

 敵意を抱いているというレベルではないが、慇懃無礼な態度からは私が年若い小娘であることを軽視しているような節すら感じられる。

 これまでにも経験した事がある反応だとはいえ、支部の尻拭いをしに来た管理官に対する態度じゃないでしょう、それ。


 C3を紛失した状況についても「倉庫に保管してあったが、気付いたらなくなっていた」という弁明にもならない説明に終始していた。

 どうやら代替品のC3を無断でセレスセラに渡したことが気付かれた後、先方に対してもその弁明を行ったらしい。


 その話を聞いて私は頭が痛くなった。この男はダメだ。

 この一件が終わったら支部長を交代させる必要ありという報告を統括局へ送ることを決めた。


 その後も要領を得ない聴取で時間が無駄になるばかりだったので、私はギルド支部での情報収集を断念してセレスセラ社へ向かうことにした。

 既に随分と時間を無駄にしてしまっている。

 唯一収穫があったとすれば……セレスセラのCEOでありこのアノインティングの代表者でもある人物、つまり私がこれから頭を下げに行く相手の情報が得られたことぐらいか。


「フローラ・セレスセラ、か……」


 その名を持つ女性がこの星の統治者であるとローレンツは言った。

 なんでもその名はセレスセラに代々伝わる当主の名で、現在のフローラ・セレスセラは51代目の当主になるなのだとか。


 アノインティングへ入植が始まってから850年程が経過していると聞いているが、当主が入れ替わるスパンが短いのか、それともセレスセラの名がアノインティングという惑星よりも歴史が古いのか……。

 いずれにせよ、一筋縄ではいかない相手らしいということは理解出来た。


 セレスセラ社への移動の足としてローレンツが手配してくれたビークルの後部座席で、私はそんな事を考えていた。

 ローレンツはフローラについて思うところがあるのか、あえて人物像については語らなかったけど……。


 私はふと思いついて、ビークルの運転手をしてくれている若手の――と言っても私よりは随分年上だけど――職員にフローラのことを聞いてみることにした。


「ね、運転中にごめん。フローラ・セレスセラについて教えてくれない?」

「どういったことでしょうか?」

「どんな人なの?」

「フローラという名はこの星に古くから伝わる宗教的な指導者を意味する名だと言われています。神官というか、巫女というか……そういう名前です。セレスセラはご存じの通り、香油の取り扱いを生業とする屋号ですね。この惑星へ移住する前から香油を作っていると聞いています」


 850年で51代目という世代交代の早さについての謎は少し解消されたけど、若手職員の話は私の質問と少し噛み合っていない気がする。

 私が聞きたいのはフローラ・セレスセラの名の由来じゃなくて人物像なんだけど……。


「性格とかは?」

「フローラ・セレスセラの性格……ですか?」

「そう。人となり」

「うーん、難しいですね……。リルカ様ならわかるんですが」


 リルカ?

 初めて耳にする名だけど……ここでその名が出てくるということは、フローラの娘か何かだろうか?

 ギルドの職員が知っているということは後継者候補?リルカのことを聞くべきか、フローラのことを聞くべきか。


「あ、到着しましたよ。あの建物です」


 私がフローラとリルカの関係に付いて考えている間に、どうやら目的地に到着したようだ。



 ギルド支部を出る時点でセレスセラ社に対して来訪のアポイントを取っていたけど、なにぶん当日の飛び込み予約だ。

 受付でCEOは会議中だと言われたら、謝罪のために訪れた身としては大人しく待つしかない。


 通された応接室は、華やかさの中にも上品さが感じられる優雅なインテリアで整えられていた。

 先日通された、成金趣味全開だったファルナスのサロンとは大違いだ。


 仄かに香るのは……おそらくセレスセラの主力商品である香油を使ったアロマ――の残り香だろうか?

 アリサは孤児院の子供達を落ち着かせるためにセレスセラの香油を焚くと言っていたけど、その理由がわかる気がした。


 セレスティエルの嗅覚で香油の残り香を楽しんでいた私はドアをノックする音で我に返った。

 ノックに応じるとゆっくりと扉が開き……壮年の男性が姿を現した。

 フローラ・セレスセラは女性だから、この人ではない。なら……?


 男性の後ろにいる人物を目にしたことで、私はローレンツの失態と侮りの意味を理解した。


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