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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
438/467

#21

>>Iris


 式典が終わり滞在理由が無くなった私達はリシュアとランディ、そしてギルド支部の人達に別れを告げ、チューリングを後にした。

 ファルナス?なんかオフィスに引きこもってたらしいから挨拶する機会もなかったよ。


 ただ、代わりに他の挨拶はあった。

 私達が軌道エレベータに乗り込もうとしたとき、密林の奥から微かにカリオンの歌声が聞こえた気がしたんだ。


「……ありがとう、って言ってる」

「そっか」


 トワの言葉に、私は微笑みを返した。


 ファルナスの企みを利用した作戦は上手く行った。

 トワのオーバーチューンとマリエッタによるフォトンキャパシタのハッキング。

 式典のどさくさに紛れてカリオンを逃がすことにも成功した。

 今後の押さえのためにスポンサー達に倫理的な問題を突きつけ、カリオンに秘められた能力があると見せかけて追撃も防いだ。


 ……だけど、私にできるのはここまでだ。

 ここまでなら私個人の責任と、ミッションが失敗にならない範疇で動くことができるけど、これ以上のことは内政干渉にあたりかねない。


 おそらく今回私が蒔いた倫理上の問題という種が芽吹けば、スポンサー達はファルナスに対する投資を一斉に引き上げるだろう。

 社会的地位のある彼らにとって自らの行いが倫理観にもとる行為だと後ろ指指されることは最も避けたい事態だろうからね。


 そしてスポンサーを失ったファルナスは……チューリングでのハンティングレジャー事業を継続できずに撤退する事になるだろう。



 問題はその後だ。

 この惑星にカリオンという知性を持つ可能性がある生物が生息する以上、入植や開拓には大きなリスクが伴う。

 かといって彼らとのコンタクトを行う方法は現時点では――トワという特殊な人材を除けば――存在しない。

 つまりこの星はアンタッチャブルな惑星になる可能性が高いだろう。


 だけど人類の中には無思慮で無謀な者も一定数存在する。あえてカリオンを刺激するような愚行に走る者がいれば……。

 ブリーズを操船しながらそんな事を考えてた私に、マリエッタが声を掛けてきた。


「やっぱりアイリスさんはすごいですっ!」

「すごくなんかないよ。これは単なる結論の先延ばし、次世代に問題を丸投げしただけだから」

「でも、カリオンさん達を助けられましたっ!」


 マリエッタはそう褒めてくれるが、私は自分の行いが不十分だということを自覚している。

 せめてカリオン達の楽園に人間の手が及ばないように手を打つべきなのに、その手立てが思いつけないのだから。


「アイリスは間違ってない。私はアイリスを信じてる。タカマガハラの時と同じ」

「……ありがと」


 だけど、トワの言葉が私の心を軽くしてくれる。

 そうだ、私はトワの心を守った。それで十分だ。

 そう自分自身に言い聞かせることにした。


 それにしてもタカマガハラ……か。

 やっぱりトワはいつも良いヒントをくれる。


 タカマガハラと同じようにチューリングもギルドの直轄地にすれば、自然保護惑星という形を取ることが出来るかもしれない。

 狩りではなく自然と共存するような文化を築く星……うん、それならカリオン達も共存を許してくれるかもしれないね。


 まだファルナスが事業撤退を決めてすらいないというのに。

 カリオン達が本当に知的生命体かどうかも判らないのに。


 自分が随分と気の早い先のこと考えていたことに気付き、私はおかしくなった。



 前方にアルカンシェルの白い船体が見えてきた。

 さぁ、家へ帰ろう。そしてもう1人の妹を迎えに行こう。


 私達の未来も、まだまだ先が見えないんだから――

これにて第3部1章は終了です

次回は惑星チューリングを巡る幕間をお届けします


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