#20
アイリスが計画したのは……ファルナスがギルドの威信を傷つけようとした計画を逆手に取って、逆にギルドの威信を示すというものだったんだ。
「デモンストレーション……だと?何を……それに、C3の件は!?」
「私の口から説明するよりも、アドル支部長に説明頂いた方が納得されるのでは?アドルさん?」
「は、はい……先ほどのは……この目で見ても信じられませんが、オーバーチューン、です。それ以外にあり得ない」
そう。私があのC3に対して全力で調律を行った結果、C3は調律に耐えきれずに砕け散った。
これはギルドの中でもシンガー以外はあまり知らない事象で、当然ギルド外の人が知ってることは希だ。
そしてオーバーチューンが発生する条件は……。
「オーバーチューンは、C3よりも高ランクのシンガーでなければ引き起こせません」
「高ランク?私が用意したのはAランクのC3だぞ!?」
「私、最高ランクだから」
表向き私は「Sランクシンガー」と分類されてるけど、それはギルドの評価基準がSランクまでしか存在しないから。
実際のところはそれ以上の力があっても今の制度じゃ測れないってことだ。
アイリスはナミから聞いた「エトワールとシンガーの関係」の話をもとに、エトワールがシンガーの起源だと考えた。
つまり、エトワールと人間の間に生まれた存在が最上位とされている「Sランクのシンガー」で、そこから人間の血が混ざっていくにつれて、シンガーとしての力、つまりランクが下がっていく。
ということは……始まりであるエトワールのランクは当然、Sランクのさらに上、SSランクってことになる。
そしてAランクのC3を歌によって砕いて見せたことで、私がSSランクであることが証明されたってわけだ。
ただ私のギルド章に記載されているランクはあくまでもSの表記だし、SSランクだと言う事が知れると面倒事になるからとアイリスには表向きはSランクと名乗るように言われているんだけどね。
ちなみにこれまでBランクまでしか砕いたことが無かったのは、単純にAランクのC3は高くて砕いたら間違いなく怒られるからという理由であって、砕けなかった訳じゃない。
今回は全力でやっていいという言質をとったから、砕いてみた。
C3には悪いことをしたけど。
「ご来賓の皆様方、ギルドの威信を体感して頂けましたか?これがギルドが要する最高位シンガーによる歌の力です」
「「「おお……」」」
アイリスの言葉に会場へどよめきが満ちる。
そしてはじめはまばらに、やがて大きな拍手が起きる。これ、私が褒められてるんだよね?
私がそんなことを考えていると、アイリスが言葉を続けていた。
「ギルド支部の開設祝いにこのような素晴らしいデモンストレーションの機会を用意して下さった、アグスト・ファルナス氏に感謝を」
「う……ぐっ……」
素晴らしいデモンストレーションか……あのサイズのAランクC3って、たぶん大型貨物船1隻……の半分ぐらいの値段はするよね。
随分と派手な開設祝いだけど、ゲストの面前でああ言われたら、そんなつもりは無かったとは言えないよね。
ふとゲストの方を見ると、アイリスの言葉を受けてファルナスに称賛の目を向けている人が半分ぐらい。
残りの半分は……なんだろう?哀れみの目かな、あれは。
たぶんアイリスが言っている言葉が皮肉だと理解している人だね。
「そこで私はギルドの管理官として、些末ではありますがお礼を差し上げたいと考えております。マリエッタ?」
「はいっ!」
アイリスの言葉に返事をしたマリエッタが携帯端末を操作して薄暗い室内にホロディスプレイを展開した。
映っているのはカリオンの画像と、カリオンに関する説明。
それも、生態についてだけでなく、カリオンが知性を持つ可能性を指摘したものだ。
「これ……は!?」
「この惑星チューリングで発見された新種の原生生物について、未だ調査が十分ではないという話を伺いましたので、ギルドが協力して生態の調査を行いました。実に面白いですね、このカリオンという生物は。高い学習能力に加え、他の生物ともコミュニケーションを取っています。そう、まるで……知性があるように見えます」
アイリスの言葉にゲスト達のざわめきが大きくなる。
それはそうだろう。
このホールにはファルナスがわざわざ展望レストランから持ってきた、ハンティングトロフィーが掲げられていたから。
そして……マリエッタがカリオンの映像を投影したのは、まさに狩られたカリオンの頭部の真横だったから。
「……おい、どういうことだ……?」
「知的生命体の可能性……?それはさすがにまずいのでは……?」
「本社に連絡を。出資の引き上げを急げ」
「待て!カリオンは、学術的な定義では知的生命体ではないと生物学者が言っているぞ!」
ゲスト達の言葉を耳にしたファルナスは蒼白な顔で大声を上げる。
だけど、アイリスは冷静に答えた。
「ええ。ですから私もカリオンが知的生命体だとは言っていません。あくまでも知性を持つ可能性を示唆しているだけです。何か学術的に問題でも?」
アイリスは言っていた。
カリオンのことを知的生命体だと認めさせるのは難しいと。
それでも、カリオンが知的生命体ではないかという疑念を抱かせるだけであれば簡単だ、とも。
そして……社会的な地位のあるスポンサー達は、自分達が「知的生命体かもしれない」カリオンを殺すことに倫理的な問題を強く感じるだろうとアイリスは予言した。
そんなアイリスはなおも言葉を続けている。
「残念ながらカリオンの研究は始まったところですが……どうやらまだ未知の能力を持っているようです。例えばカリオンが他の原生生物を指揮することや、カリオンと対峙するとブラスターが不調になること。そして……ある種の物質消滅を引き起こすこともあるとか」
私は頷きながらアイリスの話を聞いていた。
けど、途中からアイリスはおかしなことを言い出した。
物質消滅?
なにそれ、あの子達そんな能力持ってたっけ?
私が心当たりの無いカリオンの秘められし力に首をひねっていると、ホールの扉を開けてハンターらしき人が入ってきた。
「しゃ、社長!カリオンが逃げました!壁と、地面に丸い大穴を開けて……!まるですっぱりと切り取ったみたいな穴なのに、崩れた土や壁の残骸が全く見当たりませんっ!」
……ああ、そういうことか。
私はアイリスの言葉の意味と、式典の間不在だった姉がどこで何をしていたのかを理解した。
アイリスはフェイザーで外からカリオンの檻へアプローチする通路を作ったんだ。
フェイザーの物質分解光線を使えば、音も振動もなく土も壁も消し去れるからね。で、それをカリオンの秘密能力ということにしたんだ。
もしカリオンがそんな能力を持ってたら……カリオンを怒らせた人間は一瞬で消滅することになるって考えるだろうね。
少なくとも、カリオンの事を良く知らないスポンサー達は。
まぁ、本当は怒らせると不味いのはカリオンじゃなくて、アイリスの方だけど。
「いやっ、もういやぁ!早く帰らせて!ここはいやぁ!!」
「マーガレット!?おい、誰か妻を控え室へ運んでくれ!」
なんか派手なドレスを着たおばさんが騒ぎ出して、横にいた頬骨の張った口ひげのおじさんが慌てだした。
そう言えばあのおばさん、最初からなんか具合悪そうだったけど……。
なんで体調不良なのに式典に出てるんだろうね。
騒ぎの中、ホールに再びC3の灯りが灯った。
みると、アドルさんが予備の、元々使っていたらしい仮のC3をリアクターとかいう機械にはめ込んでいた。
明るくなったし、これで出し物終了かな?
じゃあパーティの料理でも……と思ったんだけど、スタッフの人が料理を運び出してる?どうして!?
「ごはん、まだ食べてない」
「シンガー様、申し訳ありません!C3の欠片が混入してしまって……」
「……あ」
……どうやら私がオーバーチューンでC3を砕いたせいで、ご飯が食べられなくなってしまったらしい。
私はがんばったのに。腑に落ちない。




