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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
436/465

#19

>>Towa


 巫女様の服を着た私は今、式典の会場であるホールの外に待機している。

 隣にはマリエッタがエスコート役として付いてくれている。


 ホールの中では何やらファルナスがハンティングレジャーの精神について演説を行い、アドルさんが祝辞のようなものを述べているのが聞こえる。

 確かこれ、ギルド支部の開設を祝う式典だったと思ったんだけど、挨拶だけ聞いてるとファルナスのビジネス開業祝いみたいだよね。


 式典が始まる前に会場の中をちょっと覗いてみたけど、知らない人達が何人も来ていた。

 ハンター達とは明らかに雰囲気が違うから、きっとあれがゲスト……アイリスはスポンサーって言ってたけど、まぁそういう人達だね。

 豪華な礼服やドレスを身に纏ってお上品そうに談笑してたけど、ああ見えてみんな狩りが好きな血に飢えた人達なんだろうか?


 私がぼーっとそんなことを考えていると、マリエッタに腕を引かれた。


「トワさん、そろそろ出番ですよっ!」

「……わかった」


 扉が開け放たれ、私はホールの中へと進む。周囲の注目が私に集まるのを感じる。

 今回、私がするのはこのハンティングベースのエネルギー管理を行うC3の調律。これを皆が見てる前で行うらしい。


 ファルナスは私が失敗するところをゲストに見せたいんだってアイリスが言ってたけど……AランクのC3調律で失敗するとか、普通にありえないんだけどな。


「おお、ギルドの気高きシンガーよ!今宵、奇跡の歌を持って我らの拠点の心臓に命の灯りを与えたまえ!」


 ファルナスがなんか芝居が掛かったことを言ってる。

 私が何か返事をした方がいいのかと思っていると、マリエッタが代わりに喋ってくれた。


「これよりっ!我がモーリオンギルドが誇る最高のシンガーによる調律を行いますっ!」

「おお、最高のシンガー殿でしたか。では、最高のシンガーの全力を是非見せて頂きたく存じます」


 ファルナスは笑みを浮かべてそう言うけど……これ、私が失敗するのを期待してる顔だよね。

 そうだ、確認しておけってアイリスに言われてたことがあったんだっけ。


「全力でいいの?後悔しない?」

「後悔?何をおっしゃっておられるのやら。全力を出さずに後悔されるのはシンガー殿ではないですか!」

「わかった。じゃあ全力で行く」


 言質を取れたので、私は手加減無しの調律を行うことになった。


 C3は既にリアクターとかいう装置に設置されている。

 Aランクだけど、航宙船の推進装置に使われるぐらいのサイズでかなり大きいものだ。

 これはたぶん、結構な良いお値段がする。


 私は見上げたC3に向かって……声を掛けた。


「……ごめんね」


 そして、私は右手を高く掲げ、C3に軽く手を触れて歌った。


 大きなC3は私の歌に合わせて次第に碧の輝きを帯びてゆく。

 シンガーは公開調律なんて滅多にしないから、ゲストの人達は初めて見る調律にどよめきながら興味深くこちらを見ているのが判る。うん、まるで見世物だね。


 そして、ギルドの人達は……口をあんぐりと開けて私とC3を交互に見比べている。

 うん、そうだよね。


 普通だとAランクのC3は複数人で調律するんだって言ってたからね。でも、私はこれぐらいなら1人でも問題なく出来るから。


 そんな事を考えている間にも私の歌に合わせてC3が放つ碧の光はどんどん強く脈動してゆく。


 AランクのC3が許容できる輝きを超える勢いで。


 ……そして、歌がクライマックスを迎えた瞬間。


 ――シャン


 涼やかな音を立て、C3は砕け散った。


 ファルナスも、ゲスト達も、そしてギルドの人達も。


 全員が唖然と見守る中、砕け散った碧の輝きがホールへと拡散してゆく。

 そして……碧の輝きが床に落ちるのと同時に、ホールの照明が消えた。


「なんだ!?」

「何事だ!?」

「おい、照明を付けろ!」

「キャパシタのフォトン残量が0です!」


 暗闇の中、ホールに悲鳴混じりの声が聞こえている。

 混乱し、怯え、戸惑う声が溢れるホールの喧噪をかき消すように、涼やかな少女の声が響く。


「ギルドの(しるべ)たる黒水晶よ!」


 声に反応し、暗闇となったホールの中空に黒水晶を象ったギルドの紋章が光によって描かれた。


「アイリス・ブースタリアの名において命じる!」


 そう、聞こえてきたのは私の大好きなお姉ちゃんの声。

 ギルドの紋章を取り巻くように、アイリスの名前を意匠化した文様がまるで花開くように展開する。

 アイリスの美しさと気高さ。

 そして内に秘めた知恵と勇気を感じさせるその文様は、暗闇のなかで戸惑う人々に対する導きの光のように見えた。


「我が身の証を、光と共に示せ!」


 アイリスの最後の言葉に反応し、周囲に眩い光が一気に弾けた。


 空間が震えるほどの威圧感が漂い、アイリスの頭上に完成したフォトンフラッグが荘厳に浮かび上がる。

 フォトンフラッグの光は室内の暗闇を切り裂き、人々の視線はアイリスへと集中する。


 ギルド職員はアイリスが展開したフォトンフラッグに対して膝を折り、跪礼の姿勢を取っている。

 あれは、アイリスに対して最大限の敬意を示してくれているんだ。


「な……なんだ……?管理官?それも……二等管理官?付き添いの小娘じゃなかったのか……?」

「改めて自己紹介させて頂きます。私はアイリス・ブースタリア。トワの姉にして、モーリオンギルドの二等管理官です。そして、遅くなりましたが……チューリング支部の開設にご助力頂いたこと。そしてギルドの威信を高めるデモンストレーションまで用意頂いたことを感謝いたします」


 そう言うとアイリスはにっこりと微笑んで見せた。


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