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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
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#17

 一通りの状況確認と今後の動きについて相談した私達はチューリングへ戻ることにした。

 揉め事が起こる可能性があるので、私はトワに用意して貰ったイグナイトと、フェイザーを2丁とも持って行くことにした。


 これが必要になるとすれば、今回の表敬訪問ミッションはほぼ失敗ということになるだろうと思いながら。


「アイリス。戻る前にお風呂に入りたい」

「あ、わたしもですっ!豪華なスパリゾートより、アルカンシェルさんの檜風呂の方が落ち着きますからっ!」

「そうだね、じゃそうしよっか。マリエッタ?コーヒー牛乳ってまだある?」

「はいっ!フルーツ牛乳もありますよっ!」


 そして一時の安らぎを満喫した私達はチューリングへ戻った。

 もちろん、星を離れる口実に使った靴を持って行くのも忘れないようにして。



 チューリングへ降り立った私はハンティングベースでランディに呼び止められた。

 何か話があるらしく物陰へ来いとランディはいう。


 先ほどの話もあるので、私はマリエッタに合図をして念のためファルナスとギルドの双方に対する防諜対策を施して貰った。

 ランディは周囲の様子をうかがうようにして言った。


「なあ嬢ちゃん、ファルナス社長から……礼を言われたか?」

「礼?なんの?」

「昨日の件だよ!大口のスポンサー様を救っただろ?」

「……ああ。いいえ、ファルナスとは顔すら合わせてないわよ?」


 私がそう答えるとランディは難しい顔をした。

 普通に考えれば大口スポンサーであるロクストンの命を救ったことに対して、本人……はともかくとして、ファルナスから一言ぐらい礼があってもおかしくはない。

 だけどファルナスはそんな殊勝な人物にも見えなかったし、私は気にもとめてなかったんだけど。


「じゃあ、気を付けた方が良いぞ。ファルナスはな、異様なぐらいの負けず嫌いなんだ。借りを作るのも嫌う」

「うん、そんな感じはするね。でも借りを作らないってことは何かお礼でもしてくれるってこと?」

「礼は礼でもお礼参りの方だな」


 ……あー、そういう感じか……。

 私はなんとなく察した。要するにマウントを取るために私達になにか意趣返しをしてくる可能性があると、ランディは言ってるんだね。


「まぁ嬢ちゃん達は式典に招かれたゲストだからな。手荒なことはしないと思うが……。周囲に気を配っておいた方が良いぞ」

「うん、わかった。忠告ありがとう。ところで……スポンサー様はどうしてる?」

「ああ、あいつらか……」


 ランディは苦虫を噛みつぶしたような表情で、ロクストン達が自分の星へ帰ると騒いでいたと教えてくれた。

 確かにマーガレットは精神に異常を来していたし、ロクストンも完全に心が折れていた。

 彼がハンティングレジャーでチューリングへ移住することは絶対にありえないだろう。


 だが……ファルナスがそれを止めたとランディは言う。


「もし式典前に帰ったり、出資を取り下げたりしたら、今回の醜態をメディアに売るって脅したらしいぞ」

「それ、お貴族様的には、命の危険よりも効果的な脅迫だね」


 なるほど、スポンサーに対してすらそういう対応を取るなら、生意気なギルドの小娘相手に容赦はしない……ということか。私はランディに警告に対する礼を言って、その場を離れた。


 ファルナスがどういう方法で来るつもりなのかと思案したが、その答えは思ったよりも早く手に入った。


 宿舎に戻る前にギルドの出張所へ帰還報告を入れに言った私達の前に、困った表情を浮かべたアドルさんが現れたんだ。

 そうか、ファルナスの意趣返しは私個人というよりギルドに向けてのもの。なら出張所の方に影響が出るのは当然だろう。

 アドルさんの表情をみてそう察した私は彼よりも先に口を開いた。


「何か困ったことが起きましたか?」

「ええ、よくお分かりですね……」


 そう言ってアドルさんが語ったのは式典での演出についてだった。


 元々、式典にはピアース参事官が参加する予定だったからか、セレモニーの中で彼がC3を調律するデモンストレーションが行われる予定が入っていたらしい。

 だが、彼が突然の病死(・・・・・)で出席できなくなったため、その演出は取りやめになったはずだった。


 なのに、今日になって急にファルナスから演出を行うように強い要請があったというのだ。


「調律?別に問題無さそうですけど……」

「いえ、大ありです。そのC3が我々の手には負えない大きな高ランクC3なんですよ!」


 なんでも式典で使うC3はハンティングベースのエネルギー管理に使用する予定で購入された、かなり大きなAランクのC3らしい。

 ここの出張所にはBランクのシンガーが1人、Cランクが2人しかいないので、全員で力を合わせても調律が出来ないとアドルさんはいう。


 なら、どうしてそんな演出が組まれていたのかというと……理由はピアースだ。

 彼はギルドでも数少ないAランクのシンガーで、自らの能力を鼻に掛けるタイプだった。なので式典にかこつけて自分の力を示そうとしていたらしい。


 だが、彼が死んだ事でチューリング出張所のメンバーではC3を調律できなくなった。

 つまりファルナスはあえて調律を失敗させることで、ギルドに恥をかかせようと考えているらしい。


 ……なるほど、来賓として私が「クリスタルシンガーのトワ」を全面に押し立てたから、そこを攻めてくるつもりなんだね。


「Aランクの調律が出来るシンガーなんて周辺宙域には1人もいませんよ!調律を失敗すれば支部へ昇格どころか、出張所自体も廃止になるかも……」

「いや、それは無いんじゃないかな。C3が安定供給されないとハンティングに支障を来すみたいだし。でも、かなり無理な要求はされるだろうね」

「うう、どうすれば……」


 アドルさんはトワのシンガー能力について正確には知らないようだ。

 まぁ、女神コスプレして現れた小娘が最高位シンガーだとは思わないよね、普通は。


 それにしてもAランクか……。


 私は一計を案じた。

 この件をファルナスに対する陽動として使えば、カリオンを逃がすことが出来るかもしれない。


「トワ、今の話聞いてた?」

「うん。どうするの?」

アレ(・・)、やれる?」

「……いいの?大きなAランクは高い」

「言質を取ってからやれば大丈夫だよ」


 そういうことで、作戦は概ね決まった。

 アドルさんには詳細は話せなかったけど、心配しなくていいとだけ伝えておく。


 うん、心配はいらない。

 だって私の妹は間違いなく銀河で一番のシンガーなんだから。


 式典は2日後だ。私は当日に向けた仕込みを行うことにした。



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