#16
>>Iris
私が一晩悩んで結論を出せなかったファーストコンタクトの在り方について、トワは一瞬で結論を出してしまった。
理詰めの合理性ではなく感覚で成し遂げられたファーストコンタクトで、少なくともトワとカリオンの間には仮初めとは言え友好的な関係が築けているように見える。
あとはこの関係が維持出来るような環境作りができれば良いのだけど……。
そのためにはファルナスがカリオンから、ひいてはチューリングから手を引くように仕向ける必要がある。
だが、どうやって?
内政干渉にならず、かつカリオン達との関係を破綻させない方法なんてあるんだろうか。
宿舎へ戻る道すがら、私がそんなことに頭を悩ませていると、トワが唐突に言った。
「カリオン、C3を調律できるかも」
「……どういうこと?」
「昨日、アドルさんに聞いた。狩りに行くとC3が影響を受けるって。カリオンの歌は調律歌に似てる。なら、カリオンの歌がC3を変化させてるかも」
「その話……もしかしてランディ達が言ってた、武器の火力低減のこと?」
「たぶん。C3の色が一時的に薄くなるって聞いた」
「……!?」
そうか、ブラスターの機構そのものが異常を来すんじゃなくて、内蔵されているC3、つまりエネルギー増幅モジュールが機能しなくなってるのか!
確かにランディ達はカリオンと遭遇した時にブラスターに異常が発生すると言っていたし、トワはカリオンの歌がC3の調律歌に近いと言う。
この二つが繋がるのなら……カリオンはC3の調律、いや調律を打ち消すような力がある?
「ね、トワはカリオンみたいなこと、できる?」
「やったことないけど……出来る、かもしれない。再調律するときに、一旦色を消すから、一時的に力を押さえるのもできそう」
「じゃあ、カリオンが持ってる力は再調律に近いってこと?それ……もしかしてかなりヤバい力なんじゃ……」
私はそこまで口にして、慌てて自分の口を手で覆った。
この話、迂闊なところでするのはまずい。
「トワ、この話……外でするとまずい」
「……うん?」
「とにかく、マリエッタも呼んで一旦宿舎へ……ううん、ブリーズへ戻ろう」
「わかった」
無断で姿を消すと怪しまれるので、私はランディとアドルさんに式典で履く靴を忘れたと告げてブリーズへ……そしてアルカンシェルへ一時的に戻った。
宇宙へ出て内緒話をするなら、なにも狭いブリーズの船内にいなくてもアルカンシェルへ戻った方が快適だからね。
途中、マリエッタはいきなりの一時帰還に戸惑っている様子だったけど、説明はあとでするといって我慢して貰った。
『あれ。4日滞在の予定じゃなかったけ?なに、アタシの顔が見たくなっちゃった?』
「はいはい。サクヤ、変わったこと無かった?」
『特に何もー。暇すぎてまた新しい能力開発しようかとおもってぐらい!』
2日ぶりに戻ったアルカンシェル、そして憎まれ口混じりのサクヤの言葉に、私は少しだけ肩の力が抜けた。
そういえば忘れがちだけど元機族であるサクヤも人間ではない知性体だ。カリオンの件について、人間目線とは異なる意見が聞けるかもしれないね。
私はマリエッタとサクヤに聞かせるため、そして自分自身の考えを整理するためにカリオンという知的生命体とのコンタクト、そもそも知的生命体の定義についての疑問について説明した。
そしてカリオンと歌によるコミュニケーションが取れる可能性と、C3に干渉する可能性についても。
「それ、やっぱりカリオンさんと敵対したらダメなやつですっ!文明の根幹が壊されちゃいますよっ!」
『アタシらの文明はC3ってあんまり使ってなかったけど、こっちは完全にC3依存っしょ?それに干渉する生物とかチョーやべーじゃん。それってまるで生体兵器的な?』
サクヤの言葉使いそのものは軽いが、彼女が指摘する内容は私達ペルセウス腕に住む人類にとっては死活問題になり得る話だった。
カリオンが人類に敵対したら?
いや、何者かがカリオンを兵器として利用したら?
C3が力を失い様々なインフラが機能を停止すると、人類は滅びてしまうかもしれない。
「……!もしかして、それでっ!?」
サクヤの言葉にマリエッタが反応した。
どういうことかと思って話を振ると、マリエッタは少し話しにくそうに……ファルナスの管理下にあるハンティングベースのサーバにハッキングを仕掛けたと自白した。
そしてその中でファルナスがカリオンを星外へ輸出しようと計画していた節がある、と。
「もう星外に輸出されてるの?」
「いえ、つい先日直前でキャンセルになってて……それが、実はですねっ!搬送予定のお届け先が……オラクルだったんですっ!」
オラクルXVIII。それは私達モーリオンギルドの拠点であり、統括局がある機動要塞だ。
C3の流通を管理する本丸にカリオンを送り届ける?
それってもしかして……。
「それ、ギルドの中核に対する攻撃じゃないの?誰の差し金?」
「それなんですけどっ、受取人の名前はイルメなんとか?って書いてあったんですけど、調べたらそれピアースのことだったんですぅ」
「……ここでその名前が出てくるのか……」
私は思わず唸ってしまった。
イルメなんとかという名はどこかで聞いたような気はするけどおそらくは偽名だとして、問題はベネディクト・ピアース参事官のほうだ。
ギルド監察部のトップにして、星喰みなる星間犯罪の黒幕だった男。
そして……ヒナとマリエッタが倒した「敵」であり、今回私がこの星へくる理由でもある。
「ピアースがこれまで関与していたのって……確か機動兵器に違法薬物だっけ?」
「はいっ、あと人身売買とかもやってましたけど……」
「もしかして薬漬けにした人間を機動兵器に乗せて、C3干渉で攪乱しながらギルドに反乱でも起こす気だったのかな……」
「うひゃぁ!?そんなことが!?」
いや、それはただ表面上の出来事を乱暴に足し算しただけの妄想だけど……でも、ピアースが何かを企んでいたことは間違いないだろう。
そして、幸いにもその企みはピアースが倒れたことで未然に防がれている。
「ハンティングベースの地下にいたカリオン、オラクルへ行く予定だった?」
「……それ、ありうるね。受取人が死んで宙ぶらりんになってるから、あそこに放置されてると考えると、納得できるよ」
トワの言葉に私は同意した。
おそらくあのカリオン達がピアースの手に渡るはずの個体だったのだろう。
地下に囚われた状態はカリオン達にとって決して好ましくはないとはいえ、オラクルへ運ばれてしまった後にどう扱われる予定だったかを思えば……まだマシな扱いだったのかもしれない。
状況的にカリオンの兵器利用はピアースの独自計画で、ファルナスはこの件について知らない可能性が高い。
もしファルナスが知っているなら、ギルドの人間である私達に捕らえたカリオンを見せびらかしたりする筈がないからね。
「ヒナ、実は英雄?」
「そうだね。意図せずとはいえ、人類の破滅を未然に防いでるし……」
「あはは、それ、ヒナに言ったら喜ぶと思いますっ!ヒナ、自分はまだまだ未熟で英雄じゃないって落ち込んでましたからっ」
うん、なら私に付けられた「英雄」の称号は謹んでヒナに譲ろう。
以前メナに押しつけようとした時は失敗したからね。
それはともかくとして、私はマリエッタにもう少し確認しておきたいことがあった。
「マリエッタ、チューリングの開拓事業に誰が出資してるか、確認した?」
「はいっ、小口の出資は追い切れないですけど、大口のスポンサーなら判りますっ!」
そう言ってマリエッタはホロディスプレイに複数の個人名や団体名を表示した。
昨日狩りに同行したロクストンの名前も下位に記されている。
そして……リストの中程に、私は探していたものを見つけた。
「フラワー商会……やっぱり」
「お花屋さん?」
「ううん。これはね、ギルドが名前を隠して出資したい時に使うペーパーカンパニーの一つなんだ。そしてフラワー商会を管理しているのは監察部。つまり、これはピアースがチューリングの事業に出資してる証拠ってこと」
「そうだったんですかっ!?」
「マリエッタ、このフラワー商会の出資は引き上げられてない?」
「はい、これ昨日のデータですっ」
ならこれはピアースが関与している案件だと見て間違いないだろう。
私、つまりギルドの管理官がこの件に関わって不信感を抱けば資金の流れを洗うのは容易だし、出資者の一覧を見ればギルドが使うペーパーカンパニーが混ざっていることにもすぐに気が付く。
もしこれが監察部の総意による動きなら、私の派遣が決まった時点で証拠隠滅のために資金を引き上げているはず。
にもかかわらず今もなおフラワー商会名義での出資が残っているというのは、撤退が不可能な事情があるということ。
……つまり、その資金提供を主導したピアースがすでに死亡しており、手を引く判断が出来ないという現状に合致する。
私がそう説明すると、トワが言った。
「なら、カリオン助けないと」
「……だね。カリオンが人類と敵対する未来なんて考えたくないよ」
「ちがう。あのままだとカリオン、殺されちゃう」
……そうか、ファルナスはカリオンの首をトロフィーとして飾るような男だ。
取引が流れたからといって捕まえたカリオンを解放するような殊勝なことはしないだろう。
今は式典のことで慌ただしいからカリオンは留め置かれているだけで……式典が終わるまでに、つまり私達がこの星にいる間にあのカリオンを何とか逃がす必要がある。
人類文明のために、そしてトワの心を守るためにも。




