#15
>>Towa
アイリスが超酸っぱい果物を食べて、超酸っぱそうな顔をしていたのはちょっと意外だったけど、昨夜からずっと眉間にしわを寄せて難しい顔をしていたのがほぐれたようで良かった。
「でもどうしてこれを?果物、買うって言ってなかったっけ?」
「甘いの、カリオンはあんまり好きじゃないって。リシュアが言ってた」
「そうなんだ」
そう、昨日リシュアにカリオンがどんな果物を好むか聞いたんだよね。
そしたら、甘い物も食べない訳ではないけど、一番喜ぶのはこの黄色いヤツ……名前が付いてないらしいから、私が勝手に「酢リンゴ」って呼んでるやつだって教えて貰ったんだ。
で、朝から穫りに行って、足を滑らせて沼に落ちた。
まぁ、そんな小さな失敗はどうでもよくて今はカリオンだ。
知的生命体かどうかは私には良くわからないけど、好きじゃない食べ物ばかり与えられているのは可哀相だっていうのは私にも判る。
毎食が酢リンゴだと私もげんなりするだろうから。
なのでこれからカリオンに差し入れに行くというと、アイリスも一緒に行くと言った。
ちなみにマリエッタは朝からリシュアと一緒に密林ウォッチングへ行ってる。なんでもリシュアが言うにはこの星の原生生物は基本的には平和主義で、武器を持ってない人間には襲いかかってこないそうだ。
それって、もしかしたらこの星で凶暴な原生生物は人間ってことなのかもしれないね。
「お嬢さん、今日もまたカリオン観察かい?あんなの見て何が面白いんだか……」
「カリオンに差し入れ持ってきた」
「げ、それ……あいつら、そんなもん喰ってるのか?」
「リシュアがそう言ってた」
「ああ、あの変わり者の姉ちゃんか……まぁ、観なかったことにしとくから、さっさとやってきな」
「ありがとう」
さすがに訪問3日目にもなると見張りの人も手慣れた感じだ。
そういえばこの人の名前聞いてなかったけど……まぁ今さらだからいいか。
そう思いながら私は地下の奥、カリオンの檻へと向かった。
今日もカリオンは黙って私達を見つめている。
私は檻の隙間から酢リンゴを中へ入れたけど、カリオンはちらっと視線を向けただけで食べようとしない。
「……警戒してる?」
「まぁ、捕まって檻に入れられてるからね。信用してくれないのも無理ないよ」
確かにそうか。
私は少し考えて残っていた酢リンゴを囓って見せた。
うん、超すっぱい。
口の中が唾液でいっぱいになるけど、我慢して飲み込む。
そして、囓った酢リンゴをカリオンに差し出してみた。
すると……カリオンは、前足を使って器用に酢リンゴを受け取り、そしてそれを丸呑みし目をぱちくりと瞬きする。
その様子を見ていた隣の檻のカリオンも置かれたままになっていた酢リンゴを手に取り、食べた。
「トワ、信用して貰えたみたいだね」
「うん。カリオン、美味しい?酸っぱくない?」
私は返事を期待したわけではないけど、ついカリオンにそう声を掛けていた。
すると、これまで沈黙を守っていたカリオンが短く鳴いた。
単調な音ではなく、抑揚の付いた意味があるように聞こえる鳴き声。やっぱりこれ、歌に聞こえる。
「……今の、歌?」
「アイリスもそう聞こえた?」
「私もCランクとは言えシンガーの端くれだからね。でも今の……」
「たぶん有り難うって言ってる」
言葉ではなかったけど、カリオンの歌には確かに感謝の気持ちのようなものがこもっていた気がした。
そして私は一つ気付いたことがあった。
昨日私が歌った歌にカリオンが反応しなかった理由。
たぶん、私達の歌は歌詞に意味を持たせようとしていたから、言葉の通じないカリオンには届かなかったんだ。
人に向かって歌う歌は私もあまり得意じゃない。
でもC3の調律につかう歌は別だ。
なぜならそれは言葉じゃなくて想いを込めるものだから。だからきっと、私はカリオンの歌を聞いて調律歌に似てるって思ったんだ。
カリオンは言葉ではなく想いを伝えようとしているから。
そんな内容のことを私が拙い言葉で説明すると、アイリスはすぐに私が言いたかった事を理解してくれた。
「なるほど、歌詞の言語的意味に引きずられて想いが伝わらない、か……。なら、むしろ人間側は歌じゃなくて演奏とかの方がコミュニケーション取れるかもしれないね」
「うん、レイラのオルガンならきっとカリオンも判ってくれる」
レイラ。私の友達で今は銀河的オルガニストになった子だ。
私の感覚ではちょっと前……宇宙の時間では6年ぐらい前に会ったのが最後だけど、元気にしてるだろうか。
「レイラを呼ぶのは無理だろうけど、それなりの腕前の奏者ならもしかしたらコミュニケーション取れるかもしれないね。ちょっと方法考えて見るよ」
「うん。まかせた」
私は具体的な方法まで考えるのは苦手だけど、その部分はお姉ちゃんが頼りになる。
もしかしたらカリオンとお話しできるかもしれないと思い、私は楽しくなった。




