#13
>>Iris
結局3時間近く密林の中で待機する事になったけど、おかげでガイド……いやハンター達から色々な話が聞けた。
特にこの星の原生生物の生態系については興味深い話があった。
例えばカリオンが近くにいるかどうかで原生生物の行動パターンが明らかに変わること。
これはさっきの戦闘で私も気付いた事だけど、ハンター達が語る過去の経験からもカリオンが何らかの形で戦闘指揮を執っているような印象があった。
しかも私が重要だと思ったのは入植当時よりも今の方が原生生物が手強くなってきているという話だった。
最初は単に異種族の原生生物同士が徒党を組むだけだったのに、今では明らかにブラスターでの攻撃を意識した回避行動や防御行動のようなものを取っている。
私が倒したギガースもダメージが少なかったのは皮膚の分厚い部分でブラスターの弾を防御していたからだったそうだ。
「でも、それは普通の防御行動だろ?」
私の指摘にハンターの1人がそう言う。
そう、たしかにそれは防御行動だ。だけど……。
「この星の原生生物に射出や投射で攻撃してくるタイプの原生生物はいますか?」
「……いや、いないな」
ファルナスのトロフィーコレクションを見たときに気付いていたんだけど、この星の生物には遠距離攻撃の概念がない。
そしてハンター達に出会った原生生物は基本的にその場で狩られるため、人類と遭遇した個体がブラスターについて学習する機会があったとしても、それを他の個体へ継承する機会がない。
にも関わらずトライコンはブラスターの弾を回避する軌道で駆け、ギガースは初見のブラスターに対応して防御行動を取る。
「もしかして、種としての記憶か?」
「そういう概念は聞いたことあるけど、それって死んだ個体からでも継承できるもの?」
「……いや、それは……無いな」
ランディが言う「種としての記憶」と言う概念は生物学的にはありうる話かもしれない。
だけど、この星で起きている原生生物の異様な進化――そう、これは進化と呼ぶのが相応しい――は、あり得ない速度で進んでいる。
この事態を説明することが出来る仮説が一つだけあるけど……いや、それはさすがに荒唐無稽すぎて口に出すことが憚られる。
それに、もし口に出してしまったら……ファルナスはともかくとして、彼の指示でカリオンを狩っていたハンター達の心理的負担が大きすぎる。
「あとカリオンっていえば面白い話もあるぜ?あいつらと出くわした日にゃブラスターがイかれちまうんだ」
「ブラスターが?どういうこと?」
「今日は先発組が暴走してくれたから良かったけどよ、間近で遭遇すると妙な事が起こるのさ」
そう言ってハンターの1人が説明してくれたのは、さらに不可解な出来事だった。
なんでもカリオンを含む原生生物の群れと遭遇した時に限ってブラスターが不調を来すらしい。
具体的には火力が減衰するのだとハンターは言った。
「それは、どれぐらい?」
「短かけりゃ10分かそこら、長い時は2、3時間だな」
私が聞きたかったのは減衰率の話だったんだけど、帰ってきた答えは予想外のものだった。
ブラスターが破損するというのは判らないでもない。
戦闘用で頑丈だとはいってもブラスターは精密機械だから、故障することだってありうるだろう。
だけど、精密機器の不調が時間で回復する?
しかも偶然不調になった個体が機能を回復したっていう話ではなく、毎回決まって不調のあとに機能が回復しているような口ぶりで……それは普通に考えればあり得ないことだ。
「その現象って毎回起きるの?カリオンが関係してるって言う確証は?」
「おいおい、興味津々だな。毎回……そう、カリオンと出くわしたときは毎回だな。カリオンが出ないときは……無いよな?」
「ああ、俺は経験ないな」
「俺もだ」
ハンターの言葉にランディ達も同意する。つまり、その一時的な不調はカリオンに起因する可能性が高いということだ。
なるほど、ファルナスがカリオンはこの星で最も手強い獲物だと言った理由が良くわかった。
個体としての戦闘力はおそらく皆無だけど、カリオンは他の原生生物に影響を与えることが出来る上に、こちらの武器を――完全では無いにせよ――封じる能力を持つ。
確かにこれはギガース等とは異なる次元で「手強い」。
迎えのバギーに乗り、ハンティングベースへ戻る帰路も私はずっとカリオンの事を考えていた。
話を聞けば聞くほどカリオンの謎は深まるばかりで、結局ハンティングベースへ戻り付くまでに私の考えは纏まらなかった。
ハンティングベースへ帰り着いた私はアドルさんの出迎えを受けた。
なんでも私達が密林に残っていることを聞いて心配してくれていたそうだ。そしてトワが心配しているから早く戻って無事を知らせて欲しいと言われた。
なんでも、ベースに救助要請が入った際にトワも同席していたらしい。
私は宿舎の方へ戻ろうとしたけど……トワへの「お土産」があるので、ランディに荷物運びを手伝って貰うことにした。
うん、私は彼らの命の恩人だからね。借りは返して貰わないと。
「トワ、マリエッタ、帰ったよ」
「アイリス!」
「アイリスさんっ!」
「……お邪魔してます」
トワとマリエッタが嬉しそうに私に駆け寄ってきて……知らない女性が居心地悪そうに私に頭を下げてきた。
三十路手前ぐらいの、知的そうだけど外見にあまり気を遣っていなさそうな女性……誰だろう? ギルド出張所のスタッフではなさそうだけど。
「おいアイリス、肉の固まりは台所でいいのか……って、リシュア?」
「ランディ?なんであなたが!」
「……知り合い?」
「元彼です!」「恋人だ」
「なるほど、良くわかったよ」
どうやら訳ありの2人らしいことは判った。
だけどリシュアという女性が私達の宿舎にいる理由がわからない。
こういうときアリサがいれば簡潔に説明してくれるんだけど、トワだと簡潔すぎて訳がわからない説明になるからね。
なので、私はマリエッタに話をふってみることにした。
「マリエッタ?こちらの方は?」
「はいっ、生物学者のリシュアさんですっ!この星の話をお聞きしてましたっ!」
「……学者仲間ってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
マリエッタの言葉に、居心地悪そうにしていたランディへ声を掛けると不承不承認め
。恋人じゃないのか、と追求したくなったけど……まぁ、それはいいだろう。
「それで、どんな話を聞いてたの?」
「はいっ、リシュアさんが言うにはカリオンは知的生命体だって!」
……そうか、私が密林の中で思い至った、カリオンが知的生命体であるという仮説。
私はマリエッタを介してリシュアがカリオンの真実に到達していたことを知り、納得した。
それもそうか。私が半日かそこらで思い当たるような事だ。
リシュアという学者が何年ここにいるのかは判らないけど、専門家が長期間観察して気付かない方がおかしいからね。
……いや、ならどうして同僚……もしくは恋人であるランディはカリオンが知的生命体だと認識していないんだろう?
「おいリシュア、まだそんな寝言を言ってるのか?カリオンはただの原生生物だろうが」
「あなたこそ、どうして真実から目を背けてるの!?カリオンは知的生命体でしょ!」
……どうやらランディはカリオンが知的生命体であるということを認識していなかったのではなく、カリオンが知的生命体だという説に否定的なスタンスを取っているらしい。
と言うことは……おそらくファルナスもこの件を知っているのだろう。
わざわざ未開の星へ連れてきたお抱え生物学者が寄越した報告に目を通してない訳はないだろうからね。
だけど、今はリシュア達の考えを聞いておきたい。
「はいはい。痴話喧嘩はあとにして、カリオンのことを教えて欲しいんだけど。知的生命体だっていう根拠と、知的生命体ではないっていう根拠を」




