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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
429/439

#12

>>Towa


 カリオンとコミュニケーションを取ろうという私の試みは失敗に終わった。

 話しかけてもダメ、身振り手振りもダメ、頭の中で念じてみてもダメ。

 ダメ元で歌ってみたけど、瞬きされただけで終わった。

 手強いね、この子達。


 もしかしたら餌付けしないとダメなのかと思ったけど……カリオンが何を食べるか判らないし、そもそも私食べ物持ってないし。

 ついでに言えばこの星の通貨も持ってない。


 どうしたものか考えた結果、私はまずギルドの出張所で調律のバイトをしてカリオンの餌代を稼ぐことにした。


「またくる。次は食べ物持って」


 私はカリオンにそう告げたけど、やっぱりカリオンは黙って私を見ているだけだった。

 帰り際に見張りの人にカリオンが何を食べるか聞いてみたら、果物だと教えてくれた。

 虫とか小動物とか言われたら獲りに行かないといけないところだったけど、果物ならハンティングベースで売ってた気がするからお金で解決できそうだ。


 地上階へ上がった私はその足でギルドの出張所に向かっう。出張所で対応してくれたのは、昨日話をしたアドルさんだ。


「おや、トワさん。どうかされましたか?」

「バイトさせて」

「バイト……ですか?」


 不思議そうな顔をするアドルさんに、私はカリオンにあげる餌代を稼ぎたいという話をした。

 アドルさんはバイトしなくても果物ぐらいならギルドが手配すると言ってくれたけど、カリオンと仲良くなるのに貰い物を持って行くのはちょっと違う気がしたので断った。

 うん、カリオン的には貰い物でも私が買った物でも同じだってことは判ってるんだけどね。


 アドルさんは納得のいかないような顔をしていたけど、調律の手伝いは歓迎だといってC3を保管している部屋に案内してくれた。

 この出張所にストックされているC3の殆どはブラスター用のものらしくて小ぶりなものばかりだ。


 でも、ブラスターのC3って一度入れたら基本的に入れ替えないのに、なんでこんなに沢山ストックがあるんだろう。

 不思議に思った私の言葉に、アドルさんが少し困ったように言った。


「ハンティングに使うと時々C3が不調になるらしいんですよ。そんな話、余所では聞いたことが無いんですが……」

「どう壊れるの?」

「いえ、壊れる訳ではないのですが、一時的にC3の色味が薄くなると言うか、出力が落ちるらしくて。そのせいで予備のC3や予備の武器が欠かせないんです。なのでファルナス氏がC3の安定供給を確保する為に出張所を誘致されたと聞いています」


 C3の出力が一時的に弱くなるというのは私も聞いた事がない。無理させたり、物理的に衝撃を加えて砕けることはあるけど。

 どんな状態なのか見せて貰いたかったけど、なんでもその出力低下は早くて数分、長くても数時間で元に戻るらしくて、詳しい分析も出来ないままになっているそうだ。


 元に戻るなら問題無いかと思ったんだけど……。


「日用品に使われるC3なら問題無いのですが、ここの人達が使うのはブラスター用ですからね。一時的にブラスターの威力が下がるのは狩りの際にはかなり危険なんですよ」


 そうか、戦闘中に出力が数分下がるとかなり致命的だよね。

 調律の合間にそんな雑談を挟みながら、私は次々にC3に色を与えていく。


 ――朱、蒼、碧。

 発注書に書かれている色は朱が一番多く、次いで蒼になっている。


 私が好きな碧が少ないのはちょっと腑に落ちない。

 そんな事を思いながらいくつかまとめて調律を済ませたC3をケースに戻した私は、アドルさんの視線に気が付いた。


「……あの、トワさん?無茶苦茶調律早いですよね?しかも三色全部調律してますよね」

「私、調律得意だから」


 まぁ、得意というか私は『歌』のセレスティエルだから、普通のシンガーとは随分と違うんだけどね。


「ここの出張所にはBランクのシンガーがいるんですが、彼よりもずっと効率が良いですね……トワさんのシンガーランクは――」


 アドルさんがそう言いかけたときだった。

 出張所の外、ハンティングベースの方でサイレンが鳴り響いたのは。


 何だろう、あれ。


「……緊急出動要請のサインですね。原生生物の襲撃でもあったんでしょうか」

「見に行く?」

「そうですね、確認しておいた方が良いでしょう」


 そう言うとアドルさんはガンロッカーからブラスターを取り出し、ハンティングベースの方へ出て行った。

 私も武装しておけば良かったと思ったけど、パパの形見でもある私のブラスターはアルカンシェルの私室に置いたままだ。


 まぁ、下手くそな私が銃を撃つのは最終手段だし、ここには射撃の上手い人が多そうだから素人の出る幕じゃないか。

 そう思った私は手ぶらのままアドルさんの後を追った。


 慌ただしく出動準備を整えているハンターの1人を捕まえてアドルさんが聞き出してくれた所によると、午前中に出発したハンティングチームがトラブルにあったらしい。

 原生生物との戦いでバギーが破壊されて、怪我人が出たらしく、迎えのバギーの派遣要請が来ていると言っていた。


 午前中のチームってもしかしてアイリスが同行してるチーム?

 そう思って私がハンターに確認すると、そうだという回答が帰ってきた。


「私もアイリスを迎えに行く」

「いや、嬢ちゃんが乗ると向こうで人を乗せられないぞ」

「……でも、アイリスが心配」

「無線の連絡だと、そのアイリスって子が残留してるうちのスタッフを守ってくれてるらしい。なんで客に守って貰ってるんだよ、あいつら……」

「アイリスは強い。超強い」

「そうか。超強いなら、ここで待ってても大丈夫だよな?」

「……うん」


 私はハンターに論破されてしまった。

 でもまあアイリスが原生生物に後れを取るとは思えないし……たぶん大丈夫だよね。


 アイリス達がいるのは距離的にはそう遠くないけど、バギーで移動すると2・3時間掛かる場所だとハンターは言っていた。

 つまり今から迎えにいって戻ってくるのは数時間後……たぶん、夜中になりそうだ。

 ハンティングベースで待っていても仕方ないから、私は宿舎へ戻ることにした。



 宿舎へ戻ると、玄関前でマリエッタが見知らぬ女の人と話し込んでいた。

 誰だろう?見た感じ30歳より少し若いぐらいで背は低め。どこかマリエッタに似た雰囲気がある。

 マリエッタの事を良く知らない人が見たら、年の離れた姉に見えるかもしれないね。


 そんなことを思いながら2人に近づくと、マリエッタが先に私に気が付いた。


「あ、トワさんっ!」

「マリエッタ、誰?」

「えっと、この星で働いている生物学者の方で、リシュアさんですっ!」

「ほほう」


 リシュアと紹介された女の人は私に向かって頭を下げる。

 学者さんと聞いて納得した。化粧っ気のなさとか、丸眼鏡とか、そういう雰囲気がマリエッタに似てるんだ。


 でも、生物学者の人がどうしてここへ?

 私がそう問うと、マリエッタはチューリングのことを調べているうちにリシュアの存在を知って、連絡を取ったのだと言う。


 なんでも彼女はファルナスの部下の1人だったらしいけど、今はファルナスから離れて1人で活動してるらしい。

 でもここってファスナスの星だし、お店とかもハンティングベースにしか無いのに生きていけるんだろうか?


「生物に関する研究データをギルドに提供する見返りに、支援を受けているんです。食料とか、エネルギーとか」


 私の問いにリシュアはそう答えた。

 なんか生活大変そうだけど、どうしてファルナスから離反したんだろう?

 私が疑問に思ったその理由が、今回マリエッタがリシュアにコンタクトを取った原因でもあったらしい。


「知的生命体……?」

「ええ。私はこの星の生態系に知的生命体が存在していると確信しています。ですがファルナスはその意見を無視してこの星のものは全てだたの原生生物だと決めつけて……。狩猟の対象にするばかりではなく星外へ密輸しようとしているんです!」

「それ、カリオンのこと?」

「……!やはり、貴女にも判りますか!?」


 リシュアの主張するカリオンが知的生命体だという説、なんとなく判る気がした。

 カリオンは何も話さないけど、あの落ち着きぶりは知性あってのものだと言われれば納得できるからね。


 でも、それだけじゃ確証には至らないけど。


「トワさん、わたしそのカリオンっていう子を見たことないんですけど、本当に知的生命体なんですかっ!?」

「わからない。でも、そう言われるとそうかもしれない」


 私が知ってるカリオンは、ただ沈黙を守って不思議な歌を歌っていた生き物だからね。

 コミュニケーションが取れそうな気はするけど、まだ何も意思疎通できてないし。


「でも、本当に知的生命体なら、この星で行われてることって、重大犯罪ですっ!」

「そう、私もそう言ってファルナスやギルドにハンティングを止めるように言ってるんですけど……どちらも話を聞いてくれないんです」


 ギルドは内政干渉禁止だから、言われても対応できない気がする。

 けど……この話はアイリスに相談してみた方がいいかもしれない。早く帰ってこないかな、アイリス。


 玄関先で話をしているのもリシュアに失礼だから私達は彼女を宿舎に招き入れ、お茶を飲みながらアイリスが帰るのを待つことにした。


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