#11
原生生物の襲撃を撃退した私達だったが、ハンティングベースへ帰還するにしてもバギーが一台破壊されているため全員一度には戻れない。
仕方がないので私達が乗ってきた方のバギーにロクストンとマーガレット、そして負傷したガイドの1人を含めた4人を乗せて先に帰らせることにした。
ランディ達は私も先に帰るようにと言ったが、再度ギガースの襲撃があった場合のことを考えると私が残った方が安全だと主張すると、しぶしぶ納得してくれた。
通信で救援を呼んではいるが、辺りは密林で見通しが悪い上にエアロプレーンが着陸できるも場所ないから迎えはバギーになる。
おそらく陽が落ちてしばらくするまで救援は来ないだろう。
なら、狩った獲物を捌いて食料にでもするか……。
「ランディ、ギガースやトライコンは食べられる?」
「……食えるが、ギガースは不味い。トライコンはまずまずだ」
「そう。じゃあトライコンを捌こっか」
私がそう言ってナイフを抜くと、ランディは呆れたようにいった。
「なぁ、ギルドの人ってのは皆そんなに強いのか?」
「ん?この星にも出張所、あるでしょ?」
「……だよな。アドル達は普通の人間だ。ってことは、あんた……」
ちょっと雲行きが怪しくなってきた。
これは話題を逸らした方がいいかな、と思っている間に残っていた2人のガイドも会話に加わってきた。
「あれだよ、女神!噂で聞いたことあるぜ。ギルドには女神がいるって」
「ああ、俺も聞いたことあるな」
「いえいえ、私は女神じゃないから!」
うん、私は女神じゃない。
女神なのは私の義妹のアリサだ。
苦笑いしながら私が女神疑惑を否定していると、ランディがそっと近づいてきて耳打ちした。
「女神じゃなくて『英雄』だよな、アイリス・ブースタリア管理官殿?」
「なんの、ことかな……?」
平静を装ってそう答えたけど、今の感じだと完全にバレてるよね。
私は大きくため息をつくと、諦めまじりに小声で言った。
「いつ、気付いたの?」
「最初に姓を名乗らない時に違和感を感じた。で、ギガースを倒した時点で確信した」
「はぁ……内緒にしておいてくれる気はある?」
「訳あって隠してるんだろ?なら命の恩人に対して恩を仇で返すようなマネはしないさ」
「じゃ、この話はこれで終わり。ところでカリオンの事を教えてよ。さっきから断片的な話ばかりで全く全容がつかめないんだけど」
途中から他のガイドにも聞こえるように声量を上げて、私はカリオンのことについて彼らから話を聞くことにした。
カリオンという原生生物は私がハンティングベースで見た通り、小柄で物理的な脅威にはならない存在だという。
だが、先ほどのようにカリオンが生息する地域へ足を踏み入れ、カリオンの遠吠えが響くと周囲の原生生物が通常とは異なる行動パターンで襲いかかってくるらしい。
ランディはその状況について、動物が捕食者等を警戒して発する鳴き声である警戒声の一種だと説明した。
「カリオンの声にトライコンやギガースが反応するの?」
「警戒声は同族だけではなく、周囲に暮らしている他種にも警戒行動を促す例は余所でもあるぜ」
たしかにランディが言うように、鳥類や小動物ならそういう事例もあるだろう。
だが、私は一見すると妥当に思えるその説明に大きな違和感を感じていた。
「じゃ、少し話は変わるけど……この星の食物連鎖の頂点にいるのはさっきのギガース?」
「ああ、観測されている限りではそうだ。あのデカブツを捕食するヤツなんて見たくもないしな」
「……なら、どうしてその他種族の警戒声ネットワークにギガースが入ってるの?」
「……なに?」
警戒声が捕食者に対する警戒なら、食物連鎖の頂点であるギガースは警戒対象であって、警戒網の中に含まれる存在では無いはずだ。
私がそう指摘するとランディはしばらく無言で考え込んだ後に、言った。
「言われてみればそうだな。人間に対する警戒声だと思っていたが……」
「この星に人間が入植してまだ15年でしょ?そんな短期間でこれまで捕食者だったギガースが警戒網の中に入れて貰えるとは思えないけど」
「うむ……」
つまりカリオンの遠吠えは、ただの警戒声ではない可能性があるということだ。
いや、そもそも他の原生生物にバフ効果を与えてる時点で何かがあるのは間違いないけどね。
ただ、トライコンの幼獣の動きは身体強化ではなかった。
明らかにブラスターの射撃が来ることを予期して射線を外すような動きを……知的な作戦に基づき動いているように感じた。
一体あれは何だったんだろうか。
そんな事を思いながら、私は解体を終えたトライコンの肉を木から削り出した串に差し、焚き火に掛ける。
「余った肉、持って帰るけど……分析する?要らないなら私達で食べるけど」
「いや……逞しいな、アイリス……」
「言ったでしょ?辺境育ちだって」
ランディにはそう言ったけど、それだけが理由じゃない。
奪った命は無駄にしてはならない。
それが狩った相手に対する礼儀だと、私は思うから。




