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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
427/436

#10

 その後、ロクストン卿はさらなる狩猟を要求した。

 なんでも彼の正義はまだ終わっていないらしい。


 正直なところ私は彼の醜悪な「正義」にお腹いっぱいだったが、ガイドは生命の危険が無い限りはクライアントの要望に応えることが求められるし、私はただの見学者でしかない。

 それ故に、私達はトライコンが逃げた方向へとさらにバギーを進めることになった。


 しばらく進むうちに私は異変を感じた。

 それまで所々に感じられていた生物の気配が消えている?

 だが、これはセレスティエルの感覚だから判ることで、ランディ達ガイドもまだこのことには気付いていないようだ。


 何かが起きる予兆。そして、そう時間をおかずに異変が訪れた。


『前方、450m……反応、4……だが、なんだこれ』

「どうした?」

『いや……ギガース1にトライコン3。ギガースを先頭にこっちへ向かってる』


 ギガースというのは昨日見たトロフィーの中で一番手強そうな原生生物た。

 成獣になると全長10mを超える巨大な肉食獣で、二足歩行する。動きは鈍重だが力と耐久力に秀でているため、狩猟難易度は最高レベルだと記されていた。

 ファルナスがギガースを狩ったときに、ハンター2名が殉職したという情報と共に。


「混成は良くあることですか?」

「まさか。トライコンを追ってるのなら判るが、ギガースが先頭?……おい、音響センサーは?」

『……感あり。くそっ、逃げるぞ!』


 ランディが音響センサーと言った瞬間、私にも「それ」が聞こえた。

 遠くから響く、不思議な抑揚が付いた遠吠えのような旋律が。


「ランディさん、今の遠吠えが関係ある!?」

「遠吠え!?聞こえたのか?ああ、そうだ……ヤツらだ、カリオンの縄張りに踏みこんじまったらしい」

「カリオン……!」


 トライコンの一件で失念していたけど、確かに彼らガイドはカリオンを警戒していると言っていた。

 そしてファルナスもカリオンこそがこの星で最も手強い獲物だと。


 つまり……カリオンのテリトリーに踏み込むと、他の原生生物が群れをなして襲ってくる?そんな馬鹿な!

 私がそう思っている間にもバギーは反転し、その場を離れ……るはずだった。


 だが、後続の……つまりこれまで前を走っていたはずのロクストン卿のバギーが付いてこない。


「おい、どうした!」

『お客さんがまた暴走だ!すまんが……一緒に死んでくれ』

「死ぬ気は無いが、加勢はする。おい、アイリス!バギーは運転できるか!?」

「ええ。でもどうするの?」

「お前さんはハンティングベースへ戻れ。俺たちはクライアントを置いて行けないんでな」


 どうやら彼らにはクライアントを置いて逃げるという選択肢は許されていないらしい。

 それ故に私だけを逃がして、愚かにもギガースを狩ろうとするロクストンを守るために死にに行くつもりらしい。


 馬鹿な人達だ。

 正直、私はロクストンやマーガレットの命はどうでも良いと思っている。

 狩りは命のやり取りだから、結果として人間の命が失われることは弱肉強食というシンプルな自然の理だから。

 だが、ランディ達は違う。仕事のために、契約のために、他人のために命を賭ける必要は無い。

 だから私は……。


「断ります!私、こうみえても強いから。運転手さん、戻って!」


 ランディは言葉を失ったようだったが、既にロクストン達はギガースに向けて銃を乱射しているのが遠目に見えた。

 躊躇している間に彼らが死ぬことを理解したランディ達は、何も言わずにバギーを走らせた。



 ロクストンとマーガレットは戦力外だが、ガイドとして付いているハンターの腕前は先ほどの援護射撃から相当なものだと思っていた。

 だが、彼らは4人がかりで未だ1頭のトライコンしか仕留められていない?

 ……やはり、何かがおかしい。


「気を付けろ、カリオンの縄張りだと連中、動きが良くなるんだ」

「何それ?バフでも掛かってるの?」

「……バフ?」


 トワから聞いたゲーム用語はランディには伝わらなかったようだ。

 ゲーム要素でいうところのバフとはキャラクターを強化するための効果を指す言葉だ。


 現実だとドーピングなんかがそれにあたるけど……カリオンの縄張りに入ると原生生物が強化される?いや、そんな地形による強化は現実ではありえない。

 あるとすれば遠吠えでバフを行ってる?


 ともあれ、トライコンの動きが従前より機敏になっているということは判った。

 問題は……元々手強いギガースがさらに強化されている可能性があるということだ。


「ランディさん達はギガースの牽制、トライコンは私が!」

「行けるのか?」

「行けるかどうかじゃなくて、行くの!」


 私がそう言ってXthをホルスターから引き抜いたタイミングと、トライコンの1体がロクストンのバギーに体当たりしたのは同時だった。

 マーガレットが至近距離からショットガンを撃つが、体勢が崩れて散弾はあらぬ方向へ飛び木々に無数の小さな穴を穿つ。

 だが、体当たりの影響で一瞬トライコンの動きが止まる。


 1秒程しかチャージできなかったけど、それでも私の放った朱いエネルギー弾はトライコンの頭部を打ち砕いた。

 どうやら動きは速くなっても耐久力や防御力が高くなっている訳ではないらしい。


 これならなんとかなる。

 頭部を失い、横倒しに吹き飛ばされるトライコンを視界の端に捉えながら、私はそう思った


。だが、バギーも体当たりの勢いで横転してしまっている。


 転倒したバギーに迫るギガースをランディ達が必死の射撃でかろうじて押さえているけど、命中してもあまり効果が出ていないようだ。

 どうやらギガースはトライコンとは異なる強化が施されている……?ギガースの様子を伺いながらも、私は次のターゲットを見定める。


 後続の私たちに気づいたトライコンの幼獣がこちらに向かってくる。

 だけど、先ほどと違ってその動きは機敏な上に、一直線に突っ込んでくるのではなく複雑なステップで左右へ軌道を変えながらこちらに向かってきている。


 あれ、どうみても原生生物の動きじゃないよね!?

 だけど、動きのパターンは概ね読めた!


 ――左、右、右、左……次は左!


 ステップを先読みし、トライコンが跳ぶと予測した方向へ放ったエネルギー弾に対して、トライコンは弾道へと自ら飛び込む形になって倒れた。

 トライコンは残り1体。

 そう思った時だった。


 再び遠吠えのような、金切り声のような音が森に響いたのは。


 声の主はカリオンではない。

 ……マーガレットだ。

 既に弾切れになったショットガンを振り回しら奇声を上げている。


 どうやら精神のタガが外れてしまったようだ。それ自体は自業自得だが……問題はその奇声がギガースの注意を惹いてしまったと言うこと。


「ランディ、ターゲット変更。ギガースは私が!」

「おい、待て!お前のハンドガンじゃ無理だ!」


 常識的にはそうだろう。

 私が持っている拳銃型のブラスター……通称Xthは開拓地の子供達に配られる玩具のような――だが殺傷能力のある――銃で、ハンティング用の長物と比べると威力は数段落ちる。


 だが、私のXthは特別製だ。

 なにせトワが歌ってくれた軍用レベルのC3が組みこまれているからね。


 私はランディに答えず、Xthのチャージをはじめながらバギーから飛び降り、ギガースへ向かって走る。


 体長10m、確かに大きい。

 ブラスターで撃たれても軽い負傷で済んでいるのが見て取れ、あの耐久力ならガイド達が絶望的だと思うのも仕方がないと思った。


 だが、それでも……。

 かつてヨモツヒラサカで対峙したあの融合放浪機に比べれば。


 ギガースが振り下ろした拳が転倒したバギーを一撃でスクラップに変える。


 私はその振り下ろされた拳を踏み台に、ギガースに向かって跳んだ。


 あの生命を殺すためだけに存在する、異質な存在に比べれば……。


[MAXIMUM CHARGE]


 Xthが安っぽい合成音声でチャージ完了を告げる。


「どうってこと、ない!」


 私が放った朱いフルチャージショットは大きく咆哮するギガースの口中へと吸い込まれてゆき……鈍い破裂音とともに一撃でギガースの頭部を四散させた。



 頭部を失ったギガースの巨体が崩れ落ちた時にはすでに残っていたトライコンもガイド達の連携によって倒されていた。

 後続の敵が来ないことを確認し、私はXthを腰のホルスターに戻すと軽く息を吐いた。



 ギガースに破壊されたバギーに目をやると、残骸の傍らで腰を抜かしたように座り込んでいたロクストンの姿が目に入った。

 股間が濡れているのは……まぁ、見なかった事にしてやろう。

 だけど、それでも私はどうしても彼に言っておきたいことがあった。


「ロクストン卿。ハンティングは遊びではなく命のやり取りですよ。それで、ハンティングは……楽しかったですか?」


 私の言葉にロクストンは黙って頭を振った。

 まるで嫌々でもするように。


 その隣ではまだマーガレットが奇声を上げてショットガンを振り回していた。


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