#8
>>Towa
アイリスはハンティングに行った。
お土産に肉を持って帰ってきてくれると晩ご飯が豪華になるかな……いや、そもそもこの星の原生生物って食べられるんだっけ?
あとでアドルさんに聞いておかないと。
ともかく、アイリスが出かけたので私とマリエッタは暇になった。
見るべきものは昨日全部見たし、することも特にない。
こういう暇な時にはアルカンシェルへ戻って機械いじりでもしたいけど……さすがに勝手に戻るのはまずいよね。
なら暇つぶしにギルド出張所でC3調律のアルバイトでもしようかな?
暇を持て余した私は、さして広くない宿舎の中を歩き回りながらああでもない、こうでもないと思案した。
そんな私をよそにマリエッタは朝からずっと携帯端末で何かを調べていた。
「マリエッタ、何してるの?」
「ここ、絶対おかしいですっ!だから、この星のことを徹底的に調べてますっ!」
どうやらこのチューリングと言う星や、ファルナスに何か法的な問題が無いかを調べているらしい。
マリエッタ的には例え相手が危険な原生生物だったとしても、生き物をむやみに殺傷するのは受け入れがたいってことなんだろうね。
特にカリオンみたいな、見た目はキュートな生き物の場合は。
それにマリエッタが育った孤児院のある惑星、アストライアは平凡だけど普通に発展した文明を持つ星だったと聞いている。
きっと原生生物が人を襲ったり、銃で生物の命を奪うこともない……そんな平和な星だったんだと思う。だから、マリエッタが狩りを否定する気持ちは良くわかる。
一方で私とアイリスが育った故郷は未開の星で、スクールの初等教育が終わった10歳の時点で子供達全員にブラスターが配布されるような環境だった。
私も含めスクールの子供達は生きるために、そして糧を得るために狩りを行ったし、それが普通だと思っていた。
だからこの星で原生生物に対する狩りが行われていると聞いてもそう大きな違和感は感じない。
遊びで狩るっていうのはなんか違うとは思うけどね。
でもこれは私とマリエッタのどちらかが正しくて、どちらかが間違っているっていう話じゃない。ただ、生きてきた環境が違ったということなんだ。
まぁマリエッタは賢いから私が言わなくてもそんなことは当然理解してるとは思うけど……。
でも理解しているということと、受け入れられるということは違うんだろう。
だから私はマリエッタの邪魔をしないように宿舎を出ることにした。
行くあてはないけど、ハンティングベースでもぶらついていると何か発見があるかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、昨日地下へ降りた際に乗ったエレベータが目に入った。
地下と言えば……そうだ、カリオン。あの子達は他の原生生物とずいぶん違う印象だった。
どう違うのかは言葉にしづらいけど、それでも何かが違う。どうせ暇だし、その何かを確かめに行くのもいいかもしれない。
そう考えた私はエレベータに乗って地下へと向かった。
地下は原生生物の檻があるからか見張りの人がいた。
昨日はファルナスと一緒だったから何も言われなかったけど、ふらっと女の子が入ってきたら一応制止をしてくるよね。
でもこの星には今のところ一般人の女の子というのは存在しないし、私がギルド章を首から掛けていたこともあって比較的話はスムーズだった。
「一応決まりなんで、同行はさせてもらいますよ?」
「うん。構わない」
ハンティングベースの関係者以外が地下に入るときは立ち会いと言う名の監視がつくことになっているらしい。
まあ別に悪いことをするわけじゃないし、カリオンを見に行くだけだから監視が付いてても問題無いけどね。
私と見張りの人が原生生物が閉じ込められている檻の間をぬって地下を進むと、昨日と同じように檻の中で原生生物たちが騒ぎ始めた。
うん、出して欲しいんだよね……わかるけど、ごめんね。心の中で謝りながら私は奥へ進む。
と、奥の方から不思議な音が聞こえてきた。
これは……鳴き声というか遠吠え?
ううん、でもこの遠吠えには抑揚がある。
これはまるで……歌だ。
不思議な旋律から悲しみや苦しみのような感情が伝わってくる気がして、私は思わず「歌」に心奪われその場に立ち尽くす。
やがてその歌が終わり、ふと気が付くと周囲の原生生物達が大人しくなっていた。
「今のは?」
「ああ、カリオンの遠吠えですよ。森の中で聞くと気味が悪いんですよ、アレ」
「歌に聞こえた」
「シンガーっていうのは感性が豊かなんですかね?けどあれは単なる動物の習性ですよ」
見張りの人はそう言うけど……私にはさっきのは歌に聞こえた。
それもただの歌じゃなくて、シンガーがC3を調律する際に歌う調律歌にどこか似ているような気がした。
この星でC3が採掘されるという話は聞いてないけど、カリオンとC3に何か関係でもあるんだろうか?
私達がカリオンの檻の前にたどり着いた時にはすでに「歌」は終わっていて、昨日と同じく、檻の中でカリオンはじっと私の事を見つめてるだけだった。
その後、私はコミュニケーションが取れないか話しかけたり、身振り手振りを試してみたりしたけど、やっぱりカリオンはただじっとこっちを見ているだけで反応は無かった。
見張りの人はそんな私の様子をしばらく見ていたけど、呆れたのか、帰るときに声を掛けてくれと言って持ち場へと戻っていった。
その様子を見ていた2頭のカリオンが一瞬、互いに目を見合わせたように見えた。
「カリオン?今、反応した?」
私は声を掛けるが、カリオンは素知らぬ顔で――いや、表情は判らないけど――また、私の方をじっと見ていた。
やっぱりこの子達……なにかある気がする。




