#6
>>Towa
ギルドの宿舎はチューリングの地表にあった。
てっきりあの浮遊プラットフォームの上に泊まれると思ったんだけど……まぁ、私は元酪農家だし、地に足の着いた生活の方が似合ってるかな。
「いや、だからトワは酪農家じゃなかったよね?」
「3ヶ月も続けた。子牛の誕生も見届けた。もう立派な酪農家」
「……そう。まぁいいけど……」
「まさに牛乳の神秘ですよねっ!」
そんな事を言いながら私達は私服に着替えた。
アイリスはヴェルデナにいたときはずっと上品な娘さんスタイルだったけど、今日は久しぶりにパンツルックのカジュアルな服装。
私はいつものTシャツとジャケットにワークブーツ。
マリエッタは……見たことのない服を着てるね。
白にオレンジのラインが入ったゴツ目のジャケットに、タイトな黒いインナーとショートパンツ。
足は黒いタイツで覆われていて靴はちょっとメカニカルなデザイン。
上半身の色味やゴツさ加減がどことなくブリギッタに似てる感じがする。
私がそう言うとマリエッタは破顔して言った。
「わかりますっ!?この服、ヒナがブリギッタに似てるって選んでくれたんですっ!」
「あら、一緒に服を買いに行くぐらい仲良くなったの?」
「はいっ、なにせ3ヶ月近くずっと一緒でしたからっ!」
いいなぁ、私もヒナと仲良くなりたい。
アルカンシェルに遊びに来ないかな、ヒナ。
そんな事を考えていると、ギルドの人……たしかアドルさんって言ってたっけ?その人がハンティングベースの見学ツアーに誘ってくれた。
なんでも色々と見るところがあるらしい。
式典は4日後だから、暇を潰す場所の目星は付けておきたいからね。アイリスとマリエッタも行くというので、全員で案内して貰うことにした。
ハンティングベースの1、2階はハンティング用の機材置き場やギルド出張所、その他には狩りに同行するハンター達の控え室になっているらしい。
アイリスは万が一原生生物がハンティングベースへ入り込んだときの防壁も兼ねているんだろうって言ってた。
3、4階はファルナスのオフィスが入っているらしい。
この手の建物にあるオーナー用のフロアって最上階にあるんじゃないかと不思議に思ったけど、アドルさんが言うにはファルナスの個人オフィスは軌道ステーション内にあるらしい。
「煙となんとかは高いところが好きっていうけど、衛星軌道まで上っちゃうんだね」
その上の階は移住者向けの施設が開業する予定になっているらしい。
中層階はショッピングモール。今のところハンターやギルドの職員も利用するような日用雑貨と食料品店ぐらいしか開いてないけど、将来的にはブティックやレストラン、コスメショップにジュエリーショップなんかも開店する予定なんだとか。
「……密林の惑星にジュエリーショップねぇ?原生生物に宝石を見せてどうするんだか」
その上のフロアにはフィットネスジムが開設されている。
こちらも既に開業しているけど、お客さんがいないから開店休業状態らしくて今はギルドの人向けに解放されているらしい。
もちろん、有償で。
「未開の惑星なんだから、その辺を走り回ってたら普通に鍛錬になると思うけど」
最上階は展望レストランとスパリゾートが設置されている。
ここまで施設を見るたびに皮肉ばかり言ってたアイリスだけど、展望スパはちょっと興味ありそうだった。
どうやら営業しているらしいので、後で入浴しに来ようという話になった。
「どうですかな、私のハンティングベースは」
「ええ、チューリングに相応しい素晴らしい施設ですね、ファルナスさん」
いつの間にか現れてたファルナスの言葉に、アイリスがにっこりと微笑みながら答えた。
言葉だけ聞けば褒めてるみたいだけど、さっきまで垂れ流していた皮肉を思うと、今の言葉はもちろん皮肉なんだろうなって思った。
でも、ファルナスはそのことを知らないから、普通に褒められたと思ってるみたいだけど。
気をよくしたのかファルナスは営業前でまだ閉鎖されていた展望レストランを開けて中を見せてくれた。
軌道ステーションよりは落ち着いていて上品な、でも高そうな調度品が並んだ高級レストラン。なのはいいんだけど……壁に掛かっているトロフィーにマリエッタが顔をしかめた。
うん、私もアレを見ながら食事するのはちょっとどうかと思うな。
「どうですかな?私のトロフィーコレクションは」
「ええ、とてもご立派ですね」
アイリスの声が平坦になるのも仕方ない。
だって壁に掛けられていたのは……原生生物の頭部を剥製にした狩猟戦利品だったから。
だけどファルナスは私達の不快感に気付かないのか、それぞれの獲物の事を得意げに話し始めた。
よく見るとトロフィーの下にはプレートが付いていて、獲物の名前と狩猟日、どう狩ったかという説明が気が付いていた。
誰が読みたがるんだ、こんなの。
私はそう思ったけど、アイリスは熱心に話を聞いている。
アイリスはこういうのが好きなのかと一瞬思ったけど……いや、違う。
きっとアイリスは原生生物と対峙する可能性を考えてそれぞれの特徴や能力を念のため把握しようとしてるんだ。
うちの星にも見た目どおり手強い原生生物や、見た目と違って手強い原生生物とかいたからね。
開拓初期には見た目に騙されて命を落とした人もいたって聞くし、情報の有無が生死の境を分けることもあることはスクールでも習ったし。
でもファルナスが説明する原生生物の話は、自らの功績を誇るために誇張されているように思えた。
彼の話す内容から誇張だと思える部分を差し引いて考えると、基本的にここの星の生物は見た目通りの脅威度なんじゃないかな?
大きいもの、角や牙が目立つものは凶暴で、おかしな攻撃をしてくるものもいない。わかり易くていい。
そう思ってたんだけど。
「そして、これがこの惑星で最も手強い原生生物です。我々はこれを『カリオン』と名付けました」
そう言ってファルナスが示したトロフィーは……他の原生生物よりもずっと小さい頭部で、大きな耳は目立つけど牙も角も生えていない。
むしろ愛玩動物と呼んでも差し障りのない、穏やかそうな獣だった。
「これが?」
「ええ。地下に生け捕りにしたカリオンがいますよ。ご案内しましょうか?」
「……ええ、お願いします」
剥製だけ見ていてもどう脅威なのか判らないと思ったんだろう。
アイリスが地下へ行くというのなら、私も黙って付いていくだけだ。
だけど……マリエッタは、カリオンの剥製の前で涙を流していた。
「こんなの……間違ってますっ」
私もファルナスのこのコレクションは悪趣味だと思う。
もちろん私だって原生生物を殺したことはあるけど、それは私達が身を守るため、そして生きていくための糧として狩るもので、飾ったり弄んだりするためじゃなかった……はずだ。
けど、たぶんこの星へ移住しようと考えるような、ハンティングをレジャーだと考えているような層には……このファルナスのやり方が「普通」なんだと思う。
これはきっとアイリスがいつも言っている内政干渉に関する話で、私達が口出しする問題じゃない。
式典が終わった私達はこの星を去る。
それだけしかできないんだ。
「マリエッタ、頼みがある」
「……はいっ」
「宿舎からタオルを取ってきて。このあとお風呂に入る」
「……はい。ありがとうございます、トワさん……」
たぶん地下にはマリエッタが見たくないものがある。
それを見なくてもいいように、私はさりげなく気を遣ったつもりだけど……マリエッタには筒抜けだったみたいだ。




