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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
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#4

 うん、ガツンと言ってやった。

 私はこれで満足したからもう帰ってもいいかな。アイリス的にも、もしこれで相手がうんと言ったら帰るつもりだと言ってたし。

 ただ、同時にアイリスは言っていた。

 ファルナスは絶対にうんとは言わないだろうって。


「こ、これは……誠に申し訳ありません。喫緊の事態が発生しておりまして。やむを得ず……。平にご容赦を」


 ファルナスは先ほどの軽い謝罪とは違い、慌てて丁寧な態度で謝罪を繰り返した。

 うん、それはそうだ。

 だってファルナスは自分のビジネスを健全に見せるための印象操作を行うためにギルドの要人を招いた式典を企画してるんだからね。


 そのゲストを待たせたあげく、怒らせて式典への参加を拒否されたとなれば顧客に対するアピール効果はゼロどころかマイナスだ。

 私はファルナスから視線を外し、軌道ステーションの窓から宇宙を眺める。


 ここまではアイリスの演技指導通り。

 あとの交渉はアイリスがやってくれる。


「ファルナスさん。シンガー様はお怒りです。私達としてもシンガー様に無礼があったとあれば、ギルド統括局へ報告する義務が……」

「いえ、そこはどうか穏便に……。式典までの間、可能な限り便宜を図らせて頂きますので……」


 相手を小娘だと侮ったことを後悔させてやる、と悪い顔で笑っていたアイリスとマリエッタの言っていた通りの反応だ。

 ファルナスとしては私達を待たせて自分の格上感を演出しようとしていたのかもしれないけど、結果として私達の方が格上だということが逆に示される形になった。

 こういうのをなんて言うんだっけ。


「策士策に溺れる、ですっ」


 私の横に立っていたマリエッタが小声でそう教えてくれた。

 あれ?私、今自分の考えてたこと口にしてたっけ?


「アイリスさんのマネをして、トワさんの心を読んでみました!」


 ……マリエッタ、恐ろしい子。


 その後、ファルナスは私達を軌道ステーションの奥にあるサロンへと案内した。

 どうやら私達がいたのはただの待合室らしく、そんな所へ留め置いていたこと自体が私達を侮っていた証拠だとアイリスはわざとらしく憤慨してみせた。

 うん、ファルナス……墓穴を掘りまくってるよね。


 サロンも待合室同様に成金趣味だったけど、若干落ち着いた雰囲気になっていた。

 私達は体が沈み込むようなソファを勧められ、上流階級の飲み物だというものを提供された。


 血のような深紅の飲み物で、芳醇な香りがするね、これ。


「あら、クレヴェニアのフェイアリンですね。この香り……30年物ですか?」

「……はい。良くお判りですね」


 意外そうなファルナスとは対照的に、アイリスは優雅に微笑んでみせた。

 たぶん今のやり取りって、ファルナスは私達にはこの飲み物の価値は判らないだろうとマウントを取りに来たけどアイリスが返り討ちにした、ってとこだろうね。


 いや、どれだけ私達のことを小娘だと侮りたいんだろう、この人。

 でもきっとファルナスが何か仕掛ける度にアイリスがそれを木っ端みじんに打ち砕くんだろうな。


 私はそんな事を思いながら、何とかという飲み物を口に含んだ。

 ……美味しいね、これ。余ったら瓶ごと貰って帰ろうかな。



 しばらく雑談めいたマウント合戦――アイリスの一方的な殲滅戦だったけど――の後、ファルナスは自分がこの星で展開している「ビジネス」について説明した。


 アイリスが言ってたように、チューリングに多数生息している原生生物を獲物にしたハンティングを楽しむ富裕層向けの「健全なビジネス」なんだそうだ。

 まだ実際にチューリングへ移住してた顧客はいないらしいけど、将来的な移住を視野に何組かの富豪が既に仮契約を締結済みで、今は2組が契約前の下見を兼ねた短期滞在中らしい。

 標準的な契約プランのお値段は……たぶん、航宙船が半ダース買えるぐらいの金額。

 航宙船を軌道ステーションへ駐める駐機場代で頭を悩ませていた私には、到底手が出せないお値段だ。


「生き物を狩るレジャーとか、不謹慎ですっ」


 ファルナスが中座した際にマリエッタが憤った様子でそう言った。

 マリエッタが育った星には原生生物の類は殆ど存在していなかったらしいから、狩りという概念自体に馴染みが無いらしい。


 でも私とアイリスの故郷である資源惑星CM41F3Cは凶暴な原生生物が時々暴走して居留地を襲撃してきたし、私達もスクール時代に食用やお小遣い稼ぎで原生生物を狩りに行ったりしてたから、ファルナスの言うハンティングビジネスにマリエッタほどの抵抗感はない。

 むしろ、そういう手があったのか……と思う程度。

 まぁ、このあたりは出身の星によっても感じ方が違うんだろうね。


 しばらくして戻ってきたファルナスは私達の宿舎の用意が出来たので惑星地表へ案内するといった。

 巫女様の服は嫌いじゃないけど、歩き回るにはちょっと動きにくいからいつもの服装に早く着替えたい。


 だから宿舎があるのは嬉しいと思ったけど、アイリスはにっこりと微笑んで言った。


「ありがとうございます、ファルナスさん。ところでご存じかと思いますが、私達ギルドの人間はプライバシーをとても大事にしております。そしてこちらのマリエッタは電子戦のエキスパートなのですが……」

「……あの、その……宿舎の用意に問題があるかもしれません。少々お待ち頂けますか?」

「いえ、結構です。ギルド支部……いえ、今はまだ出張所でしたね。そちらでお世話になることにしますので。ではお先に失礼します」


 アイリスの言葉を合図に、私達はサロンを後にする。

 サロンの扉が閉まる中、背後からファルナスが小声で毒づいているのが聞こえた。


「クソっ、見栄えの良いガキを寄越して、表面だけ整えて来たんじゃないのか……」


 たぶん聞こえないと思ってるんだろうけど、私もアイリスも聴覚は人一倍良いからね。


 全部丸聞こえだよ、ファルナス。


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