#3
>> Towa
アルカンシェルを惑星チューリングから探知できない宙域に停泊し、私とアイリス、そしてマリエッタの3人はブリーズでチューリグへ向かった。
出発前にアリスが状況と作戦を説明してくれた。
私が表敬訪問の代表を務めるシンガー役。役というか、私は本当にシンガーだけど。
アイリスは私の姉でマネージャー、マリエッタは付き人の役らしい。
で、私は基本的に黙っていて時々頷くぐらいでいいらしい。
どうせアイリスの代わりに代表のふりするならお偉い幹部のふりとかしてみたかったんだけど……でも、私がやったらすぐにバレそうだから我慢した。
で、今はチューリングに向けてアイリスが通信をしているところ。
『では管理官は来られないと?』
「はい、シノノメ管理官は諸般の事情から式典へ参加を辞退されると……。申し訳ございませんが、名代として私達が参加させていたくことになります」
『名代ですか。失礼ですが、お嬢さん方はギルドでどのようなお立場ですかな?』
ホロディスプレイに映っている通信相手、ファルナスという名前のトレーダーはアイリスを値踏みするような表情で見つめている。
今のアイリスはギルドの制服姿でギルド章は見えないように服の中に仕舞っているから、ぱっと見は年若い美少女通信オペレーターか何かに見えてるのかもしれないね。
アイリスはファルナスに微笑んでみせるとこちらの様子を捉えているカメラの角度を変え、私の姿がファルナスに見えるようにした。
巫女様の服を着た私の姿が通信用のホロディスプレイに映し出されているのが見えたので、打ち合わせ通りに私はそっと頷いて見せた。
「ギルドの高位シンガー、トワ・エンライトが名代となります。私ともう一名が側仕えとして同行いたします」
『……ほう、シンガー殿ですか。ふむ、管理官ではないのは残念ですが……承知しました。ところでそちらの船は小型艇のようですが、それが噂に聞くオンブルですかな?』
「いえ、私達の船はただの搭載艇です。母艦はこちらにはおりません」
『はぁ……そうですか。……では、お三方のお越しをお待ちしております』
そう言うと通信は切れた。
アイリスはブリーズの防諜対策をオンにした後、盛大なため息をついた。
「見るからに、小娘だと侮ってましたっ!」
「だね。まぁ狙い通りだけど。あと超光速艇じゃないことも随分と失望してたみたいだし」
「ギルドに対する下心が見え見えですっ!」
「こちらも欺瞞工作を仕掛けてるから、あまり相手のことをとやかく言えないけどね」
アイリスはそう言うけど、こちらは一つも嘘はついてない。
シノノメ管理官……アリサが来ないのは事実だけど、同じく管理官であるアイリスが行かないとは言ってない。
私がシンガーなのは事実だし、名代なのも「ピアース参事官の」ではなく「アイリスの」名代だ。本人も同行してるけど。
あと、母艦のアルカンシェルは衛星軌道上にはいないけど星系内で待機してる。
うん、一つも嘘は言ってない。
ファルナスが誤解するようには仕向けてるけどね。
ブリーズが到着したチューリングの軌道ステーションは驚くほどゴージャスだった。
普通、軌道ステーションといえば実用性重視で機能的なモジュール構造になってるのが一般的だから、装飾とかは殆ど施されていないものだ。
けど、チューリングの軌道ステーションはゴージャスでラグジュアリーでプレミアムでハイソでセレブリティな感じだった。
うん、自分でも何を言ってるのか良くわからないけど。
「成金趣味ですっ!」
「まぁ、金持ち向けレジャー惑星の玄関口だからね。見学者に好印象を与えようとしてるんじゃないかな。悪趣味にしか見えないけど」
マリエッタが一言でまとめてくれて、アイリスがバッサリと斬り捨ててくれた。
うん、私も2人に同意だ。
私達がブリーズを停泊したドッキングポートはゲスト用らしく、入星ゲートや通関のようなのようなものは設けられていなかった。
たぶん、ここへ停泊するのはファルナスにとっての「顧客」になる人だから、特別待遇感を出そうとしているんだろうね。
アイリスが言うには私達が入港したのとは反対の方向に物資搬入用とおぼしきポートがあったそうなので、そちらの側にはたぶん通常の入星ゲートや通関があるんんじゃないかな。
「それにしても出迎え、遅いよね。連絡した到着予定時間通りに着いてるのに」
「舐められてる。ガツンと言うしかない」
「まぁ、ガツンと言わなくても、相手の失点は利用させて貰うけどね」
アイリスが言うように、私達が軌道ステーションに着いてからもう30分ぐらい待たされている。
アイリスはファルナスが自分の方が格上だと思わせるためにあえて待たせてるんだろうと言って、ファルナスが来た時の対応についてレクチャーしてくれた。
さらに待つこと15分。
「いや、これはお待たせして申し訳ありませんな」
軽い様子で謝罪しながら壮年の男性が現れた。
グレイの短髪に口ひげ。頬骨が張った顔には笑顔が浮かんでいるけど、目元は笑っていない。
酷薄そうな……という言葉がぴったりな感じだよね。
その男は茶色のロングコートを身につけてるけど、腰の辺りが膨らんでいる所をみると、おそらくブラスターを持ってる。
うん、あれがファルナスだ。
背後には黒服の男が2人控えているけど、こちらは公然と武装してるね。
そこまで見て取った私は、アイリスにレクチャーされた通りの台詞を口にした。
「アグスト・ファルナス、無作法が過ぎる。表敬は中止する」




