表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
419/426

#2

 ファルナスは表向き、交易商人として名を馳せてはいるもののギルド秘の信用調査情報によると反社会的勢力との繋がりが示唆されてるんだよね……。

 ニュースネットでは表沙汰にこそなってないけど、彼に関するニュースに付けられた匿名のコメントにも、ファルナスの後ろ暗い一面が見え隠れしているし。


 そんな状況だから、もちろんファルナスの側も自分の裏の顔がある程度一般に知られていることは承知しているらしい。

 その上で惑星チューリングのハンティングレジャーを成功させるために、健全さをアピールする目的で銀河的な組織であるギルドの幹部を招いたセレモニーを開催して、見込み顧客であるセレブ達への印象操作を行おうと画策しているんだろう。

 私がそう話すと、マリエッタは顔をしかめた。


「アイリスさん、このミッション断りましょうっ!」

「私も断りたいけど、断ったもうら3ヶ月ぐらい謹慎期間のびるかもよ?」

「うう、それはちょっと……」


 要するに、私が断れないのを承知で統括局はミッションを押しつけてきている訳だからね。


 ファルナスからの式典参加要請は合法的なものだから断るためには理由を開示する必要がある。

 だけど統括局も出席予定だったピアース参事官の死と、犯罪組織との繋がりは当然把握している訳で……。


 つまりそれはギルドの醜聞をファルナスに開示することは弱みを握られると言うことと同義なので、ギルド側としては代理を派遣して手を打ちたい。

 できればついでにファルナスの後ろ暗い実態を解明して、逆に弱みを掴みたい、ということなんだろう。


 いや、全くもって面倒な事に巻き込まれたものだ。



 アルカンシェルがジャンプアウトし、チューリングの恒星系に入った私達だったけど、慣例による1光日前の入港通告はまだ行っていない。

 と言うのも私がどう動くか決めあぐねていたからだ。

 これが額面通りの表敬訪問ミッションなら身分を明かして式典に参加し、終了し次第星を去ればそれで話は終わる。


 乗り気しないミッションだからそれでも及第点は貰えそうだけど、なにぶん今は謹慎開けだからね。

 行動の自由を得るためには少し得点を稼いでおきたいと言う気持ちもある。


 ファルナスの裏を暴くとなると管理官と名乗って訪問するのはデメリットも多い。

 かといってただの小娘が式典参加すると言ってもファルナスは納得しないだろう。


 どうしたものか……。

 そう思案しているとトワが声を掛けてきた。


「アイリス、パーティの服のこと」

「Tシャツはダメよ?」

「わかってる」


 トワは判ってるというけど、正直この子はパーティに着ていくような服を持ってない。

 どうして私が断言できるかといえば……トワの服は全部私が用意してるから。

 つまりこの子のワードローブの中は全て把握済みだと言うことだ。


 動きやすくて装飾のないものを好むトワにあわせて購入した服の中で、パーティに着て行けそうなものは……ミラジュミナで買った白いサマードレスか、それともリンデールで買ったフリフリのワンピースか。

 いや、ダメだ。

 未成年のマリエッタならならまだしも、トワはれっきとした成人女性だからね。礼装以外だと恥をかくことになる。

 ……まぁ、本人は全く気にしないだろうけど。


 本来ならこういう時のための礼装としてギルドの制服がある。

 マリエッタには制服を着せればいいと思ってるんだけど、トワはその制服すら故郷の星に置いてきたらしいし。


 私のイブニングドレスを貸すことも考えたけど、体型が違いすぎる。

 これ、お手上げだよね。


 トワの顔をじっと見ながら私がそう考えていると、そのトワが口を開いた。


「服ならある」

「シャツじゃなくて?パーティに着ていけるフォーマルなやつ?」

「うん。試着してくる」


 そう言うとトワはブリッジから私室へ戻っていった。

 トワの口から試着なんていう言葉が聞けるなんて、天変地異の前触れなんだろうか。

 そんな事を考えながら待つことしばし。


「じゃじゃーん」

「わぁ……トワさん、素敵ですっ!」

『マスター、マジ女神!』


 トワが身に纏っている白い薄手のドレス……それも、儀礼的で、どこからどう見てもフォーマルな衣装だ。

 マリエッタとサクヤはトワのその服装を見るのは初めてなんだろうけど、私はその服に見覚えがあった。


「……それ、巫女様の服?保管してたの?」

「うん」


 巫女様の服は私達が旅に出てすぐの頃に立ち寄ったヴェリザンで手に入れたもので、クリスタルオルガン調律師が着用する儀礼的な服だ。


 白い薄衣をドレス風に仕立てたものに蒼いC3を模したクリスタルアクセサリーが各所に配置されている、いかにも儀式的なデザイン。

 腕や胸元の布地が少なめで、露出度はやや高いのに下品な印象は皆無、というよりむしろ神々しいと感じられる。

 まさに神職の女性、あるいは女神そのものが身につけるような服だ。


 トワが言うには巫女様の服はC3の調律に適した服らしく、実用的な服以外は着たがらないこの子が珍しく自分から進んで着る例外的なものだ。

 うん、これなら立派に礼服として成立する。


 しかし……我が妹ながら巫女様の服を身に纏ったトワはいつもの5割……いや、7割増しで綺麗に見える。

 元々顔の造形は整っているのに、普段は髪型も服装も無頓着だからせっかくの素材が台無しになってるんだよね、この子。

 でもこういうちゃんとした服を着ると持ち味が発揮されるというか、トワ可愛いっていうか、もう天使っていうか……。


 心の中で『絆』が暴走しかけるレベルで妹を称賛していた私だったけど、ふとあることに気が付いた。

 そう、さっきまで悩んでいた、私の身分を隠しつつ表敬訪問に必要な品格を満たす方法を。


「トワ、その服で行こう。今回はギルドの高位シンガーによる表敬訪問ってことにして」

「どういうこと?」

「つまりトワがメインのゲスト。パーティの主役?」

「主役……つまり食べ放題」

「いや、それはちょっと違うと思うけど」


 そう、表敬訪問として訪れるのはブースタリア管理官ではなく、高位シンガーのトワ・エンライト。

 私とマリエッタはその付き人という扱いにすれば、私達の行動の自由と訪問者としての格を両立できる。


 式典で挨拶とかさせられるかもしれないけど、シンガーは神秘的な存在で俗っぽい挨拶とかはしないと言い張って、私が代理で挨拶すればなんとかなるだろう。


 くるくる回りながら巫女様の服をマリエッタ達に見せびらかすトワを見ながら、私は頭の中でそう作戦を立てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ