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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部1章『密林の歌い手』チューリング-虚猟の惑星
418/427

#1

>>Iris


『――と言うわけで、申し訳ありませんが……』

「わかったよ。じゃあチューリングの件が終わったら迎えに行くね」

『はい。よろしくお願いします。では失礼します』


 そう言うとアリサは申し訳無さそうな表情のまま通信を切った。


「アイリス。私、アリサに嫌われた?」

「いや、それはないね。何か私達には言いづらい事情があるみたいだけど」

「アリサ、水くさい」


 いや、本当にそうだよ、まったく。

 私とトワは謹慎解除の交換条件として惑星チューリングでのミッションを引き受けざるを得ない状況になった。

 当然アリサも私達に同行するものだと思って彼女に連絡を入れたんだけど、今回のミッションには不参加という答えが返ってきた。

 しかも「式典にはよい思い出がない」という良くわからない理由で。


 そう、今回私達に与えられたミッションは「支部開設祝いの式典への参加」という、ちょっと良くわからない任務だった。

 元政治家でありギルド支部長の経験もあるアリサはこの手の式典は手慣れたもので、そつなくこなせるはずなのにあえて断るということは何か事情があることは間違いない。


 ただ、その理由を誤魔化すような形で伝えてくるのは少々水くさいと思ったわけだけど。


「アリサ、困ってる?」

「んー、あの感じだと困りごとっていうより、私達に心配掛けないようにしてるんじゃないかな?チューリングのミッションが終わったら合流できるって言ってるし、数日で解決するような話だと思う」

「ほう。どんなこと?」

「そこまでは判らないかな。まぁ、合流したときに話してくれるんじゃない?」


 私とトワ、そしてマリエッタが今いる場所は惑星トリリオンの衛星軌道上。

 ウェンディを治療してくれたこの星の医師、カインズ医師を私達の家でもある航宙船アルカンシェルで送り届けた所だ。


 予定ではこのあとペレジスでアリサを拾ってからチューリングへ向かうつもりだったけど、アリサが行かないのならこのままチューリングへ直行することになる。

 元々の予定では式典とやらの前日に到着するはずだったんだけど、ペレジスへ寄らない分だけ少し前倒しした到着になりそうだ。


「それにしても、急に式典へ参加して欲しいって、どういうことなんですかっ?」

「ミッションデータによると参加予定だったギルド幹部が急死したため代理での出席を、って書いてあるね」

「急死っ!?そんなことが……あのっ、誰が亡くなったんですかっ?」

「監察部のベネディクト・ピアース参事官。マリエッタ、知ってるでしょ?」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 私が告げた名前にマリエッタは悲鳴のような声で答えた。

 うん、まあ理由はわかる。だってピアース参事官が死亡した事件にマリエッタとヒナは直接関係してたからね。


「アイリス、それ誰?」

「マリエッタが戻ってきた時に報告してくれた事件あったでしょ?恒星間犯罪の星喰み(アバドン)ってやつ。あの黒幕だった悪党だよ」

「ほほう」


 自分から聞いてきた割にトワは私の説明にあまり興味なさそうに答えた。

 まぁ、トワ的には死んだ悪党、それも自分に直接関係無い人間に興味はないということなんだろうけど。


 それにしてもピアース参事官か……。

 オンラインの幹部会議で2・3度見かけたことはあるけど、やたらアリサに突っかかってた印象しかない。

 仕事は真面目にしてそうな感じだったけど、裏で極悪な犯罪に手を染めていたとは……スゥ局長の監督不行き届き案件だよね。


 マリエッタの話だと、ピアース参事官はヒナに追い詰められて自業自得の最後を迎えたらしい。

 けど、結局彼が星喰み(アバドン)の黒幕だったということはギルド内でも秘匿され、箝口令が敷かれることになったそうだ。


 そんな事情もあるので、参事官が参加予定だった式典に代理としてギルドの要人を派遣する……というのが統括局からのミッション内容だ。

 ただ、正直この依頼には裏があると私は読んでいる。

 なにせ、星間犯罪の黒幕が参加する式典だよ?

 おそらくその惑星にもなにか犯罪の芽があって、それを調べてこいってことなんだろう。


 全くもって面倒なミッションだけど……。


「美味しいもの、出る?」

「一応パーティもあるみたいだけど。でもトワ?パーティ出るならドレス着ないとダメだよ?」

「Tシャツは私のドレス」

「そんな訳ないでしょ……」


 私はミッションの先行きを思って憂鬱な気分になったけど、トワは式典の後のパーティに興味があるらしい。

 私は犯罪の臭いするパーティなんて願い下げだけど、トワが出たいというなら出るしかないか……。


 そんな事を思いながら私達は惑星チューリングへとジャンプした。



 チューリングという惑星はつい15年ほど前に入植が始まったばかりのかなり新しい惑星だ。

 惑星の環境そのものは人類の生存に適しているけど、全域が密林に覆われている上に目立った資源はなく、おまけに危険な原生生物が多数存在している星だそうで、入植適合率も73.2%という微妙な数字になっている。


 どんな物好きが入植したのかと思ってデータを見ると、オリオン腕から戻って以来、時々ニュースネットで名前を見かけ恒星間トレーダー、アグスト・ファルナスがオリジネーターとして入植していることが判った。

 どうやらファルナスはチューリングをレジャー惑星……それも好事家に原生生物をハンティングさせるという、少々趣味の悪いレジャーを開業するつもりなんだそうだ。


「レジャー惑星は成立しない?」

「普通はね。でも、ここは超富裕層向けの定住型リゾートにするつもりらしいよ」


 亜光速で恒星間を移動するためには惑星上の時間で数年から十数年、場合によってはもっと長期間の時間が必要だ。

 だからトワが言うように、普通は他の恒星系から客を呼ぶようなリゾート惑星は周辺に人類の拠点でもない限り企画するだけ無駄なんだけど……定住型だと話は違ってくる。


 チューリングの場合なら暇とカネを持て余し、なおかつハンティングが好きな超富裕層を相手に「惑星の居住権」と「ハンティングの機会」を提供するというビジネスモデルになっているはずだ。

 正直、私達には興味も縁も無い話だけど、なにせ銀河は広い。

 ファルナスは目ざといトレーダーらしいから、こういうレジャーに興じたい金持ちの見込み顧客にアテがあって、惑星開拓に踏み切ったのだろう。


「アイリスさんっ、どうしてこんな惑星にギルド支部が出来るんですかっ?」

「んー、そこまではミッションデータに載ってないけど、ハンティングを行う惑星だから、武器に使うC3を潤沢に確保できる環境を整えたいんじゃないかな……?」


 ミッションデータには惑星の統治者になったファルナスがギルド支部の誘致に積極的であること、そして今回の式典もファルナス主導で企画されているという情報が記載されていた。

 ただ、このファルナスというトレーダーが少々……いや、かなりきな臭かったんだ……。


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