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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部序章『行こう、物語の世界へ』ヴェルデナ-再翔の惑星
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#8

 そしてさらに1週間後。


 仮設アームが接続され基本的なサイバネティック義肢のコントロール方法を会得したオリヴィエは退院、アリサの孤児院では先延ばしになっていたアリサの帰還とオリヴィエの生還を祝うパーティが開催された。


 パーティの主役はもちろんオリヴィエだ。

 孤児院にいる年少の子供達にとって、オリヴィエは正真正銘のヒーローだったから。


「『ママみたいな正義の味方』になれたね?」

「おかげで婚期は遅れそうだけどな!」


 ジョルジュの言葉に笑い、おどけた様子でサイバネティック義肢を掲げてみせるオリヴィエ。

 だが、そんな彼女の様子にどこか無理をしている気配をジョルジュは感じ取った。


 しばらく逡巡した後、ジョルジュは告げる。


「その件だが……オリヴィエさえ良ければ……いや違うな。オリヴィエ、僕と結婚してくれないか?」

「は……?アタシと!?ジェジェ兄ぃ、いっつもアタシのこと、がさつだ、女っぽくないって……」

「いや、それは言葉のあやで……」

「おい、ジョルジュ!抜け駆けか!?オリヴィエ、こんな奴よりオレはどうだ?」

「何を言ってるんだ、私の方がオリヴィエの夫には相応しいさ。さぁオリヴィエ姉さん、私の手を取ってくれ」

「いやいや、待てよ、お前ら!」


 周囲にいた同年代の「子供達」が我先にとオリヴィエに求婚しはじめ、当の本人であるオリヴィエは訳がわからずに混乱している。

 その様子を微笑ましく見ていた見ていたアリサはテレジアに言った。


「婿取り、心配しなくて良さそうですね」

「ええ、実のところあまり心配はしていませんでした。本人は無自覚でしたけど、オリヴィエは親しみやすい性格ですから年上からも年下からもモテモテでしたし」

「……そうだったんですか?」

「アリサ様、恋愛ごとに関しては本当に鈍感ですね。オリヴィエ以上に鈍感では?」

「ちょ、テレジア!?」



 そしてアリサがペレジスでの謹慎生活を開始してまもなく3ヶ月を迎えようかというある日。

 アリサは自らの専属秘書官であるヒナから恒星間通信を受信した。


 通信内容は、ヒナが追っていた星間犯罪……星喰み(アバドン)に関する内容で、その黒幕がギルド統括局監察部のトップであるベネディクト・ピアース参事官だったという衝撃的なものだった。


 ピアースはアリサと同格の二等管理官であり、ことある毎にアリサに難癖を付けてくる面倒な男だったが、まさか重大な犯罪に手を染めていたとは。

 アリサはこの通信をも盗聴しているであろう局長、メラニー・スゥに苦言を呈さずにはいられなかった。


 そしてヒナの報告に一つ気がかりな事があった。

 それは惑星アスクレピオスにおける星喰み(アバドン)に、アステラメディカの幹部が関わっていたという事実だ。


 ペレジスでのクローンマフィア製造は支社を乗っ取ったジャックの独断だとアリサは考えていたが、もしかするとアステラメディカ本社にクローン兵器開発の意向があったのかもしれない。

 ジャックをはじめ、星喰み(アバドン)に関連したアステラメディカの関係者が皆死亡しているため、事実の解明は難しいが……少し気に掛けておいた方が良いだろうとアリサは考えた。


 考え事をしながらヒナと会話していたアリサだったが、ヒナの言葉に現実に引き戻された。


『やっぱり、ワタシにとってアリサ様は「女神」です』

「ヒナ……それ、そろそろやめませんか?いえ、女神は別にいいのですが、それと同時について回るもう一つの方がどうしても……」

「ついて回るものといえば、『永遠の女帝(エターナルエンプレス)』と、あと、最近アリサ様の二つ名として流行っているのは『謹慎処分セール』ですね?」

「ママ、女帝なの?」

「ママ、処分セールなの?なら、ルーミがママを買う!」


 アリサの横でルーミとポールの相手をしながら通信を聞くとはなしに聞いていたテレジアがそうツッコミを入れてきた。

 真顔だが、間違いなくテレジアは面白がっている。

 アリサはそんなテレジアを睨み付けると言った。


「ってテレジア!?誰が女帝で謹慎処分セールですかっ!』



 さらに5日後。

 アリサの元に謹慎処分が解除されるという通達がギルド統括局から届けられた。


『今月末日を持ってブースタリア管理官、ならびにシノノメ管理官の無期限停職を解除。ただし、当面はギルドが指定するミッションを優先的に受諾することを条件とする』


 併せてチューリングという惑星で式典に参加せよというミッションが添付されていたが、アリサはペナルティを受ける事を覚悟した上で統括局に対してそのミッションを拒否すると回答した。

 なぜなら、ミッションに指定された日程が、オリヴィエの義手が完成する日付とバッティングしていたから。


 トワと再会する日が先延ばしになるのは少し寂しかったが、今は自分のことよりも娘のこと。

 アリサは恋する乙女であることよりも、母であることを優先した。

 ただ、トワとアイリスに「娘」の負傷を知らせるのはいらぬ心配を掛けると考え、ミッションに参加しない理由は「式典には良い思い出がないので」と伝えることにした。


 トワは単純にアリサと再会する日が先送りになった事を残念がったが、アイリスは何かを察したような表情を浮かべつつも何も言わなかった。


「……やっぱり、アイリスさんには隠し事、できませんね」


 通信を切りながら、アリサはそう独りごちる。

 いつか今回の事を昔話として話せるようになったら、さっきの嘘を謝ろうと思いながら。



 そしてさらに数日後。

 オリヴィエが希望していた義肢が完成し、仮設アームから正式なアームへの換装が行われた。

 いかにも機械的だった仮設アームとは違い、新しいアームはオリヴィエの肌と似た色合いで、遠目には生身の腕のように見えなくもなかった。


 オリヴィエも年頃の女性なので、やはり性能より外見重視だったかとアリサは納得する。

 だが、しばらくアームの具合を試していたオリヴィエはアリサに向き直り、サイバネティック義肢を突き出して言った。


「お袋っ、腕相撲だ!本気で頼む!」

「え?ええ、いいですけど……壊れませんよね、そのアーム?」


 アリサの外見は華奢な少女だが、長命種族テロマーである彼女の身体能力は人間のそれを軽く凌駕する。

 本気で腕相撲をすれば相手の腕をへし折るぐらいに。


 だが、オリヴィエの腕はサイバネティックアームで、そう易々と折れることは無いだろう。

 おそらく、オリヴィエはどの程度まで負荷をかけられるかを実地で確認したいのだろうとアリサは考え、腕相撲に応じることにした。


 そして……。


「ちょ、なんですか、それ!なんで表面が展開して強制排熱始まってるんですか!?ってそれ、ハイパーフォトンドライブですよね!?っていうか力強っ!オリヴィエ、ギブ、ギブ!」

「お袋に……勝った!」


 オリヴィエが義肢建造にあたって医師とテレジアに告げた希望。

 それは……「お袋と腕相撲をして勝てるようになりたい」だった。


 ギルドの病院に残るアリサのヘルスデータを元に、オリヴィエの元々の腕のサイズから逸脱せずにアリサを上回るパワーを出せるように設計されたその義肢は……最先端の戦闘用アームとほぼ変わらない出力を持つ、可変型のものだった。

 そして、そのアームは見事にオリヴィエの望みを叶えてみせた。


「テレジアっ!これ、あなたの差し金ですねl?」

「アリサ様、子は親を超えていくものです」

「これ、そういうレベルじゃないですよね!?」

「そもそも、婿取りに成功した時点でアリサ様より一歩も二歩も進んでいますが……」

「それ、あなたにもダメージ行く話ですよね!?テレジアも独身ですよね!?」


 アリサの言葉に、集まっていた「子供達」も皆声を上げて笑う。


 アリサ達が今回の一件を笑って話せるようになる日は、そう遠くないだろう。

これにて謹慎中のアリサが遭遇した事件のお話しは終了です。


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