表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部序章『行こう、物語の世界へ』ヴェルデナ-再翔の惑星
415/432

#6

 かくして30年前からたったの2割しか強化されていないジャック……いや、クローンマフィアはアリサにとってもはや敵でも何でもなかった。


 そもそもジャックの戦闘スタイル自体が集団戦とは相性が悪く、無差別に周囲を傷つける高周波ブレードという武器の特性上の数を頼んで攻めるという作戦が物理的に不可能だったから。

 そしてその事を知っていたアリサはあえてジャックを挑発し全てのクローンが出撃するように仕向けたのだ。


 半端に残して不意打ちされるよりも、まとめて掛かってこさせたほうが『処理』が簡単だと考えて。


 結果として、瞬く間に17体のクローンマフィアは殲滅された。

 血臭漂うバイオプラントで残心を決めたアリサは、茫然と立ち尽くすオリジナルジャックに冷たい視線を向けた。


「これでおしまいですか?」

「……バカな……いや、まだだ、まだだぁ!プラントがある限りアレは何度でも製造できるぅ!」


 先ほどは息子と呼んだくせに、今はアレ呼ばわりかと内心で呆れながらもアリサはジャックの言葉を待つ。

 おそらく、追い詰められたジャックが何か愚かなことを言うだろうと予期して。


「イヒ、イヒ、イヒヒヒヒィ!残念だったなぁ、アリサ・シノノメぇぇ!!見ろっ!製造プラントはウォルフライトの装甲で守られているぅ!破壊は不可能だぁぁ!!」


 そう言ったジャックが端末を操作すると、プラントの最奥に鎮座していた巨大な機材がライトアップされた。

 プラントが纏う赤黒い合金は間違いなく軍用兵器に用いられる……いや、それ以外には用いられない装甲材、ウォルフライト合金だ。

 物理的な攻撃やブラスター等のエネルギー兵器に対して高い防御性能を発揮するウォルフライト合金は医療用プラントに用いられるような素材ではない。


 つまりプラントがウォルフライト合金であるという事実そのものが、ジャックが……そして彼が乗っ取ったアステラメディカ支社が、クローンプラントを軍用兵器と見なしている証拠であった。


 だが、アリサは勝ち誇ったようなジャックの言葉に平然と応じる。


「それは残念でしたね」

「そうだ、残念だ!今回はテメェの勝ちかもしれねぇが、クローン共をもっともっと生産して、いつかはテメェを……!」


 ジャックの言葉を無視し、アリサはプラントに向かって跳躍する。

 一閃、二閃、三閃。

 空中でアリサは無造作にツクヨミを振るい、静かに着地する。


 だが、何も起きない。

 ジャックがアリサの愚かな行動を嘲笑しようとした時、アリサはツクヨミを納刀し静まりかえったプラントに鍔鳴りの音が響く。


 そしてその音が合図であったかのように――クローンプラントだったものは、無数の破片となって四散し、音を立てて崩れ落ちた。


「残念ながら、私……ウォルフライト合金でも斬れるんです」


 想いを力に換えるヒヒイロカネで打たれた神剣ツクヨミの前に、単なる装甲材でしかないウォルフライト合金が抗える筈もない。

 アリサは内心そう嘯くと、ジャックに向かって言った。


「ブレード・ジャック。あなたの罪に対する裁きを言い渡します。判決は、有罪(ギルティ)。30年前の殺人、および私の『娘』を傷つけたあなたに対する罰は……死罪です」

「ま、待てっ!……そうだ、そうだ!テメェはギルドの人間だろう!こ、これは内政干渉だっ!」


 ギルドの人間が惑星内の司法に介入することは当然内政干渉にあたる行為であり、ギルドはこれを厳密に禁じている。

 ジャックは土壇場でアリサの行動を封じることが出来たと内心、安堵した。


 だが、それに対しするアリサの答えはシンプルなものだった。


「内政干渉?何を言ってるんですか?ペレジス(ここ)私の星(・・・)ですよ」

「…なっ……!」


 アリサの言葉は自身がペレジスの出身で、この星の一員である以上「内政」への干渉にはあたらないと告げたものだった。

 だが、ジャックの受け取り方は違った。


 アリサは……自分こそがペレジスの支配者であると宣言したように、ジャックは受け取った。


 そして、おそらくこの場に一般的なペレジスの民がいれば……今の言葉をジャックと同じように理解しただろうし、その言葉に異議を唱えようとする者などいるはずもなかった。


 かくして、ジャックに女神の裁きが下された。



 ジャックが使っていた端末を手に、バイオプラントから出たアリサはテレジアと「子供達」に出迎えられた。その背後には多数のメディアも同行している。

 アリサがアステラメディカへ向かった事を多くの市民が目撃しており、孤児院やギルド、メディアにその目撃情報が多数寄せられていたのだ。


 待ち構えていた人々を代表して、テレジアが進み出て……アリサに告げた。


「アリサ様、オリヴィエの件ですが……。残念ながら……」

「……」


 テレジアの言葉に、アリサの表情が歪む。

 だが、テレジアは淡々と言葉を続けた。


「残念ながら、切断された腕の結合はできないようです。サイバネティック義肢になってしまいますので、婿取りに苦慮しそうです」

「……はい?」

「いえ、ですから婿取りに」

「……生きてるんですか?」

「ええ。処置が間に合いました。てへぺろ」


 平然とそう言ってのけるテレジアの胸に、大粒の涙を浮かべたアリサが飛び込んだ。

 しばらくテレジアの豊満な胸を拳でなぐっていたアリサだったが、ジョルジュの咳払いで我に返った。


 そういえばこの場には多数の人がいる。

 しかも、メディアも。

 アリサは慌ててテレジアから体を離すが、後の祭りだった。


 赤面しながらもアリサはなんとか威厳を保とうとした。


「と、ともかく……黒幕であったブレード・ジャック本人は裁きました。残りあと11体のクローンですが……丁度良いです、今ここで片付けましょう」


 アリサはそう言うとメディアに自分の言葉を惑星上に生中継するよう依頼した。

 アリサを取材するために現場に足を運んだメディアがその言葉を拒否するはずもない。


 テレジアは生中継するのであれば着替をしてはどうかと提案した。

 確かに今のアリサはオリヴィエの血と、ジャックの返り血で白かったドレスが赤黒く染まっている。

 自らの格好に一瞬眉をひそめたアリサだが演出効果として良いだろうと考えを改め、そのまま放送に挑むことにした。


 ペレジス全土に中継される、血まみれのアリサの姿。

 彼女はカメラに向かって微笑むと言った。


「ペレジスの皆様、ごきげんよう。アリサ・シノノメです。私は今、アステラメディカ社のバイオプラントにおります。このプラントでは違法なクローン兵器が製造されており、私はそのクローンに手傷を負わされました」


 そう言うとアリサは、自身の頬に刻まれた、未だ血を流す傷をカメラに向かって晒した。


「この行いは、アステラメディカ社によるモーリオンギルドへの加害行為であると私は考えます。よって二等管理官の権限とギルド憲章に基づき……アステラメディカとその関係者に対する全力制裁を行います」


 ギルドの全力制裁。

 それはギルドに対する攻撃や幹部クラスに対する加害行為に対する報復行動で、ギルドが保有する戦力を持って対象を完全抹殺するというものだ。


 実際、遠い過去には全力制裁によって組織や企業、場合によっては都市すら壊滅した例がまことしやかに語られている。

 つまり、アリサのこの宣言は、敵対者に対する実質的な死刑宣告に等しいものだった。

 アリサの言葉に目を見合わせるメディア達。


 だが、アリサは平然と言葉を続ける。


「今回、私を傷つけた者はアステラメディカに連なるブレード・ジャックなる犯罪者です。彼を匿っている(・・・・・・・)個人、および組織は全力制裁の対象となります。なお、ブレード・ジャックの特徴は――」


 アリサが告げるジャックの特徴は先ほど彼女が断罪したオリジナルのものではなく、クローンマフィアの特徴だった。

 つまり、アリサはクローンマフィアを保有している組織や個人をギルドの敵だと宣告したのだ。


 中継が終わり、アリサはメディアに向かって聴取率や再生数はどれぐらいだったかと確認した。

 血まみれのアリサが星都を歩いていたこともあり、住民の多くが続報を求めてメディアに注目していた。

 結果として、惑星上の半数近い人間がリアルタイムでアリサの言葉を聞き、残りの半分もネット配信された動画を次々に視聴しているとメディアは報告した。


「なら……1時間ぐらいでいいかしら」


 ジャックの端末を手でもてあそびながら、アリサはそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ