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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部序章『行こう、物語の世界へ』ヴェルデナ-再翔の惑星
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#5

 アリサが向かったのは、クリスタンティア郊外に位置するアステラメディカのバイオプラントだ。


 クローンが製造されている元をまず叩き、その後現存するクローンマフィアを殲滅。

 しかる後に誰の企てであるかを突き止める。


 激情に突き動かされてはいたが、アリサはあくまで冷静だった。

 いや、むしろ普段よりも冷静にそして冷酷に、アリサは動いていた。


 バイオプラントの入口を警備しているガードマンをツクヨミの峰打ちで気絶させ、ゲートを破壊。

 侵入者の迎撃に現れたドローンは容赦なく破壊しつつも、人間は殺さない。


 少なくとも、今はまだ。


 あえて姿を晒し、破壊をまき散らしながら、アリサはバイオプラントの中心へと進む。

 やがてアリサはプラント中央のラボとおぼしき建物へとたどり着いた。


 入口を破壊し、内部に侵入すると内部は広い空間になっていた。


 吹き抜けになった2階建ての建物には窓が無く、内部の照明が落とされているため入口から差し込む光が照らす範囲以外は視認することができない。

 見える範囲には機材や物資コンテナが整然と配置されていて、物陰が多く……ジャックが好む不意打ちに適した構造になっている。


 だが、アリサは躊躇せずにラボに足を踏み入れた。

 そして……入口からの光が差し込まない物陰へ足を踏み入れた瞬間、アリサが待っていたものが現れた。


 横合いから放たれた殺気に反応し、身を躱すアリサ。

 だが……飛びかかってきた影が振り抜いた刃はアリアの頬を掠め、美しい顔に小さな傷を負わせていた。


「イーヒヒヒヒィ!」

「……気持ち悪い輩だと思っていましたが、知性も失いましたか、ジャック?」


 アリサの言葉には答えず、ただ不気味な笑い声を上げながらジャックは高周波ブレードを起動した。

 辺りに響く不快なモスキート音に目を細めたアリサは、複製されたジャックが不意打ちのために高周波ブレードのスイッチを切っておく程度の知性は持ち合わせていることを察した。


「オリジナルはもう少し知性があったと思いましたが」

「それはどうもだなぁ、アリサ・シノノメぇぇ!!」


 アリサの独り言に答えるものがあった。

 眼前のジャックに意識を集中しながらも声のした方向へ視線を向けるアリサ。


 プラントの中央部、階上のキャットウォークにリベットの付いた白衣を纏った1人の老人がいた。

 先ほどの言葉。

 そして、異様に細長い肢体と機械に置換された両腕。

 誰何するまでもなく、アリサはそれがジャック……それもオリジナルのジャック本人であると理解した。


「まさか本人が生きているとは思っていませんでしたよ、ジャック。いつの間にアステラメディカの人間になったのですか」

「イーヒヒヒヒィ!ご立派な社員サンがよ、オレ様の腕の再生に失敗しやがったからよ、慰謝料としてこの会社、貰っちまったぜぇ!」


 どうやらジャックはアリサ達との戦いで失われた両腕をクローン再生しようとして失敗、その腹いせにアステラメディカを乗っ取ったと言っているらしい。

 その手段が暴力か、脅迫かは判らないが、非合法な方法でジャックがアステラメディカ支社の実権を手に入れ、自らのクローンを産み出したのだろうとアリサは理解した。


 まあそれもそうだろう。

 ジャックのような輩が恒星間企業に就職できる筈はないし、またアステラメディカがジャックのような危険な……そしてイカれた人間のクローンを製造する合理的な理由もありはしないのだから。


 ジャックは続けて言った。

 アリサに復讐するためにより強いクローンを産み出させたのだ、と。


 そのために長い歳月を費やし、やっと満足のいく性能のクローンが完成した時にはアリサはトワと共にペレジスを旅立っていた。

 それがどれだけ悔しかったか、と。


「だが、テメェは戻ってきたぁ!オレ様にぶっ殺されるためになぁ!オレ様も、オレ様の『息子』達も、感激してるぜぇ!」

「息子?クローンを組織に売っているくせに、どの面下げて……」

「アレはなぁ、出稼ぎだぁ!組織の連中、オレ様の事を道具だと思ってやがるからな、コロっと騙されてやがるが……息子達はいつでも組織の連中もぶっ殺せるのさぁ!」


 安全装置のない、暴発する兵器を売りつけられたと知らない組織の連中の愚かしさに、アリサは嘆息する。


「だが、テメェは組織の連中を心配する必要はねぇ、なぜなら今日!ここで!テメェはバラバラになるからなぁ!良いことを教えてやろう、オレ様の息子はなぁ、全盛期のオレ様よりも2割も運動性能が高けぇんだよ!30年前、オレ様に追い詰められていたテメェに勝ち目はねぇ!」

「2割、ですか。そうですか」


 ジャックの言葉に、アリサはクローンによって付けられた頬の傷に手をやった。


「絶望したか?なら、死ねぇっ!」


 そしてジャックのその言葉に、クローンジャックがアリサに斬りかかってきた。

 だが、アリサは高周波ブレードを回避せず、手にした刃で真っ正面から受け止める。


「ギャハハハ!学習しねぇな、テメェも!オレ様に何本剣をヘシ折られたと思ってやが……!?」


 オリジナルジャックの嘲笑は、アリサの手にした黒い刀が高周波ブレードごとクローンジャックを一刀両断したその瞬間、驚愕と共に凍りついた。

 目の前の光景が、彼の余裕を一瞬で奪っていた。


 信じられないものを見たという表情で、しかしジャックは驚愕しながらも手に持った端末を操作する。

 プラント奥の暗がりで何かが開く音が3度。

 そして同じ姿、同じ服装、同じ高周波ブレードを手にしたジャックが3体現れた。


 ジャック達が高周波ブレードを構えるやいなや、アリサは斬り込んだ。

 横薙ぎの一閃。

 下段からのすくい上げ。

 跳躍しての振り下ろし。

 黒い刃が三度振るわれたあと、そこには6つの物言わぬ物体が転がっていた。


「馬鹿な、2割増しだぞ!?それも3体もだぞ!?」

「馬鹿はあなたです、ジャック。2割増し程度で私に勝てるとでも?私があなたに苦戦した理由は武器を折られたから。そして、このツクヨミは……私の心が折れぬ限り、決して折れません。なら、あなたに勝ち目などあるはずがないでしょう?」


 静かにそう告げた上でアリサは続けた。

 残り28体全てまとめて相手をします、と。


 無論既にクローンマフィアとして売却された個体も複数存在するため、プラント内の残敵は28体ではない。

 だが、その残り全てをまとめて潰すとアリサは宣言したのだ。


 その言葉はジャックのプライドをいたく傷つけるもので、挑発に乗ったジャックは全てのクローンを解放した。


 アリサの思惑通りに。



 たしかに30年前のアリサ達はジャックに苦戦した。

 だがその後、彼女達はジャック――あるいはまだ見ぬ強敵――に備えて周到な準備を重ねていた。

 アリサとテレジアは孤児院を運営しながら平行して一日も鍛錬を欠かさず、また折られることのない武器の開発を進めた。


 その結果生み出されたのが、レゾナンスブレードだ。

 音波カッター(ソニックカッター)をベースに、本人が歌える……つまり戦う意思を持つ限り何度でも生成される輝く共鳴の刃。

 それはアリサがジャックとの戦いから得た苦い教訓に基づいて産み出されたものだった。


 ……もっともアリサが所有していたプロトタイプのレゾナンスブレードはツクヨミによって二度も破壊されたが、それは例外中の例外だ。


 アリサが帰還するまでの期間にテレジアがクローンマフィアを撃退できた理由もそこにある。

 アリサが不在の間にレゾナンスブレードは少数であるが量産され、監察官をはじめとした腕に覚えのあるギルドのブレード使いへの支給が進められていたのだ。


 引退したとはいえ未だペレジスのギルド支部に大きな影響力を持つテレジアもそのうちの1人で、彼女が望めば検証用(・・・)として量産型レゾナンスブレードの一振りが提供されることは不思議でも何でもなかった。


 そして、折れない刃とテロマー由来の力を手にしたテレジアにとっては既にジャックなど敵ではなく、単なる『処分』対象でしかなかったのだ。


 だから、それゆえにアリサも、テレジアも自分達が孤児院襲撃の際にその場に居合わせなかったことを悔いた。


 自分達がいればオリヴィエが傷つくことが無かったのに、と。

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