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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部序章『行こう、物語の世界へ』ヴェルデナ-再翔の惑星
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#4

「ブレード・ジャック?ああ、先生がこの前退治したヤツだな?警察内でも問題になってるぜ。裏社会の連中がこぞって番犬代わりに買い求めてるってな」

「番犬というより狂犬でしょうに」

「確かにアレは狂犬だな。組対の連中が何人もやられちまった……」


 悔しそうな表情でそう告げるオリヴィエ。

 組対、すなわちマフィアや犯罪カルテットを取り締まる組織犯罪対策部の捜査員達はクローンマフィアを要する犯罪組織と接触する機会が多い。

 故にジャックと遭遇して殉職してしまうリスクが高いのだろう。


 開けた場所で遭遇するならブラスターの一斉射撃でジャックを倒す事も可能だろうが、接近戦を得意とするジャックは正面から敵に向かってくるのではなく、屋内や路地裏等に身を潜めていきなり襲いかかってくる暗殺者だ。

 それ故に銃で武装した警官とは相性が悪いのだろうとアリサは思った。


 その後、話題はジャックの事からアリサの帰還についての話へ遷り、ジョルジュがアリサの帰還を祝うパーティをすると言い出した。

 オリヴィエも賛成し、どうせなら他の「アリサの子供達」にも声を掛けようと言うことで話が纏まった。

 子供達が集まることは嬉しいものの、アリサは微妙な顔をしていた。


 なぜならジョルジュが提案した会の名が「母さんの謹慎を祝う会」だったから。


「……それ、私の謹慎が長引くことを願ってませんか?」

「謹慎期間中はペレジスにいてくれるんだろ?なら、ずっと謹慎でいいじゃないか!」


 そう言って笑うオリヴィエに、アリサはなんとも言えない表情をした。

 トワ達との旅と、子供達との生活。そのどちらもアリサにとってはかけがえのないものだったから。


 「アリサの子供達」に連絡を取るというジョルジュ、そして先に孤児院へいって準備を始めるというオリヴィエと別れ、アリサ達は食材の買い出しをしてから戻る事にした。


「何人かだけでも来てくれると嬉しいのですが」

「何を言ってるんですか、アリサ様。ペレジスにいる全員が来るに決まってるでしょう?」

「……今、何人がペレジスに?」

「47人ですね」

「それ、家に入れませんよね?」

「庭でBBQでもすれば良いじゃないですか」


 こういうときのテレジアの読みは高い確率で当たる。

 ということは47人全員でなくても、それに近い数の「子供達」が集まってくるのだろうとアリサは理解した。


 巣立ってから随分と歳月の経った子供――既に老齢に近い子もいるが――には長く会っていない。

 皆と会うのが楽しみだとアリサは思った。



 だが、喜ばしい再会の場となるはずの会は、悲劇の舞台となった。


 食材を買い求めて孤児院へ帰宅したアリサとテレジアが目にしたのは、騒然とした空気に包まれた孤児院だったのだ。

 赤色灯を派手に点灯させた緊急車両が何台も停車し、警察やギルドの保安部までもが周囲を警戒している。


「何事ですかっ!」

「母さんっ!無事かっ!」


 そう言ってジョルジュと年配の警官が駆け寄ってきた。

 彼らの言葉によれば何者かが孤児院を襲撃し、一番最初に到着していたオリヴィエが子供を守ろうとして重傷を負ったと言う。

 アリサとテレジアは目を見合わせ、テレジアは孤児院の中へ、アリサはオリヴィエの元へと向かう。


「オリヴィエの容態は!?」

「……まだ息はあるが……かなり厳しい。母さん、あいつに会ってやってくれ」


 ジョルジュの言葉は、オリヴィエが生死の淵に立たされており……そして、その命が今まさに消えかけていることを意味していた。


 ストレッチャーに乗せられ、救急車へと運ばれるオリヴィエの姿は凄惨なものだった。

 つい先ほどまで元気に笑っていたはずのオリヴィエの顔は蒼白で、全身にはいくつもの切り傷(・・・)


 そして……右腕が肩口ごと切断されていた。

 一目見て出血性ショックに陥っている事がわかる。


 いや、むしろ生きているのが不思議な状態だった。


「オリヴィエ……」

「……マ、マ……」

「オリヴィエは非番で武器を持ってなかった。だが、1人でアイツに立ち向かって……子供達を逃がしたんだ」


 自身もアリサの子供である年配の警官の言葉に、アリサは白いドレスが血に汚れるのも厭わず、オリヴィエを抱きしめた。


「ありがとう、オリヴィエ。貴女はとてもいいお姉さんです」

「ママ……みたい……に……」

「ええ、私よりずっと立派よ、オリヴィエ」


 アリサの言葉にオリヴィエは薄く微笑むと、静かに目を閉じた。

 アリサはオリヴィエの頭をそっと撫でてから言った。


「……まだ息があります。急いで搬送を。なんとしてもこの子を助けてあげて」

「わかった。おい、急いで搬送だ!」

「……ジャックですね?」

「ああ、そうだ。俺たちが孤児院(ホーム)に付いたときにアイツの姿を目撃した。もう少し早く着いていれば……」


 静かな口調で問うアリサに、警官は悔しげにそう言う。

 警官やギルド保安部に勤めている「子供達」が銃で応戦したことでジャックは撤退したらしい。

 だが、アリサは早く着いていたら、奇襲によって犠牲が増えていたかもしれないと頭を振った。


 アリサは無言で孤児院へと戻り、年少の子供達の全員が怪我一つ無いことを確認した。

 オリヴィエがその身を犠牲にして幼い弟や妹達を守り切ったことを……子供達の無事を見届けたアリサは神剣ツクヨミを手に、混乱した孤児院を独り後にした。



 この襲撃を計画したのがアステラメディカなのか、それともどこかの組織かまでは判らない。

 だがアリサが帰還した事を大々的に告知した事が引き金になった可能性は高く、裏社会への挑戦が過度な刺激を与えたことで暴発を招いたのだとアリサは推測した。

 おそらくどこかの組織が突発的に保有するジャックを送り込んできたのだろう、と。


 だが、その推測は同時にテレジアやジョルジュの行動がオリヴィエの身に起きた悲劇の遠因だということでもある。

 だから、アリサはその推測を誰にも告げず、独りで決着を付けることにした。


 地道な捜査に証拠固め?


 そんなものは必要ない。

 オリヴィエのあの姿こそが証拠だから。


 黒い刀を手にし、血に染まった白いドレスを身に纏ったアリサの姿を目にしたペレジスの人々は彼女こそが女神……それも怒れる復讐の女神であると直感的に理解した。

 誰もが畏敬と恐れに頭を垂れ、アリサに道を譲る。

 だが、無言のまま暗い瞳で歩みを進めるアリサの眼中には人々の姿は映っていない。


 彼女が見つめているのは全ての元凶……アステラメディカだけだった。

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