#17
その後、ヨーゼフさんがトワがこの星に来てから牧場の手伝いを自発的に行い、ヴェルデナの生活に溶け込んでいたこと、そして私が今回の件に抗弁せず、全て評議会の判断に従うと言ったことを伝えてくれたそうだ。
それが最後の駄目押しになって……。
「では、今回の件は……?」
「うむ、トワちゃんの行為は評議会として全会一致で問題なしと判定された」
「ありがとうございます」
「なに、礼を言うのはこちらじゃて。それとな、評議会で追加の動議が出されたんじゃ。今後、儂らが医療とどう向き合うべきかについて、な」
ヨーゼフさんは、ヴェルデナの評議会は医療を完全に解禁することはまだ文化的な対立を招きかねないとしつつも、希望する人に対して医療が与えられる体制を少しずつ整えていく形で議決が行われたと教えてくれた。
それはつまり……トワがウェンディちゃんのために動いたことで、この星で救われる命が今後増えるかもしれない、ということだ。
もちろんトワの行動はそんな先を見据えた戦略的なものじゃない。
あの子は自分の心の信じるままに動き、結果として星の行く先を良い方向へと修正してゆく。
いつものことだけど、やはりあの子が持っている力は凄い。
私は改めてそう思った。
>>Towa:2 Weeks Later
ウェンディが目を覚ましてから2週間後。
大きな事件は起きなかったけど、それでもこの間にも色んな事があった。
まず私は週の半分はウェンディの所にいて、残りの半分をヨーゼフさんの牧場で過ごすという、通い妻のような生活を続けていた。
「いや、通い妻ってそういうのじゃないからね?」
「また心を読まれた」
ウェンディのリハビリはゆっくりと、でも確実に進んでいて、今はまだ車椅子生活だけど病室の外にも出られるようになった。
足の機能はまだ完全じゃないけど、何歩かなら歩けるようにもなっている。
最初はカインズが中心になってリハビリ指導していたけど、1週間もするとカインズは手も口も出さなくなって、エリーシャを中心とした若いスタッフがウェンディをサポートしてくれていた。
カインズはいつも通りくわえタバコで他の患者さんの病室をフラフラと歩き回り、世話係の職員に二言三言伝言をするということを繰り返していた。
何をしているのか本人に聞いても教えてくれなかったからエリーシャに聞くと、どうも病気の診断とこの星の技術力でできる治療法について助言をしてまわっていたらしい。
なんだかんだ言って面倒見がいいんだよね、カインズ。
アイリスはこの間、村に籠もってペンパルとのやり取りを続けていた。
私がウェンディに会いに行ったように、一度だけ興味半分でヴェルデナ在住の熱心なペンパルに会いに行ってみたらしいけど、なんでも酷い目に遭ったと言っていた。
「いや、その話はもう忘れたいから……トワも忘れて?」
「縦巻きロールのお嬢さんの事、忘れるの?」
「お願い、忘れて……」
私は姉のことが好きなので、アイリスがただのペンパルだと思って会いに行った縦巻きロール髪のお嬢さんに熱烈にかき口説かれ、逃げ回るのに大変だったことは忘れることにした。
そして6日前にマリエッタが来た。
確か3ヶ月前にダンディライアンで別れた時はヒナと一緒に孤児院の院長にお仕置きをしに行ったと聞いてたけど……なんでもすごい犯罪と戦ってきたらしい。
「えっへん!マリエッタはがんばりましたっ!」
「ヒナと行動させれば安全だと思ったけど、逆に無茶苦茶危なかったとはね……」
「でもっ、ヒナとお友達になれましたっ!」
マリエッタは明るくそう言うけど、アイリスに聞いたところではかなり悲しい目や辛い目にもあったらしい。
でも、それを乗り越えてマリエッタは一回り大きくなって帰ってきた。
……主に物理的に。
うん、3ヶ月で少し背が伸びて、バストも少し大きくなっていたんだ。
解せぬ。
そして私は帰ってきたマリエッタが知りたがっていた「牛乳の神秘」を見せることにした。
といっても子牛の出産がそうタイミング良くあるわけでもないので、別の神秘だ。
「生フルーツ牛乳……確かにすごかったですっ!あれは牛乳の神秘ですっ!」
「うん。生はすごい」
「……いや、あれ生フルーツ牛乳じゃなくて、ミックスジュースだよね?」
アイリスはそう言うけど、生のフルーツと絞りたて牛乳をミキサーで混ぜたものは誰がなんと言おうと私的には「生フルーツ牛乳」だ。
ノイシュさんが教えてくれたそれは、残念ながら保存が利かないらしくてアルカンシェルでは飲めないけど……。
これから牧場のある惑星へ立ち寄ったら必ず飲みたいと思うぐらい、イケる飲み物だった。
うん、まさに牛乳の神秘。
そしてマリエッタが戻ってきたタイミングで、ギルドからの辞令が届いた。
『今月末日を持ってブースタリア管理官、ならびにシノノメ管理官の無期限停職を解除。ただし、当面はギルドが指定するミッションを優先的に受諾することを条件とする』
そう書かれていたメッセージをアイリスは眉をひそめて読んでいた。
たぶん、わざわざ条件を付けてくるということは、統括局……というかメラニーは面倒なミッションを押しつけてくる気満々なんだろうって言ってたけど……でも、謹慎が解けるのは良いことだと私は思った。
だって、アイリスは何も悪いことしてなかったからね。
そして明日がその謹慎解除日。
だから今日は私達がヴェルデナで過ごす最後の一日になる。
統括局からは既にチューリングという惑星でのミッションが来ているとアイリスは言ってたけど……まぁ、ミッションの話は明日でいいだろう。
私は朝からウェンディの所へ行って、星を発つことを伝えた。
もちろん、ついでにカインズを連れて帰るのも忘れてないよ。
ウェンディには少し寂しい目をされたけど、これからもペンパルとしてやり取りは続けるし、ウェンディが普通に歩けるようになったらどこかの星へ一緒に行こうという約束もしたし。
「トワ、わたし冒険できる星がいい!」
「冒険……どんな?」
「おとぎ話みたいなところ!」
「……探しておく」
おとぎ話のような冒険というのがどんなものなのか私には想像が付かないけど、残念ながらこれまで行った事のある星にはウェンディの好みに合うものはなさそうに思えた。
でも、星々を旅している間にいつか彼女の希望に合う星も見つかるだろう。
そうしたら私はヴェルデナへ戻ってきて、ウェンディを星の海へ連れ出すんだ。
そう、ウェンディがベッドの上で思い描いていた、物語の世界へ。
これにて第3部序章は終了、トワ達の旅が再び始まりました。
次回からはペレジスで謹慎生活を送っていたアリサが遭遇した事件に関するお話しを、全8回と少し長めの幕間としてお届けします
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