#14
「まずいな……ナノマシンのエネルギーが残り僅かだ。電気ショックはあと2回が限界か……」
カインズが漏らした言葉は、ウェンディにもう後が無いことを意味している。
どうしたらいい?
どうしたらウェンディを救える?
私は考えけど……解決策を思いつかない。
でも、何かを言わないといけない。
何かを……そんな思いに突き動かされ、私は無意識のうちに口を開いていた
「2回分を……1回で放出して」
「……何?そんなことしたら修復した神経細胞にダメージが……」
「蘇生できないと意味が無い」
「……いや、それはそうだが……」
「さっきから小さい反応は出てた。なら、大きなショックならきっと」
私の言葉にカインズはモニターを睨みながら舌打ちした。
先ほどから小さな反応が出ていたのはカインズも見ていたはずだ。
「……チッ、たしかに理屈は通ってるな。電気刺激に対する反応が出てるなら、神経伝達は機能してるはずだ」
「だったら……!」
「一度のショックで負荷がかかりすぎれば心筋が持たねぇ可能性もある。だが安全策じゃ助からねぇのも事実だ。……くそっ、患者の命をチップにした賭けは俺の主義じゃねえんだ!」
そう言いながらも、カインズは手早くナノマシンの調整を行う。
しばらくして彼は口を開いた。
「2倍はリスクが大きい。だが1倍じゃ効果はねぇ。なら……まず半分の出力で放出して感受性を上げる。その後に1.5倍で放出して蘇生を図る。それならダメージを最小限に留めたうえで、効果を最大限に高められる」
「うん」
「……ご両親の意思も確認しておいたら?」
これまで黙っていたアイリスの言葉に、カインズは視線で両親の意志を問う。
2人は目を見合わせて頷くと、お願いします、と静かに言った。
カインズは最後のショックはマニュアル起動にしてあると言った。
コンソールのスイッチを押すと、ウェンディの運命が決まる。私は、自分が提案したことだから責任を取って自分がスイッチを押すとカインズに申し出た。だけど……。
「悪いな、トワ。それは無理だ。これは博打じゃねぇ。あくまでも医療行為だ。なら、その行為の結果は医師である俺が引き受けるべきものだ。確かにこのアイデアはお前のものだが、それを最終的に承認して実行に移すのは俺だ。だから……万が一の事があっても、お前に責任はないし、気にする必要もない」
「……うん」
「よし、良い子だ。じゃあウェンディを見ててくれ」
カインズは優しく微笑むとそういった。
そして、カインズが操作卓に手を伸ばし……ウェンディの体が小さく二度跳ねた。
心電図に反応は無い。ダメだったのか……私が、そう諦めかけた時だった。
平坦だったラインが乱れた波形を描き……そして不規則な波形が心電図に表示される。
動いた!
ウェンディの心臓が動いてる!
私は嬉しくなってつい声を上げてしまった。
「カインズ!」
「まだだ、まだ鼓動が弱すぎる。エリーシャ、渡してあった強心剤をくれ!」
「は、はいっ!」
だが、カインズはまだ安心できないという。
カインズの言葉にエリーシャが持っていた鞄の中から無針注射器を取り出した。
カインズはジェットインジェクタを受け取ると言った。
「強心剤を打つなら普通は上腕部か太股だ。だが、今回は時間が惜しい。かといって心臓に近い胸部や首に打つのはリスクが高い。そしてウェンディの場合は皮下脂肪が少ない。なら、この場合の最適解は……腹部投与だ」
「は、はいっ!」
あれ?もしかしてこれ、エリーシャに強心剤の投与方法を教えてる?
昨夜は医療を教えないって言ってた気がするけど……。
私がそんな事を思っているうちに、カインズはウェンディの体を覆っていたシーツをまくり上げ、寝間着の腹部を開く。
そして、痩せた腹部に押し当てたジェットインジェクタのトリガーを一気に引き絞った。
不安定だった心電図の波形が一瞬大きく反応し……そして、穏やかな波形に戻った。
ヘルスモニターに表示されている他のバイタルデータも、黄色や赤で示されていた表示がどんどん緑に置き換わっていく。
「……ウェンディ、助かったの?」
「ああ、どうやら上手くいったらしい。……なぁ、トワ?」
「なに?」
「礼なら助かってからにしてくれ……って言ったよな?」
「……ありがとう、ウェンディを助けてくれて」
「どういたしまして」
そう言って笑うカインズの笑顔は、とても晴れやかだった。
心臓の鼓動が安定してから20分ほどが経過して、ウェンディは目を覚ました。
最初にカインズが声を掛け、ウェンディの意識レベルを確認する。
ぼーっとしていたウェンディだったが、カインズの声に反応し、視線を向けた。
「俺の声が聞こえるか?返事はしなくていい、聞こえていればそっと瞬きをしてくれ」
ウェンディは少し不思議そうな表情を浮かべたけど、素直に瞬きをした。
「よし、じゃあ声を出せるか試してみようか。ゆっくりと、小さな声でいい。自分の名前を言ってみてくれ」
「……う……えん…でぃ」
「よし、上出来だ」
カインズがそういった瞬間だった。
「「ウェンディっ!」」
ベッドサイドに控えていたウェンディのご両親がウェンディに抱きついた。
2人とも滂沱の涙を流している。
うん、そうだよね。
だってもう助からないと諦めていたウェンディが目を覚ましたんだから。
ご両親の言葉にウェンディが頷きながら返事をしているのが聞こえる。
……私も、そろそろ混じって良いかな?
そう思ってカインズの方を見たけど……すでにカインズは部屋にいなかった。
よく見るとアイリスもいない。
まぁいいか。そう思って私もウェンディの近くへ歩み寄った。
「ウェンディ」
私の呼びかけにウェンディがこちらを見る。
そして彼女は言った。
「……誰?」
……そうか、私は昏睡状態のウェンディを見ていたから顔見知りの気分でいたけど、彼女の方は私の顔を見たことが無かったっけ。
そう気が付いた私は、ウェンディに言った。
「トワ。あなたのペンパル」
「トワ?ほんとに?」
「うん。おはよう、ウェンディ」
……たぶん、今。
私は……笑えていると思う。




