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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部序章『行こう、物語の世界へ』ヴェルデナ-再翔の惑星
399/431

#7

>>Towa


 少し無茶なドッキングだったせいでアルカンシェルの船体が揺れたように感じた。だけど、今は時間最優先だから、アルカンシェルには後で謝っておこう。ブリーズのハッチが開き、アルカンシェルのブリッジ内にサクヤの立体映像が映し出されているのが見えた瞬間に私は叫んだ。


「アルカンシェル、緊急発進。最大戦速で。目標、惑星トリリオン」

『ラジャー、目標トリリオン……ってマスター、どしたの?食い逃げでもして追われてる?』


 軽口を叩きながらもサクヤは既にアルカンシェルを浮上させてくれている。私は手短にサクヤに事情を話した。助けたい人がいるから、急いでいると。サクヤは小首をかしげて私の話を聞いていたけど、わかったと一言告げた。


『時間最優先ならショートジャンプ併用する?行きと帰りで合計31時間ぐらい短縮できるよ?』


 ショートジャンプを恒星系内で使うと衝突事故の可能性があると聞いたけど、大丈夫なんだろうか。31時間も短縮できるのは嬉しいけど、事故ってナノマシンを持って帰れなければ意味は無いんだけど……。そう思ってサクヤに確認すると大丈夫だという。サクヤはいつも通りに気楽な口調だから安請け合いかと聞いたら、不満げな顔をされた。


『違うしっ!暇だったからアーちゃんに手伝って貰って余剰処理能力を高次予測用に最適化したんだよ!』

「高次予測?」

『そそ。アリサさんの予知能力みたいなの。すごいっしょ?』


 アリサの予知能力に似た機能?続いてサクヤが説明した内容は専門的すぎて良くわからなかったけど、観測したデータからあらゆる状況をシミュレートし未来を予測することができる、らしい。サクヤが得意げに言うにはこちらの攻撃は当たりやすく、相手の攻撃は避けやすくなるし、ショートジャンプ時に他の船にぶつかる確率も限界まで引き下げられるのだとか。


「アルカンシェルに武器は付いてない」

『攻撃は例え話だよっ!ともかく、高次予測できるようになったから、ショートジャンプもバッチ来いってこと!』

「良くわからないけど、わかった。じゃあやって」

『おっけー!』


 気軽な調子でサクヤは応え、アルカンシェルは通常であれば1日弱掛かる通常ジャンプが可能な宙域までの距離を一瞬で跳躍(ショートジャンプ)し、そこからさらにトリリオンのある恒星系へと連続ジャンプした。


 目的地である恒星系は船の行き来が多い事もあってトリリオンの衛星軌道上まで直接ジャンプすることは出来なかった。それでもサクヤが限界距離だという0.3光日のところまで跳んでくれたおかげで随分と時間は節約できた。けど、トリリオンのポートコントロールから、通例になっている1光日先からの交信が遅いと文句を言われた。それは判ってるけど、今はそれどころじゃない。


「ポートコントロール、治療用ナノマシンが欲しい。どこで手に入る?」

『ナノマシン?そりゃ、総合医療(メディカル)センターへ行けばあるだろうが……おい、その前に入港手続きを――』

「サクヤ、手続きお願い。私はそのセンターに連絡する」

『はいよー。コントロール、ごめんねー。うちのマスターちょっと立て込んでて。船籍コード送るから確認ヨロー』


 サクヤが入港手続きを代わりにしてくれている間に私は総合医療センターという所へ通信を繋ぎ、セレノイド症候群を治療できるナノマシンが欲しいと連絡を入れた。だけど、通信相手の反応が悪い。私の伝え方が悪いのかと思って、再度説明したけど……


『いえ、お話はわかりました。ですが、その、星外の急患用の治療処方というのは無理かと……』

「無理でもいい。取りに行くから用意して」

「ええっ、ですから無理なんですけど!」


 何が無理なのかはわからないけど、今のウェンディには押し問答で浪費する時間は無いはずだ。そう思った私は衛星軌道上から強引に大気圏突入を図り、そのままナノマシンがあるという総合医療センターを目指す。

 上空から見えた総合医療センターの建物はとても大きなビルで、単なる病院ではなく研究や薬の開発が行われているのだろうと思った。ウェンディが寝かされていたヴェルデナの療養院とは大違いだ。ここならウェンディを助けるための薬(ナノマシン)が手に入る。私はそう確信した。



>>Iris


 カルティアとの通信を終えた私はヨーゼフさんのお宅へと戻り、わかったことをウェンディちゃんの父親とヨーゼフさんに説明した。セレノイド症候群という難病のこと、その症状や治療のためには特別な治療法が必要であること。私の言葉にヨーゼフさんの顔は曇り、ウェンディちゃんの父親は絶望の表情を浮かべる。


「難病ではありますが、その治療方法トリリオンという惑星にあるそうです。おそらくトワが取りに行くと言い出すと思いますが……」

「トリリオンじゃと?……皮肉な事じゃな」


 私がトリリオンという名を出した瞬間、ウェンディちゃんのお父さんは崩れ落ち、ヨーゼフさんは沈痛な表情を浮かべてそうこぼした。ヨーゼフさんの言葉の意味も、ウェンディちゃんの父親が崩れ落ちた理由も、私には良くわかる。

 このヴェルデナは科学文明を嫌った人達が移住した惑星。なら、その文明を嫌った人達が元々住んでいたのはどこか?その答えが惑星トリリオンだ。つまり、ヴェルデナの人達はトリリオンを嫌って出てきたというのに、ウェンディちゃんの命を救うためにはトリリオンを頼るしかないと言う皮肉。そして……トリリオンはヴェルデナから10.1パーセク離れた所にある。通常であれば互いに干渉しづらい程よい距離(・・・・・)だが、今はその距離が絶望を招く。なにせ、いますぐヴェルデナからトリリオンへ薬を取りに行っても……亜光速航行では往復で66年もの時間が掛かるのだから。


 無論、私達の船(アルカンシェル)ならもっと早くトリリオンに到達することはできる。だけどウェンディちゃんの症状を聞く限りでは既に余命は長くて数日、早ければ今にも命が失われるかもしれない。超光速船を持ってしても間に合うかどうかわからない状況下で迂闊に「間に合いますよ」とも言えず……私は沈黙することしかできなかった。


 そして重苦しい沈黙の中、ヴェルデナのポートコントロールから「アルカンシェルがコントロールの指示を無視して緊急発進した」という連絡が入った。トワがトリリオンへ飛び立ったことはわかったけど……あの子は間に合うだろうか。

 そう思いながら、私はポートコントロールに平身低頭する勢いでトワのルール違反を謝った。


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