#10
>>Towa
アルカンシェルのブリッジに独り残された私は離れていくブリーズを見送りながら得も言われぬ孤独感を感じていた。
目的も無く、ただ旅を続けるためだけに独りで宇宙を彷徨っていた、以前の自分を思い出して。
昨日までアルカンシェルにはアイリスも、アリサも、マリエッタも、ナミもいた。なのに、今は私だけだ。忘れていたはずのどす黒く冷たい悲しみが、心の奥底でわだかまっているのを感じる。
今からブリーズを追いかけて、私もお姉ちゃんと一緒に……。そう思った時だった。
『マスター、お風呂沸いてるよ?2人が帰ってくるまでに一風呂浴びといたら?』
……サクヤがのんびりとした声でそう言うのが聞こえた。そうだ、私は1人じゃ無かった。サクヤがいてくれるし、アルカンシェルだっていてくれる。
「サクヤも入る?」
『マスター、私ホログラフィックだよ?それにブリッジから出ちゃダメって言ったのマスターでしょ?』
「今は許す。お風呂、はいろ?」
『まぁ気分だけなら味わえるかなー?』
サクヤと話していると心の奥底の冷たい悲しみは自然と退いていった。誰かが側にいてくれる事のありがたみを私は改めて実感した。
お風呂に入り、サクヤと雑談し、アリサが作り置きしてくれていたご飯を食べて……少しお昼寝をして。
時間を見ると、アイリス達が出て行ってから7時間が過ぎていた。でも、まだ2人は帰ってこないし、連絡も無い。
少しずつ、また不安が頭をもたげてくる。
「サクヤ、いざとなったらオラクルへ行く」
『ごめん、マスター。アリサさんから48時間は待機って言われてるんだよ。だからあと41時間はガマンして?』
「……長い」
『じゃあさ、ホロムービーでも見ようよ!マスター、ホワイトタワーのシリーズ好きっしょ?1作目から一気に見てたら時間なんてあっという間だよ!』
サクヤはそう言うけど、ホロムービーだって独りで見ていたら面白くない。もちろんサクヤは一緒に見てくれるだろうけど……。
私があまり乗り気で無いことに気付いたのか、サクヤはちょっと困った顔をしている。元機族なのに感情表現うまいよね、サクヤ。
そんな事を思いながら立体映像のサクヤを見ていた時だった。何かに気付いたようにサクヤが顔を上げる。
『マスター、ホロムービー見なくても済みそうだよ!ブリーズの信号が近づいてる!』
「アイリス、帰ってくる?」
『ちょっと待ってね……あれ?通信入れてるけど応答無いね……』
ブリーズが戻ってきてるのに通信に応答が無いと聞いて私の不安は一気に膨らんだ。
何かあったんだろうか?
急いでブリッジに上がり、船窓からブリーズが見えないか目をこらすけど……まだブリーズの機影は見えない。
「アルカンシェル、ブリーズ見える?画像出して」
[Yes, Mam]
『マスター、アーちゃんじゃなくてアタシに言ってよ!』
「ごめん、ついクセで」
そんなことを言っているうちにアルカンシェルがブリーズの映像をホロディスプレイに投影した。
ガラスキャノピー越しに見えるのは……アイリスとアリサだ。2人とも無事だけど、難しい顔をしているように見える。
「アル……サクヤ、通信繋いで」
『おっけー!』
「アイリス、アリサ。聞こえる?」
『ただいま、トワ。聞こえてるよ。でもごめん、戻るまで話は待ってくれる?』
「わかった。無事ならそれでいい」
2人とも戻っては来るみたいだけど、何かあったのは間違いないようだ。でも何があったんだろう?
やがて接近したブリーズがトラクタービームでアルカンシェルに引き寄せられ、艦首に接続するプロセスが開始する。
いつもならすぐ終わるはずのドッキング処理がなかなか終わらないことにヤキモキしながら、私はブリッジで待つことしかできない。
『ドッキング処理完了、ハッチ開けるよ!』
サクヤの声とともに、ブリッジとブリーズのコクピットを遮っていたハッチが船内に収納される。既にシートを立っていたアイリスとアリサの姿が見えた。
「アイリスっ!アリサっ!」
「ただいま、トワ」
「トワ様、遅くなって申し訳ありません」
2人とも、優しく私を迎えてくれる……ううん、迎えてるのは私だね。帰ってきた2人をちゃんとお迎えしないと。
「2人とも、お帰り」
私は、そういった自分の言葉を耳にした途端、我慢できなくなってアイリスに抱きついていた。
しばらくアイリスは黙って私の髪を撫でてくれていた。少し落ち着いた私はアイリスへの抱擁を解いて……今度はアリサに抱きついた。……アリサの心臓、ずいぶんとドキドキしてるけど大丈夫だろうか。
「トワ、アリサの心臓が持たなさそうな音が聞こえるから、そろそろ解いてあげて?」
「いえ……ここで倒れるなら本望です……」
「いやいや。ほら、トワ?話もあるからラウンジ行こ」
アイリスは少し疲れたような表情でそう言うとラウンジへ降りていった。私はまだアリサに抱きついたままだったけど、アリサも無言で頷いたので2人でアイリスの後を追う。
「アイリスさん、お茶でもいれましょうか?それともお酒にします?」
「ちょっと飲みたい気もするけど……トワに説明するまではお茶のほうがいいかな」
「わかりました」
そう言うとアリサはキッチンへと向かって言った。
なんだろう、やっぱりメラニーに怒られたんだろうか。私はアイリスに何があったか聞いてみたけど、アイリスはいつもと違って即答せず、しばらく考えた後で口を開いた。
「んー。最初から順番に話した方が良いかな」
「うん。順番に聞く」
私の答えにアイリスは頷くとオラクルであった事を話してくれた。
なんでもオラクルに到着した2人は保安部のスタッフに半ば連行される形で連れて行かれたらしい。
なにそれ、酷くない?手荒ではないけど、管理官に対する態度ではなかったとアイリスは少し憤慨していた。
で、連れて行かれた先は何度か行ったことのある会議室で、中にはメラニーが待っていたらしい。そして……。




